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レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを「考える力を伸ばすこと」に使うということ

 筆者は、勤務先が大学であるということもあるが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを「考える力を伸ばす」ことに使うことに大きな可能性を感じている。

 どうしてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドが「考える力を伸ばす」ことに役立つのか、それはどのようにして可能かについて、改めて考えをまとめてみたい。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのステップ

 まずはレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの進行ステップを確認しておこう。大きく4つのプロセス(コア・プロセスと呼ばれている)を繰り返しながら進んでいく。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの基本ステップ

 また、ステップを進めるにあたっては、このメソッドのトレーニングを受けたファシリテーターが入り、問いを出すことやステップの管理を行う。
 ここでいう「モデル」はレゴ®︎ブロックを使って作る。もちろん、作るのは問いに答えるための作品である。

 さて「考えを伸ばす」ということに入るにあたって、もともとレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドが、どのようなことのために作られたのかについて紐解くところから始めてみたい。その中で「考える」ということと、このレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドがどう絡んでいるかがよりはっきりと見えてくるからだ。

本来は「100-100」の会議をめざすために

 もともと、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは、もともと企業の会議をより実のあるものにするために開発された手法である。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドは、企業内の多くの会議において「20-80」という状況があるのではないかと問いかける。つまりほとんどの会議において、2割の人がよく発言し、会議の中の8割の時間を占有している。せっかくそこに出席しているのにその人の意見が表明されないことによって、(A)適切な判断ができるだけの十分な情報や知識が揃わないことと、(B)意見表明をしない参加者の決定へのコミットメント(その決定に従って頑張ろうという気持ち)が高まらない、という2点において失われているものは大きいのではないかということだ。

 めざすべきは会議に参加する全員が持っているものを出し切り、その上で納得いく結論を出すということである。これを「100-100」の会議という。

 このうち、特に(A)の側面を重視するならば、より全体における影響もつ経営トップ層の会議(戦略会議)においてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを優先的に導入すべきであるし、(B)の側面を重視するならば、相互の意思疎通が必要な現場単位でレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを優先的に導入すべき、という話になる。

ブロックを使う方が良い理由とは

 上記の説明を読んで、ただ、「20-80」という意見表明のバランスの問題であるならば、レゴ®︎ブロックを使う必要はないのではないか、と考える人もいるかもしれない。
 そこでここからはレゴ®︎ブロックを使う3つの利点について述べてみたい。

①ブロックを使えばより豊かな表現ができる

 先程の「20-80」の問題に2割の人しか話していない状況は、誰に責任があるのか。2割の人が他の人の発言を意図的に遮っているのであれば、2割の人を黙らせる必要がある。しかし、2割の人を黙らせたからといって即、素晴らしい会議になるとはいえない。

 それを妨げている原因として8割の人が、その場で何を話していいのかわからないということが考えられる。自分の中に有益な経験と知識があるにも関わらず、その場に有益な知識を持っていることに気づいていないということでもある。もうひとつは、8割の人は考えをうまく表現できないということだ。この「気づかない」「表現できない」を解決するための方法が、レゴ®︎ブロックでモデルを作るということである。

 特にブロックでモデルを作る中では、自分の経験、知識、気持ちなどが表現される。特に「気持ち(感情)」の表現がポイントで、ブロックという色や大きさ、形状を持つ素材は「気持ち(感情)」の表現との相性がいい。

 例えば、言葉で「嬉しい」という表現を考えてみる。ブロックだと小さなブロック一つで小さく灯りが灯るような「嬉しい」から、花弁のような形状でそこからエネルギーが空間的に広がっていく「嬉しい」もあるし、体が動きだすような(ブロックの人形にポーズをとらせる)「嬉しい」もある。
 修辞的表現に長けていれば言葉でその気持ちを伝えることはできるが、多くの人はブロックでの表現を添えたほうが「言葉のみ」よりも豊かに感情を伝えることができるのである。

3つの「嬉しい」表現の例

②ブロックを使えばより広く深く情報を整理できる

 経験や知識を組み合わせて、より広く深く考えを整理していくのにもブロックでモデルを作ることは有効だ。ちょうど考えをまとめるときにノートに言葉だけでなく矢印や図を書いて整理し並べていくように、ブロックを置いていくのである。

 例えば、「リーダーシップ」について考えてみるとする。「リーダーシップ」に対するイメージは、人々に道を示したり、高い視点から周りを眺めたり、他者に共感したりなど、多くの人にとって経験や知識から多くのことが複合的かつ複雑に絡み合っているだろう。
 多くのことを記憶から掘り起こして並べ、その関係性を考え配置して一つにまとめるには、言葉のみ(文章は一方向に情報が並べられているという意味で1次元的である)よりも、ノートに書かれた言葉や矢印、図式(2次元)のほうが、さらにそれよりもブロックの表現(3次元)のほうが表現しやすい。より重要な問題になればなるほど、物事が複雑に絡み合っているので次元の高い表現が便利になるのである。

