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smashing! ハードデイズとおれ・前

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士の二人が働いている、佐久間イヌネコ病院。ゴールデンウィークはおよそ5連休。犬のリイコは結城宅へお泊まり。リイコと1~6号の猫たちは結城馴染みのペットシッター、アルゼンチンからやってきたリリーザさん(男)に任せての「鬼丸くんのお兄ちゃんに会いに行ってガチホラー体験☆」ツアー催行である。

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「わー俺初めて来たよ!」
「ていうか、みんな俺んちの修行体験ツアーで大丈夫なの?観光とかは?けっこう面白いよほぼ市外だけどさ」
「いいの。俺らが興味あるのは明治の村とか小さいワールドとかじゃなくて、今回はガチホラーだから」
【【【そ!】】】

フルメンバー6名は佐久間の実家のある某都市に降り立った。新幹線で約2時間。地下鉄乗り換えて約30分。そこに広がるのはキッチュな街並み広がる不思議空間。佐久間の実家は駅から徒歩10分。賑やかな商店街を横道に入った参道の先、たくさんの猫が寛ぐ小さな寺。

「みんなようおいでたね!お!あんた千弦くんだな大きいなあ!」

境内から走ってきたのはこの寺の住職・妙達。佐久間達丸。佐久間の兄だ。着いた早々喜多村とがっつり抱き合い、達丸は6名をホスト×2、タラシ×1、ちっちゃいもの大、小、弟。と瞬時に分類し、それぞれに合ったサイズの作務衣を修行中の僧侶・徳河慶喜に手振りで伝えた。ホスト2名は檳榔子黒、タラシと弟は百塩茶、ちっちゃい大には藍色、特にちっちゃい小はサイズがなく、急遽レディスの朱鷺色。何故か結城は大喜びだ。

「みなさんお部屋にご案内します!こんにちわ鬼丸さん!」
「いつも兄さんがお世話に…えっと、徳河くん?」
「あ、よしくんで。和尚に伝わらないのでっ」

鬼丸筆頭に総勢6名の客人。達丸は感無量だった。寺に居たときも、あまり友人を連れてくることのなかった鬼丸が、こんなに沢山の友人と遊びにきとくれるだなんて。ああ父ちゃん、鬼丸いっぱい友達できたがん。なんやホストみたいなんもおるけど(違う)。全員達丸の選んだ作務衣に着替えて勢揃い。黒黒茶茶紺桃。偏った戦隊シリーズかな。でもまあよう似合うわ。

「あのな、鬼丸。兄ちゃんのパソコンな」
「どうかしたん?」
「なんやくるくる回っとるんやけど、終わらんのんよ」

パソコンは…佐久間は無意識に雲母を探す。あ、僕の出番ですね承り。無言の会話で流石の気遣い。優雅に進み出た雲母は、達丸に挨拶をする。

「雲母春己と申します。鬼丸くんの病院の税理士をしています」
「…ほ…別嬪な税理士さんですな!俺は達丸いいます。えっと…」
「パソコンが不調でいらっしゃるんですね?僕に見せて頂けませんか?」
「あ!ハルちゃん!俺も手伝います」

配線系に明るい小越も加わり、三人は談笑しながら奥の達丸の部屋へ向かっていった。いってらハルちゃん!それよりもねえなんで俺タラシに分類されたの?さっきから伊達が喜多村を掴んで揺すりながら苦情を言っている。

「しょうがないって。お兄さんヒトの本質が見えるんだよ」
「本質ってなに!俺の本質タラシて!わけわかんない!」

達丸のパソコンはものの小一時間で完治。問題ありませんでしたよ。惚れてまうアルカイックスマイルの雲母。雲母が触れるといかなる窓もリンゴも途端に従順になるという伝説(伊達談)は本当だった。こないだ業者さんに診てもらっても原因わからんかったのに。達丸が心底感心する。ついでに部屋のごちゃついてた配線類をきっちり整頓、テレビもネットにささっと繋げるように。小越は日頃から本職の庭師と同じくらい、この手の作業に駆り出されているのだった。

昼食は寺の僧侶・徳河の作った「ナポリタン」。玉ねぎ、バター、ケチャップ、醤油だけ。なのに謎の旨味に溢れている。下に敷かれた数枚の薄焼き卵が謎の旨味をさらに増長。よしくんは喫茶店でバイトしとったからこういうのが上手くてな。達丸和尚が目尻を下げている。

「お昼食べたら修行体験やろうかね、修行ゆっても掃除とかだけどね。あと俺がお経様上げるから、聞いて貰ってお話しよか」

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午後も快晴。
佐久間と雲母は寺の檀家さんにお遣いと買い出し、残りメンは境内や本堂のお掃除です。おっしゃあ来い雅宗負けねえから俺。上等だちぃたんオラァ優しくねお願いします。競争心を煽る長い廊下での雑巾がけ勝負。「喜多村VS伊達・雌雄を決する一戦」が始まろうとしている。
結城と小越は二人を応援しながらもお手々繋いでいい雰囲気。楽な箒のかけ方教えてあげるよ卓。庭師の小越は結城と一緒に境内に降り、箒を手に庭園を巡りはじめた。手入れの行き届いた植木を見て、小越は嬉しそうである。

「おーいご両人、和尚だよ!」
「お兄さん!」
「達丸さんこのお庭、いい庭師さんがいらっしゃるんですね」
「ああ!ここね。俺がやっとんのよ」

木がね、ここが邪魔なんだわ言うから。俺はそこ切ったるだけ。庭師の師匠でもあった小越の祖父・和威と、この人は同じ事を言う。嬉しそうに頷く小越に、結城が繋いだ手に少し力を込める。

「いいコンビね。力加減も相性も。仲良いでしょ二人」
「…お兄さん、あんまり鬼丸に似てないね?」
「俺はちょっと顔が怖いもんで。鬼丸は優男やろ?兄弟でも違うもんだね」
「髪と目の色がおんなじ」
「そりゃ兄弟だもんで。このへん住んどって髪の色こんなだと、そりゃ因縁付けられて大変だったんよ若い頃」
「え、鬼丸も?」
「うん。でもあいつは変に迫力あってな。一瞥すると相手がびびってまって治まるんだわ」
「へー…鬼丸さんが…けっこうやんちゃだったんですか?」
「いやいや静かすぎるくらい。友達もおらんくてな、あでも」

いたっちゃ、いたわ。ちょっと問題児だったけどな。
結城と小越は顔を見合わせた。




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後編へ続きますよ!↓

https://note.com/kikiru/n/n8b1b1a1a0086



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