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007/だいすきを突き詰めて

ウチから歩いてすぐのところに美味しい和菓子屋さんがある。近いからこそなかなか寄れない、ってあるよね。鬼丸がよくそこのお菓子を差し入れてくれる。そういえば最近忙しくて鬼丸んちにも行ってないな。卓は忙しいと食わないから、ウチの優羽とおんなじこと言うんだよね。年下のあの兄ちゃん達。

最近、不動産屋のきんちゃん社長の手伝いで、真面目に宅建なんちゃらやってたんだ。でも忙しいのももうすぐ落ち着きそう。今日は久しぶりにお昼で帰れるから、あの和菓子屋さんに寄ってく。角を曲がると、あれ、茶髪癖っ毛が二人。鬼丸と伊達くんだ。

うわあすぐるん久しぶりい、伊達くんさちょっと見ないうちになんか若返った?そもそも俺20代寄りなんよ、しれっと返すけどさ、若返りとか年齢不詳とかは俺の専門なんだからね!そしたら、悪かったから奢るよう、何が悪いのかわかんないけどゴチはラッキー。得したな卓、鬼丸と二人でこっそりハイタッチする。

通りを少し奥に入ったとこにある少しお高めの鰻屋さん。伊達くんはヘラヘラしながら俺らを連れて、特上3つ頼んだ。並でいいよそんな量入んないし!残ったらおウチでひつまぶせばいいよお、って伊達くん。ほら卓冷めちゃうから、てか鬼丸そこはスルーとか奢られ慣れてない?俺が言うのも何だけどさ。

鰻重に東北の限定冷酒。伊達くんが日本酒って久しぶりな気がする。あっという間に鰻重の半分平らげてる鬼丸は特に驚きもしない。伊達さんはその時の気分で呑むんだ、鬼丸の言葉に伊達くんはフヒヒとか笑ってる。伊達くんはきっと、好きとか好きじゃないとか、括りのないとこで悠々と漂ってる気がする。もっとこう触れて触れられて初めて発動するスキルみたいな、俺が言うとゲーム攻略みたいなるけど仕方ないじゃん。選択肢重視で思いもよらず勝手に進んでくシナリオ、そういうのがあったらきっとこんな感じになんのかもね。すぐるんがたくさん食べてるの見るの好きなんよ、既に目元が赤くなってる伊達くん、お酒弱いのにお酒好き、そういうのよくあるわかる。思うんだけど、伊達くんってよく見てるんだ、人の行動を。悪い意味じゃなくてね、なにかあるごとのその都度、目が合って微笑みかえして。

俺伊達くんのご飯しばらく食べてないんだけど。あそういえばそうだね、鬼丸も力強く頷いて、二人しておねだりの「圧」をかけてみる。W圧。途端うひゃあ、とか声あげてのデレ。言っちゃ悪いけどお父さんみたい。んじゃあ夜ご飯ウチおいでよご馳走するから。言うが早いか携帯でメッセージ送ってる。設楽と雲母ハルちゃん遅くなるから、今日は俺作れるんよお。伊達くん毎食どうしてんの?ほぼ設楽たまにスペシャルハルちご飯。スペシャルとは。伊達さん皆に餌付けされてんだね。鬼丸いいこと言うよね。鰻完食して軽く飲んで、商店街を腹ごなしにしてはけっこう時間かけて買い物もして。その後は三人であのマンション最上階ペントハウス、ハルちゃん宅へ。

伊達さん何か手伝うよ、いいよう佐久間はすぐるんと遊んでてえ、怪しげな鼻歌とともに伊達くんはキッチンに向かった。値の張りそうな家具がセンスよく並んだ広いリビング、ハルちゃんち久しぶり。最上階ワンフロアでお風呂には天窓、俺が紹介した優良物件。すごく綺麗に片付いてていい匂い。ハルちゃんのいるとこ全部いい匂いする、特にこの家。

そんで今美味しそうないい匂い。あんな食べたのにお腹すくとか。お待たせえ、伊達くんが大きなトレー、ていうかお盆を持ってきた。丼となにかキムチ的なのとあと缶ビール。テーブルに置かれたのは丼ご飯にとろり半熟のベーコンエッグ、お醤油と食べるラー油系をかけたやつ。ご飯はガーリックライスなのかな。こんなん見ただけで美味しい。

中身ガーリックライスですか増量で。ちょっと!今の今までここ俺と鬼丸と伊達くんしかいなかったのに!なんで設楽くん普通に食卓囲んでんのおおおお!凍りついた三人に気を遣ってか、ただいま?って。そこじゃないよ!ウン俺いい加減慣れたと思ってたけどんなことなかったわ、伊達くん大笑いしてるけどそこ?

もう一人分(おそらく倍量)作りに行った伊達くんに設楽くんが何かレジ袋渡してる。ねえあれなにお土産?卓さんと佐久間さんも好きなやつです、って。うっわ何それ気になる。そんな設楽くんに鬼丸がビール注いであげてる。こう言う時の設楽くん、顔つきがすごい精悍になるんだね。

設楽くん実は昔、鬼丸のことが好きだったんだって。どうしてこうなったかはわかんないけど、あれだよね、適材適所?(?)鬼丸にはちぃたんってイメージしかないもん。そんで伊達くんは設楽くん、そしてハルちゃん。伊達くんって複数にモテるよね、そうなの俺ねえモテ男なの、やだ伊達くんいつのまに。ん、追加の丼を設楽くんの前に置いて、設楽くんがさっき買ってきたらしいお土産、なんとキラッキラのイクラ醤油漬け!でっかいスプーンで丼にどっさり盛ってくる。あちょっと待ってそんな乗っけたら全員に行き渡らな…と思ったら二周分くらいの量ある。ベーコンエッグとイクラの…やっばい食欲が増す。

俺もこっち座るう、伊達くんが俺と鬼丸の座ってるソファーに無理くり入ってくる。やだもお狭いんだけど。もっと優しくしてえ、鬼丸が動じる事なく普通に伊達くんにお酌してる。向かいでベーコンエッグ+イクラ大盛り丼をかき込む設楽くん。その気持ちいいくらいの食べっぷりに、伊達くんはすごく嬉しそう。なんかわかるそういうの。俺も優羽が沢山食べるの好きだから。伊達くんさひょっとして咀嚼フェチ?そしたら満面の笑みでもってかわされた。なんかこれってあてられてない鬼丸う?卓は何言ってるかよくわかんないな、その対応はどうなの。見つめ合うわけでもないのになんか通じ合ってる感。鬼丸と冗談言って笑ってる設楽くんを、視界の外で認識してる。一見狡くも見えるけど、これすごい伊達くんは設楽くんが好きなんだな。

あーもう帰ろっか鬼丸。もう帰るのか?少し疎いとこが鬼丸のいいとこ。さあ家に帰って、俺らは俺らの好きを突き詰めなきゃ、だよね。




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佐久イヌ140の日常
198-214まとめ 加筆修正
2024.1.29


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