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『拡張による学習』をレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの文脈で読む(8)第4章 拡張の道具 p.265~

 第4章では、「拡張による学習」の中でも「道具」にフォーカスを当てて考察が進む。

 下の表は、以前に書いた上記のNoteの中で紹介したものである。

学習のレベルと活動の階層構造(再掲)

 エンゲストロームによれば、活動の階層構造に従って、活動は拡張していく(上記の表でいうところの学習Ⅰから学習Ⅲに向けての拡張)。その拡張の段階に合わせて「道具」もまた変化する。

 学習Ⅰにおける「道具」は、主に対象に働きかけ消費を生み出すための生産のための道具である。ここでの道具の使い方は基本的に決まっている。これが学習Ⅱになるときには、新たな対象や生産へとつながる新たな道具を作り出すことに切り替わらなければならない。

道具の進化の3つのステップ

 生産のための道具から、道具を作り出すための道具へと切り替わりのときに何が起こっているのかについて、さらに解像度を上げてみていくと3つのステップが見えてくる。この最初のステップの前段階にあるのは活動のなかでもやもやとした「矛盾」を感じて、「矛盾」のない活動へと換えていきたいという欲求状態である。その前段階があってステップ1が進められる。

ステップ1.すでに知っている知識を使って対象をとらえ直してみる。

 まず、持ち前の知識で対象の背後や関連のあるものについても説明してみる。そこで、自分が十分に説明できない感じを受けたとき、ステップ2へと踏み出す。

ステップ2.アナロジー(類推)、想像、遊び、実験などを通じてスプリングボードがつくられる。

 エンゲストロームはスプリングボードを以下のように定義する。

 スプリングボードは、ダブルバインド的な性格をもつ著しい葛藤の最中に、以前の文脈から新しい拡張的な移行活動への文脈へと置き換えられたり、移し変えられたりする、促進的なイメージ、テクニック、または社会的・会話的布置(あるいはこれらの組み合わせ)である。スプリングボードは、通常、ダブルバインドを解決するうえで一時的か状況的な機能しかもたない。

『拡張による学習』日本語版 338ページ
本文ではこの引用部分すべてに強調点が打たれている

 ここでいう「社会的・会話的布置」は、コミュニケーションや相互作用が生じるための人の配置といった意味である。例えば、組織までいかないけれども、誰かと誰かが話し合ったりやり取りする場が確保されたりすることなどを指す。ここでいうイメージとは見たままというよりも、多くはアナロジーであり「メタファー」である。テクニックは身体的な動きや対象への対処のパターンである。
 これがモデルの原型となる。モデルは思考でも行動上でも実験を誘発する。

ステップ3.モデルの原型を基盤として、それに助けられながら現実との一致に向けて理論を組み立てていく。

 ここでいう理論は、言葉による説明だけでなく、図式、分類カテゴリー、ルール、手続きといった形態もとる。これらには対象に対する理解や評価があって示されるものだからである。
 これらは、抽象的なものであるがモデルを使った活動によって具体的な世界に向けられ、モデルと世界との一致が確認されていく。一致しない場合にはモデルは作り変えられることになる。
 また、このモデルと世界との一致は、個人の頭の中に終わらず、集団による活動との一致まで進められる。なぜなら、モデルに基づいて世界に働きかけるのは、活動が拡張されていくと個人ではなく集団となることがほとんどだからである。それもあって、集団の中の共通認識や活動を方向付ける分類カテゴリーやルール、手続きなども理論に含まれるのである。

モデル発展の5つのタイプ

 また、エンゲストロームによれば、モデルにもいくつかの発展のタイプがあるという。それはモデルを作る側が考えている、世界の中に現れる「因果関係の考え方」とも関係している。そのレベルは以下のとおりである。

 タイプ1.自然発生的試作品:呪術的でありアニミズム的な因果関係が見いだされる。例えば裏で何かが結果を生み出す存在を感じさせるようなモデル。

 タイプ2.唯名論的と分類的:すでに決められて動かない分類が存在するかのような因果関係が見いだされる。元素の周期表や植物分類などのように階層的で安定的である。

 タイプ3.手続き的:何らかの直線的かつ継続的に発生する動きに従って世界が動いているかのような因果関係が見いだされる。アルゴリズムや規則などである。

 タイプ4.システム的:何が何にどのような影響を及ぼすかは事前に予測できないが、結果が出た後に後からさかのぼってならば、なぜそうなったかが説明できる因果関係が見いだされる。複雑なシステム的世界観で、全体に確率の力が働いている。

 タイプ5.胚細胞的:発展のための内的運動の原則があり、その原則に従って歴史的、形成的に説明できる因果関係が見いだされる。エンゲストロームによればこれが人間の歴史的に最も発達したモデルとなっている。

活動は小さな社会の中で発展する

 そして、これらのモデルの発展は個人の中の思考のみで進むことはないとエンゲストロームは強調する。それは社会の中で発展するが、特に重要な発展のための媒介として「ミクロコスモス」という視点を提示している。

 ミクロコスモスは、新しい活動形態の基礎となるようなコミュニティの縮小版であるとされる。そこで新しい活動が試験的に始まる。物理的な空間であり、社会的には比較的孤立した構成体である。
 このミクロコスモスの具体的なイメージとしては、志や問題関心を共にする仲間で小さく集まって意見交換したり、試験的な活動をするという動きを考えればよいだろう。そこでスプリングボードが発見されたり、モデルが構築される。
 また、機が熟せば、より広い社会へとモデルを広めることになるため、このミクロコスモスは放棄されたり、多くの人を巻き込んでルールや分業などが発展し、別物になっていく。

レゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドとの関連性について

 この「道具」の進化のなかの「スプリングボード」がまさにレゴ🄬シリアスプレイ🄬メソッドのワークショップにおいてレゴ🄬ブロックで参加者に表現してもらっているものであるといえよう。

 活動の発展から見れば、「スプリングボード」は、活動を形成するための本当に第一歩にすぎない(大きな一歩であることは間違いないが)。ただ、そこで「面白いアイデアだったね」で終わらせないようにしなければ、ワークショップの価値は小さくなってしまうと言えるだろう。

 もちろん、ファシリテーターとして実際に参加者に関わることのできる活動範囲は小さく、期間は短いことが多いだろう。だがそれでも、その先の活動の展開を見据えてワークショップを設計し、ファシリテーションしていくことは重要である。

 また、ここであげられているモデルの発展タイプの議論は興味深い。参加者の作った問いに答えるモデルにどのタイプの論理が内在化されているかを見ることは、モデルにどのような問いを投げかけるかの指針になるかもしれない。

 より具体的には、タイプ1の因果関係を含むモデルを作る人であれば、他の参加者のモデルと比較して何がポイントとなってその差が生まれるのかを考えさせるような問いを出すことができるだろう。例えば、「最悪のマネジャー」を作ってもらったとき、自分の「最悪」と他の人の「最悪」の差が、何から生まれているかについて考えるといった具合である。同じように、タイプ3の原因と結果がはっきりと見えているモデルを作る人に対しては「予期せぬ事態」が起こったときの変化を考えさせるといった感じである。

 なお、最も発展したタイプ5に対しては、モデルの発展の原理が表現されているので、その原理通りに発展したら、時間軸を進めて10年後にはどのように今のモデルが変わっていくか、もしくは途中でどのような発展を阻害する障害に直面するかを考えるような問いを投げることができるだろう。

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