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レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドにおいて豊かな「問い」を参加者に出させるには

この記事を読む前に(これまでのこと)

 これまで、以下の2つの記事で「考える力を伸ばす」ことを狙いとして、どのようなことが必要か考えてきた。

 この記事では、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドとは何かを整理する中で、参加者の考える力を伸ばすためには、「問う」→「考える」→「問う」のサイクルをレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップで組み込むことが重要であることを書いた。
 
 このことを受けてレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中で「問い」が出やすい場面から、「問う」→「考える」→「問う」のサイクルを強化するためのポイントを考えてみたのが以下の記事である。

 この記事では、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドの中でも「問う」→「考える」→「問う」のサイクルは作り出せるが、参加者が豊かな「問い」のバリエーションを出す仕組みまでは提案できず終わっている。

 ということで、本記事では参加者に豊かな「問い」のバリエーションを出す仕組みについて考えてみたい。

さまざまな「問い」を生み出すためのワークをしてからレゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドへとうつる

 「問い」そのものを作る方法については、すでにいくつか優れた本が出ている。いずれも、その本で示されている方法を使って「問いづくりのワークショップ」を設計できるほど、うまく書かれている。

 この本では教育現場で子どもたちの考える力を引き出すのは優れた「問い」であることを示し、さまざまな「問い」を作らせる授業デザインを紹介している。

 この本では「問い」の構造にフォーカスし、対象(一人称・二人称・三人称)での分類を中心に、それぞれの特徴差を明晰に分析し、それに応じた作り方を指南している。ワークショップのデザイナーには必ず役立つ本となっている。

 こちらの本は、主にレトリック(特に問いの中での焦点の置き方)を変えることによって、参加者があまり考えてこなかった問いを生み出す技術を教えてくれる。いわゆる思考の盲点を突くことを狙うので、新しいアイデアを出すためのワークショップのための問い作りには最適だ。

 これらの本で紹介された手法を使えば、面白い問いを数多く生み出すことができそうだ。

 まず思いつくのが、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークショップの前に、参加者全員でこの本をベースとした問いづくりワークをしてから、そこで作った問いに対して、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドを使ったワークショップでモデルを作ることに進めることである。また、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドのワークで作品のストーリーの共有まで至ったら、その経験をもとに「問いづくりワーク」に戻る。

 つまり「問いづくりワーク」→「レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでのワーク」→「問いづくりワーク」のサイクルを作ると言うやり方だ。

 この方法は、2種類のワークショップを切り替えていく感じになるが、教育現場や細切れに研修時間を取ることのできる組織には適合するだろう。

 「問いづくり」のあとに、それぞれが「問い」を考えるベースになる情報収集を予習として組み合わせることができれば、さらに考える力を伸ばすことができそうだ。

「問い」の基本型を参加者に与える

 しかし、ゆったりと2種類のワークを繰り返すだけの時間が取れない場合もあるだろう。

 その場合には「問い」の基本型を、モデルへの質問に持ち込むという方法が考えられる。

 上記の記事で、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドで使えそうなクリーン・ランゲージとしては以下のようなものが考えられる。

・Xについて他に何かありますか?
・Xはどこにありますか、またはXの居場所はどこでしょうか?
・XとYの間にはどのような関係があるのでしょうか?
・次にXには何が起こりますか?
・Xはどこから来たのでしょうか?
・Xは(生じる)ことができるのでしょうか?
・Xは何が生じることを望んでいるのでしょうか?
・Xのために何が生じる必要がありますか?

クリーン・ランゲージの例

 これらはカードに印刷しておき、参加者にそのカードをみてもらいながらモデルへと質問してもらう方法である。
 これによって、少しは問いのバリエーションを広げることができるだろう。

 これによって出されるある問いは作品をみながら、その場で答えられるだろうし、ある問いは別途時間をとって追加のモデルを作ってもらうことで、より深く考える機会となるだろう。

 同じく、問いの基本型を用意するという方法は、子ども同士で行う知的探求の対話を推進するp4c(philosophy for children:子供のための哲学対話)でも推奨されている(問いを出すことに慣れるまで))。

 この本では、考えを深めるための7つの問いの基本型が紹介されている。これもカードに印刷して子供たちに参照させながら対話を進めることが推奨されている。

① What dou you mean by?:意味:あなたは本当は何といいたいのですか?
② Reason:理由:なぜそのように考えるのですか?理由は?
③ Assumption:前提:その意見の根っこにある考え方は何?
④ Inference:推論:もしそうなら何が言える?
⑤ True:真偽:それは本当なの?そうではない場合があるとしたら?
⑥ Example, Evidence:証拠:その正しさを示す具体的な証拠は?
⑦ Counter-example:反証:そうではない場合もあるのではないか?

豊田光世『p4cの授業デザイン』を筆者が修正したもの。

 この基本形のうち、①はレゴブロックで作った問いに対するモデルの説明で明らかにされるだろう。⑥も説明に紐づけて語られることが多いだろう。
 ②や③は、作られたモデルの中に表現されている場合もあるが、必要に応じて作り手に追加でブロック表現を足してもらってもよい。
 ④は、そのまま答えさせることもできるが、モデルの横の空間に追加で作らせるやり方もよいだろう。

レゴ®︎シリアスプレイ®︎における反論・反証の扱い方

 扱いに戸惑うのが⑤や⑦の基本型である。
 レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドでは、誰がどのようなモデルを作ったとしても、そのモデルが意味する内容を否定しないというエチケットがある。相手のモデルを否定する場合、レゴ®︎シリアスプレイ®︎メソッドが目指す「100-100」から遠ざかってしまう。加えてその場の心理的安全性が大きく損なわれるリスクがある

 その一方で、反論や反証と向かい合うことが、より深い思考や結論に至る一つの有力な道となることはよく知られている。したがって⑤や⑦を排除してしまうことは参加者の思考範囲を狭めてしまうことになりかねない。

 これについては、すでに誰かに作られその場に存在しているモデルの中に「反証」や「逆の意味」を見つけたときのみこの質問が有効になるようにすればよい。
すでにそれらがテーブルの上に存在しているのであれば、自分が質問によって否定されたということではなく、「2つの相反する存在の関係性をどう考えれば良いか?」という問いに焦点を当てやすくなるからである。

 もちろん、このルールでも、関わった参加者が自己否定の気持ちをもってしまうリスクがあるので、ファシリテーターは場にこの質問が出されたかどうかに十分な注意を払うことになりそうだ。振り返りのアンケートにこのような質問が出たかどうかをチェックして、後にフォローアップをすることも必要であるかもしれない。

 今回は「問い」のバリエーションを増やすための考え方やいくつかの方法についてまとめてみた。経験や実践例をもとに書いている部分もあるが、この記事を書く中で考えたことも多いので、ここでの考え方を検証できるように、今後のレゴ®︎シリアスプレイ®︎の実践もより一層工夫していきたい。

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