 そして、この経験を整理したり関係づけたりするなかで、少しずつではあるが連想的に引っ張り出されるように過去の経験や知識が出てくる。そこで、自分がすでに知っていたことに気づくのである。

ブロック一つ一つが組み合わさって複雑な考えの表現となる

③ブロックを使えば推論や再検討を自然とおこなう

 上記で述べた知識の整理作業は、頭の中で考えることでも行うことができるが、思考を外化(外部に表現しながら)のほうが圧倒的にやりやすい。将棋(オセロでもいい)の次の手を考えるときに、番の上で将棋の駒を動かしながら考えるのと、頭の中だけで考えるのとどちらがやりやすいかを考えれば分かりやすいだろう。

 先程の将棋やオセロの例にも現れているが、思考の外化にはブロックを置くことの他に、「この隣には何があるのか」と推論したり、「置いてみたけれども何か違うかもしれない」と置き場所を再検討したりすることが含まれる。

 この推論や再検討について、会議において、どれだけみなさんは発言する前に推論を働かせたり(「今これを言ったら次に何が続くのか?」と考える)、再検討をする(「このように言うと考えてみたものの、変更をした方がいいか」と考える)だろうか。多くの優れたスピーカーは話す内容を事前にメモにまとめ、よりわかりやすいように推敲して臨むであろう。同じような推論や再検討の効果がレゴ®︎ブロックで作品を作ることにも働いている。このことは私たちの中の当たり前となっている考えを打ち破る機会を多く提供しているということも意味している。

 これは「自分が知っていたことをより多く引き出す」ことと重なり、結果として、通常の口頭のみの会議に比べて、新しい考えに至る可能性を高めると考えられるのである。

「考える」こととレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッド

 ここまでの内容をもとに、改めてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドが「考える力を伸ばす」ことにどう役立つかについて考えてみたい。

 基本的には「②ブロックを使えばより広く深く情報を整理できる」と「③ブロックを使えば推論や再検討を自然とおこなう」の2つにあるといえるだろう。

 つまり、何らかの問いを投げて、その答えをモデルに表現するならば、そこで「考える」ことをしているということである。ただし、問いに対する答えが一つしかない場合(知っているか・知らないかだけが問われる問い)には、「考える」ということはほとんど無くなるといえるだろう。さまざまな答えの可能性があり、かつ複雑に絡み合っているような「問い」でなければ、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドであっても「考える」ことを引き出せない。

 つまり良質な「考える」体験のためには、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドはもちろん、それへと誘う「問い」があることが前提となる。

 また、集団でこれを行わせて、それぞれの参加者が作った作品をお互いに説明し合えば、より多くの考え方や表現を知ることになる。これも、相手のモデルの話を聞いている中で自分のモデルとの差異性や関係性について「考える」機会がある。

 作品の説明の際に、参加者同士で作品について質問をする時間が多くの場合に取られる。なぜ参加者が質問をするのかと考えれば、それは相手の作品の理解を通じて、問いへの理解を深めたいということであろう。すなわち、相手の作品への問いを考え発する中で「考える」ことが行われている。

 改めてまとめると、次の3つがレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中で「考える」ということにつながっているといえそうだ。

①モデルを作る中で考える
②相手のモデルとの関係性の中で考える
③相手の作品を理解しようとする中で考える

「考える」と「考える力」そして「問い」

 お気づきの方もいると思うが、実はここまで論じてきたのは「考える」ことであり、「考える力を伸ばす」ことではない。

 その間に何が必要なのか。伸ばすためにはまず「考える」を繰り返すことが必要である。そして「考える」を繰り返す動力となるのは「問い」である。
 考えてみようと思う良い「問い」にぶつかるとより深く考えるし、そうでなければ軽く考えて終わってしまう。「考える力」の多くは「問いづくり」にあるのではないかと考える教育者は多い。

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、この「問い」が出される場面が主に2つある。1つには作品を作る前であり、もう1つは作品についての話を聞いた後である。前者はファシリテーターが用意することが多く、後者は参加者(とファシリテーター)がする。

 多くの場合、「問い」を発するのは主にファシリテーターが担っており、参加者からの「問い」は作られた作品に対する質問にほぼ限られている
 もちろん「100-100」の会議を生み出すという観点では、それで十分であるので、メソッドが間違っているわけではない。

 ただ、「考える力」を伸ばすという目的からメソッドをみると、もっと参加者に「問う」→「考える」→「問う」のサイクルを繰り返させたい。作られた作品に対する質問を多くすれば良いのだろうか。経験上、問いを発するということに慣れていない参加者に単に「たくさん質問をしてください」というだけでは、あまり質問は出てこない。

 「問う」→「考える」→「問う」のサイクルをレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップに組み込むためにはどうすればいいのか
 これが本記事でたどり着いた「問い」である。

 少し長くなってしまった。続きはまた別記事で。

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