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佐久間イヌネコ病院 luv.52 うらがわのかおで

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なにかの謝恩会?送別会?何だったかは思い出せないけど、オレと伊達さんが「そう」なるきっかけがあった。その時はまだ雲母さんとも出会ってなくて、俺は世話焼きの後輩として伊達さんとよく一緒にいた。一時期色々あってか、伊達さんを放っておけなくて、送り迎えやら飯やら、つい世話を焼きすぎていた。距離を詰めすぎていた。今思えば。

大学のお偉いさんが集まってのなんとか会。早く終わらせて飯食いに行こ。そう言って連れていかれた街中のお高いホテル。二人して今日は粧し込んだ格好。よかったあサイズギリ合って。オレのスーツ姿見て伊達さんが心なしか嬉しそうだ。

広いパーティ会場では、院生の伊達さんは知り合いの教授やなんかと話し込んでいた。オレは特に人見知りでもないし、目上の人と話すのも嫌いじゃない。だからこういうところもけっこう楽しめる。それで伊達さんはオレを連れてきたのかもしれない。待つ事が苦にならないから。

賑やかな場に似合わず低く響くのはジャズ。壁際でそれとなく伊達さんを見守るオレと、向こう側でグラスを傾ける伊達さんの視線が合った。

視界が弾け、音すら消え失せた。あの目に捉われたほんの一瞬。

狭いトイレの個室。気づいたらオレは伊達さんを、噛み付くように貪っていた。どうやってここへ連れ込んだのか覚えがなかった。呆然と脱力しかけたオレの両脚の間で、伊達さんはちょっとだけスーツの皺を気にしつつ、低く笑ってオレの唇を啄む。

ここじゃないとこが、いいねえ。

請われるまま動く体。何も考えられなくなった頭。
オレは伊達さんの事、全部知っていると思っていたんだ。

その時までは。



/設楽泰司

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佐久間イヌネコ病院









(魔神先生)


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