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smashing! すべてはここにあるもの

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。


定期的に焚き火が見たくなる。夕診後夕食を終え風呂に入り、晩酌でもと支度にかかろうとした佐久間を、喜多村は焚き火をしないか、と持ちかけたのだ。

野外駐車場という名の庭、かなり広いので佐久間家の各アクティビティに持ってこいの場所。お隣さんとも距離があり、小規模ならBBQなんかも楽しめる。簡易テーブルとデッキチェアを並べ、コンパクトな焚き火台を設置。あと蚊取り線香も。この時期からのモスキート達は本気出してくるから用心しないといけない。

ぱちぱちと薪の爆ぜる音。ちょっと炙って食べようか、スライスしたハムと万願寺とうがらし、そして今日はおにぎりを焼くことにした。米あんまりやんないから新鮮だな!ご飯の焦げる匂いに喜多村が嬉しそうだ。焼酎のお湯割りを手に、佐久間は酒の肴の焼き加減を真剣に見ている。

テーブルに謎の腕とマグボトル。何スープ????な喜多村に佐久間が不敵に笑う。これこうやると最強、佐久間は焼けたおにぎりを軽くほぐし、マグボトルの中身を注ぐ。薄味の出し汁。おにぎりの中身はネギ味噌。まさか見越して?佐久間はあれかエスパーなのか、今日ここで焚き火で物食うの予言してたんか。

それでも美味ければ全然いいんだ、喜多村は気を取り直し出汁茶漬けを啜る。正直こんな美味いもんないわ、美味しいもの食べた時の常套句。彼岸入りして少し夜は肌寒くなったけど、焚き火の側はかなり暖かくて助かる。お湯割りに出汁茶漬けに、逆に汗ばんでくるなあ、佐久間は途中からロックに変更し、焼いたボンレスハムを思い切り齧る。

焚き火に照らされた二人の顔は明るくて、隣同士緩くつなぎ合わせた手と手を、確かめるように時折揺らす。火の粉の舞い上がる先は生憎の曇り空、それでもその先に広がる星の海があることを知っている。

ないと思うものも、ここには全部あるという確信に満ちた、幸せ。


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