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THE GAZETTEを読む(13)2015年1月号 信頼の溝を埋める

 本記事は、ラスムセン・コンサルティングが発行しているメールマガジンTHE GAZETTEのバックナンバーを、日本語訳をしながら、コメントを加えながら読んでいくシリーズの一つである。レゴ®︎シリアスプレイ®︎のファシリテーター・トレーニング修了者向けに書いている。
 この記事の引用元原文はこちらのPDFから読むことができる。

 今号のテーマは「信頼」である。この「信頼」という概念はなかなか複雑で人によってイメージが異なるため、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップでもときどき、問いの一つとして使われることがある。

ビジネスにおいて、なぜ信頼が重要なのか?
 なぜなら、それがあなたの収益に貢献するからです。2009年のビジネスにおける信頼についての調査では、リーダーシップ、コラボレーション、そして信頼が高いと自己評価された企業は、株価収益率に25%以上のプレミアムがついたことが示されています。言い換えれば、企業内の信頼度が高いほど、PERが高くなるということです。その他にも、信頼もしくは信頼の欠如が、企業の収益、市場シェア、ブランド評価、従業員のエンゲージメントと離職率、株価、最終的な収益性に影響を与えることを示す研究は数多くあります。

THE GAZETTE 2015年1月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 ここではビジネスにおける「信頼」の重要性を調査データから述べている。
 最近のデータがないかと少しWeb検索をしたところ、以下のようなページがヒットした。

 上記では「信頼」を築くための要因に「データ保護やサイバーセキュリティ」が強く強調されるなど、時代の変化によって変わっている部分もあるだろうが、ビジネスにおいて「信頼」が重要であることは全く変わっていない。「信頼」は「ブランド」や「社会的責任」などとも関わってくる企業における中心的な概念であるだけでなく、集団形成・人間関係の基盤でもあるので、あらゆるワークショップにおいて常に意識しておきたいキーワードである。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎で信頼について理解する

 2011年から、レゴ®︎シリアスプレイ®︎の手法を用いて、600人以上の方に、プロフェッショナルな仕事の文脈の中で「信頼」に関する3つの質問に対する答えを作ってもらってきました。
Q1:信頼とは何ですか?
Q2:何が信頼をつくりあげるのですか?
Q3:信頼は行為の中でどのようなものとしてあらわれますか?

THE GAZETTE 2015年1月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 600名以上の回答を、しかもモデルという方法で集めたということに驚きを隠せない。これをベースに要素分析をしたら大変貴重な調査になるのではないだろうか。同じようにイメージの傾向が読みにくい重要なキーワードについて多くのモデルを作ってもらい、そこにでてきた表現を分析するという方法は調査研究の一つのパターンとして有効そうだ(同時に集めた情報をデータベースにする作業を想像するだけで気が滅入ってしまうが)。

Q1:信頼とは、感情であり、基盤であり、セーフティネットで、自分が見られている、尊重されていると感じることです。信頼とは、共有された強固な基盤の上に、同じ包括的な目標に向かって全員が働いていることを知ることです。最後に、信頼とは、自分の責任を果たすために必要なときに、他の人に助けを求めることができるという点で、セーフティネットのようなものです。

Q2:信頼に不可欠な構成要素は、透明性、そして信用(credibility)です。信念、価値観、意見、アイデア、好み、目標、責任、プロセスについて透明性がなければなりません。これが整っていれば、信用は信頼につながります。あなたは、共有基盤への貢献と一貫性があり首尾一貫した方法で、自分が言ったことを実行するのです。

Q3:上記のようなブロックの積み重ねによって高いレベルの信頼が得られた組織では、従業員は高いエンゲージメントと高い参加意識を持つようになります。人々は、共通の目標を達成するために、新しいアイデアを試し、リスクを取り、さらに一歩を踏み出す可能性が高くなります。

THE GAZETTE 2015年1月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 Q1~Q3のそれぞれの問いに対する調査結果の概要がまとめられている。このうち、credibilityという単語が出てきており、今回は「信用」と訳した。trustの訳語の「信頼」と非常に似ているが、Web辞書によれば、credibilityは素質や人間性と絡められる言葉ということである。

 上記の答えに合わせて横のコラムでは以下のように「信頼」モデルの写真にコメントが添えられている。

LSPワークショップで構築された信頼のストーリーのほとんど全ての中に、写真にもあるのような、いくつかのブロックが含まれているのは驚くべきことではありません。透明なレンガは透明性を、窓と紐はコミュニケーションと心のつながりを、そして梯子はセーフティネットに象徴される挑戦とリスクテイクメンタリティを表しています。

信頼の溝を埋めるには

 埋めるべき溝が存在します! 2014年の労働者調査によると、労働者の上司への信頼は悪い方向に向かっています。調査対象者の4分の1以上が、2013年に比べて上司を信頼していません。そして、82%の労働者が、上司を信頼することは、仕事で効果をあげるために不可欠だと感じています。
 私たちは、レゴ®︎シリアスプレイ®︎が、上司と従業員がチーム内でコミュニケーションをとり、問題を解決し、意思決定を行うための言語を提供し、チームメンバー間の信頼関係をより深めることができることを発見しました。このプロセスは、すべての関係者が互いを新しい視点で見る機会をつくり、理解と価値観の共有を促進します。すべての人の意見を聞き、尊重し、意思決定に反映させることが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のプロセスの根幹をなすものです。

THE GAZETTE 2015年1月号をDeepLで翻訳・筆者が修正

 レゴ®︎シリアスプレイ®︎をすることそれ自体が、信頼関係を深めるという主張は私も大いに同意する。他者とのやりとりのなかで、お互いを受け入れ合えないのではないかという不安をレゴ®︎シリアスプレイ®︎では徹底的に排除するようにコア・プロセスが設計されているからである。

 私はレゴ®︎シリアスプレイ®︎には、いくつもの教育効果があると普段から強く感じているが、その一つがお互いに信頼を構築しやすいコミュニケーションの取り方をプロセスに従って学べることである。
 まずは自分の意見をわかりやすく整えたうえで(モデル作りに相当)話すこと、一人一人平等に時間をとって話を聞き、その人ではなく語られたアイデアに対して質問をすること(全員がモデルを見て対話することに相当)などは、少なくともそのテーマで話している間はそのアイデアそのものを否定しない(モデルをテーブルから取り除かない)こと、などは、まさに理想的な信頼を積み上げるコミュニケーションである。
 検証はしていないが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎を数回体験したのちには、学生たちの普段の話し合いは信頼を構築しやすいものに変わっていくと感じている。

 テーマを掲げて、それについて考えを深めたり問題を解決する方向性を見極めるという点もワークショップでは当然重要であるが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎のワークショップでは、それに加えて参加者間に信頼関係を構築でき、メタ的に振り返りを入れればコミュニケーションの取り方にも変化を与えられる。まさに一石三鳥のメソッドだといえるだろう。

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