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smashing! なぞのあれがふにおちて

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。水曜は午前までです。


佐久間は商店街での久々の将棋教室を終え、帰路に着くことに。今日は生徒さんが二人と少なかったので、早めに上がれたのだ。二人の差しの勝負を横から口出す感じで、臨場感があって面白かった。もうあの人たち俺いなくても楽勝なんじゃないかな。それでも佐久間の教え方がいいとか、鬼丸ちゃんがいないとさみしいとか。口八丁手八丁のお父さんたちのお強請りには叶わない。

昼下がり、平日の今日は流石に商店街も空いていて、佐久間の気に入りの台湾料理店も人が少ない。梅雨時の晴れ間、ちょっとだけなら寄り道していいかな。小腹の空いた佐久間はいい匂いの誘惑に負け、台湾料理店に。店長の揚が佐久間を見て、注文も聞かず早速色々出してきた。はい院長いつものね。ルーロー飯にイカ団子、サービスと言って付いてきたのはシンハービール。

今日は一人?店長は料理を並べながら、佐久間に酌をする。俺将棋教室だったんだよ。佐久間の言葉に、院長大人気だからなあ。笑いながら厨房へと消える。喜多村は今頃、昼食と病院の後片付けを終えて、友人で庭師の小越優羽が貸してくれた新しいゲームをプレイ中なはず。こういう時は「相手を待たせてる」感が少なくなるので、ちょっと気楽に過ごしたりもできる。おそらくお互い。

一人黙々とルーロー飯を食べる。喜多村とここのは本当に美味しいとよく話題になる。甘味が丁度いいのだろう、さっぱりとしているがちゃんとコクが柱になっている。揚げたてのイカ団子もビールにとても合う。昼間から呑んじゃったら家帰って呑むのアリだよな。謎の納得をして、佐久間がテイクアウトを頼もうとすると、既にレジの側に袋に入れられていた。店長仕事早い。

一人だと長っ尻にもならず20分くらいで出てきてしまう。どうも自分にはリラックスとかゆっくりするとか、そういう気持ちの遊びのところがちょっと少ないんだろうな、土産の袋を手に佐久間はのんびりと歩く。あの店には水槽があって、佐久間の好きなミズクラゲが浮いたり沈んだりしているのだが、どうやら一人の時に眺めても楽しめないようだ。よくカップルの女子がカワイースゴーイキレェー云々言ってるのはこういう感情なんだろうか。

未知の感情はいきなり腑に落ちることもある。理解できないと思っていたことがある日こんな具合に自分の中で落ち着く、それを改めて感じて、佐久間はなんだか可笑しくなって、喜多村にメールを打つ。

「千弦がいないとカワイースゴーイキレェーてなんないな」

この数分後。すごい勢いで病院方面から商店街を疾走してくる美丈夫を、佐久間は目の当たりにすることになるのであった。


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