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smashing! せいとどうなのバースデー

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己と、伊達の後輩・設楽泰司の恋人。

ヒヨドリの群れが喧しく響く、郊外の小さな山の麓にある伊達の平屋。日中は少し蒸し暑くても、山々は少しずつ秋の枯れ色を重ねていく。朝食後、伊達と雲母の2人は居間の縁側でのんびりとティータイムを楽しんでいた。こう書くといかにもオトナな雰囲気のようだが、設楽の高校ジャージにピンクの割烹着姿で座る雲母。そしてその膝枕で寝転ぶ伊達は同じくジャージ姿。朝の菜園の手入れの後とはいえ2人とも気抜きすぎ残念装備である。スパダリを信条とする伊達だが、日頃の甘やかされまくりの弊害により、デロデロのユルユルでもって雲母の膝の上にくっついて離れない。あれですよでっかい骨抜きネコ状態。そもそもネコは軟体動物だから骨なんかないんよ、あれえ俺おかしなこと言ったあ?(伊達獣医師談)

設楽は実家の所用とやらで不在。連絡はいつでも取り合える状態ではあるが、向こうからの連絡はほぼない。というのは今回設楽は、父と長兄が向かった山奥の渓流釣り場へと召喚されたせいで、行く先は圏外に次ぐ圏外。まさしくネット環境ゼロ状態なのである。日頃携帯だのタブレットだの息をするように触れている弊害かもしれないし、いい機会だからアナログにも慣れようと思います、どこかのサービスエリア辺りからメッセージが送られてきたのが二日前だ。

「いけませんそろそろお昼の支度をしなくては。お食事大臣としてご決断をお願いします伊達さん」
「あーそうねそうだった!今日設楽いないの忘れてたあ。いいお肉あるから焼いてご飯に乗っけよっか♡」

座る時ほぼ100%膝に伊達を乗っけているせいか、立ち上がるのが非常に困難な雲母。わあこれ生まれたての子鹿というやつじゃないですか?そこは喜ぶとこじゃないんよう、伊達は少しだけ反省しつつ足ガクガク雲母に肩を貸し台所へ。お肉とワインとマッシュルームと~、謎な歌を口ずさみながらも包丁を繰る手に無駄な動きはない。伊達の行動を先読みしながらサポートに徹する雲母は、手順や隠し味、火加減をリサーチするのに余念がない。そしていつの間にか用意したのは三人分の食事。それに気づいた二人は顔を見合わせて笑う。

「設楽くんの分まで!」
「うっかりしてたあ、いい肉だから食わせてやんなきゃ思っててさ」
「いただきます」

は?え?明らかに自分達以外の者の気配。固まった雲母と伊達の前には、風呂上がりらしいスウェット姿の設楽が居間のテーブルで分厚い牛タンにかぶりついていた。まさに戦慄。帰ってきたらお二人が一生懸命料理してたんで先に風呂いただこうと、連絡連絡う!さっきメッセージ入れたんですが圏外だったからですかね、伊達の携帯が今頃になってポヨン。時差とかあんの?

「びっくりしたああああ何お前ええええ!」
「僕の心臓とうとう飛び出しちゃったかと」
「あ、ただいま?」
「そこじゃないの!」

設楽の向かいに並んで座り、内心「肉いっぱい焼いといてよかった」な二人。希少部位であるザブトンに山葵醬油を添え、発泡赤ワイン・ランブルスコを味わいながらキャッキャウフフ。お肉の脂が甘くて美味しいですね伊達さん、ハルちゃんのほっぺみたい~♡するとそれまで夢中で肉を食らっていた設楽がさりげなくご飯のおかわりを要求しながら切り出した。

「相談があるんですが。あ山盛りでお願いします」
「なんだろ浮気?この際増えても別に構わないけどさ。こんでい?」
「残念ながらそうじゃなくて、オレの誕生日にお二人を招待したいんです」
「!!!!何当事者がお招きくださるん?」
「それは楽しそうですね!聞かせていただけますか?」

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ハロウィンで賑わう10月末日、そして翌日の11/1。設楽の誕生日でもあるこの二日間、いつもならお祝いに余念のない伊達家。しかし今年はちょっと違っていた。すっかり日の暮れた田舎道、三人の乗った設楽のごっついSUV車は真っ暗な山の中の細道を登っていく。

「ちょっ真っ暗じゃん危ないよう」
「あ大丈夫です慣れてますんで」
「ここは丁度設楽くんのご実家の裏あたりですね?」
「俺のテリトリーです」

鬱蒼としたブロッコリーのような樹々の先、ぽっかりと開けた広場には、数台の車が停まっていた。ここの展望台穴場なんでけっこう人気あるんです、設楽は二人を展望台のベンチへ案内する。

「夜景のビューポイントかあ!ほらあキレイよハルちゃん!」
「いえ、見てもらうのは空のほうです」
「確かにとても星が綺麗ですね」
「あと一時間くらい待ってもらえれば」

漆黒に近い山々の影を縫い、時折光る弧を描き消える流星、風に煽られ姿を変える薄雲、暗いはずの夜空は思いがけず明るく見える。この時期に見られるというある彗星を狙って、設楽は二人を連れてきたのだった。簡易ベンチに座りブランケットに包まって、保温マグにたっぷりのコーヒー、暖かな湯気が雲のようにたなびいて消えていく。そして一時間も待つこともなく、すぐにそれは夜空を分断するように姿を現した。

「あれだあ!超キレーーーー!」
「伊達さん!僕にも見えます!」
「彗星は他の流れ星と違って珍しいから、特別なラッキーが訪れるってばあちゃんが言ってて」

白く輝く光の束スパークルは、歓声を上げる三人を祝福するかのように、長く尾を引き消えていった。

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帰り道の車内。ロマンティックとセレブレイトとドリーミン等の化学変化によりどうにもムーディ(カタカナ多いな)になってしまった三人。全年齢では3Pご法度なんでオレは見学で、お前さもうこうなったら混ざればあ?テンションMAXな三人は失念していた。この時期、主にイベント当日のLのつくお泊まり処などは満室と決まっていることを。予約なしではほぼ無駄足。こんな夜に  できないなんて。そのことを悟った設楽は静かにハンドルを伊達家方面に切った。

「どしたの設楽、この先に二軒くらいあったよホテル」
「いい場所があります」

向かっているのは伊達家方面、の裏っ側。山の中で山しかないような場所。設楽方向違うんじゃない?伊達が口を挟もうがかまわず無言で進んでいく。どこに向かってるんでしょう?こんな状況なのにサプライズ大好き雲母のワクワクが止まらない。

「プレゼント、欲しいものがあるんです」
「ここで言うん?」
「なんなりと、設楽くん♡」
「オレと野外で   して欲しいんです(見学込み)」
「アオカ やだよ蚊とかいんじゃん!」
「大丈夫、オレの隠れ家テントは虫除け完備ですから」
「テントですか楽しそうですね!」

満足げな設楽、大興奮の雲母。二人は伊達を置き去りに(気分的に)既にテントの中での諸々を話し合っている。毎年ゴージャスでラグジュアリーなバースデーだったのに何故。そんな伊達に設楽はニヤリスマイルで返してきた。

「静からの動、ゴージャスとチープで表裏一体なんです御意」
「なんでそんな極端なのおおお!!」




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