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MV力の鍛え方

「MV作りがしんどい」というボカロPのつぶやきをしばしば見かける。

だって綺麗な絵じゃないと見てもらえないし。
だって動きの多いアニメーションじゃないとクオリティ上がらないし。
それを求めると絵師・動画師の依頼料でお金がかかるし。

そんな理由で「ボカロPは辛い!」て言ってる人をよく見る。

私は、絵師でも動画師でもないけどMVをイラストから実写までいろいろ作ってきたボカロPですが、それはMVに対する偏見なのでは?と思う。

「MVのクオリティ=画力」 
「MVのクオリティ=アニメーションの動きの多さ」かと言われると、そうではないと思うのだ。


もちろん画力もアニメの動き具合もMVの魅力のひとつだけれど、「あるもの」次第では画力の高さもアニメの精度も仇となることもある。
「あるもの」次第で拙い絵がエクスカリバーになることもある。

今回のnoteは、MVにおいて一番重要な要素であり、画力がなくても財力がなくても素敵なMVを作れる、そして誰でも身につけられる「あるもの」の鍛え方についてのお話です。



①MVで一番重要なもの


「あるもの」とはズバリ「構成力」です。

曲に合った構成かどうか。
曲のテーマが伝わりやすい構成かどうか。

それ次第で、曲をより魅力的にすることも、反対に残念にすることもできる。 


②演出方法の引き出しを増やす


構成力の鍛え方として私的にとても有効だった方法は、「映画鑑賞ノートを作る」ことです。
舞台観劇ノートもいい。

このノートに書くのは、映画や舞台の感想ではありません。

「ストーリーを観客に伝えるために、どんな演出がなされているか」を分析してノートに書いていきます。

私はこれをする時、主に次の点に着目して分析します。
・観客が誰目線になるような画角か。
・時系列をどう並べ変えることで、分かりやすさ、意外性を出しているか。
・照明の種類と使い方。
・音響の使い方。
・小道具や大道具は、その物語の何を暗喩しているか。
・登場人物の人間性・関係性を、衣装でどのように表現しているか。
・場面が変わるシーンではどんな工夫がされているか。

などなど。

そして上記のポイントそれぞれについて、
・なぜその演出をする必要があったのか。
・その演出によってどんな効果があったか。

まで分析する。

何度も見ることができる映画は、1回目は純粋に楽しみながら観て、ストーリーがわかった2回目以降は演出面に着目してみてください。

また、小劇場舞台や古い無声映画を観る時は、上記のポイントにプラスで得られる発見がある。

例えば小劇場では、かなり限られた予算で作っているところが多いです。
ということは、使われる小道具・大道具・衣装は必要最低限のもの、言い換えれば、出てくる物全てが物語の中で何かしらの意味を持つものである可能性が高いです。
情報量の多い現代映画よりも注目すべきポイントが見つかりやすいので、分析もしやすいですよ!

無声映画などの昔の映画は、現代より技術が限られるため、その分おもしろい工夫がたくさん見つかる。
絵に自信がない方、アニメーションソフトなどの作るツールがあまり充実していない方は、ここは特に要チェック!

「絵が苦手なら、どうすればエモくなる?」
「もはや字だけで魅せる方法はないかな?」
「映像を動かせないなら、それをあえての演出にしてしまおう!」

みたいなね。
限られた素材でどう工夫すれば面白くなるかのヒントがたくさん詰まっています。


③映画分析をMV制作に活かせるのか


なんで映画鑑賞・舞台観劇ノートがMV作りに活きてくるのか。

②をやることで身につくことって、物語をいろんな方面から表現する方法なんです。
映画や舞台において、物語を伝えるのはセリフだけじゃないんです。

光の当たり方、音楽の入り方、何気なくそこに置いてある道具、衣装の着こなし、髭の伸び具合、画面の角度、話の進み方…。
登場人物たちが立ってるポジションだってそう。

あげたらキリがないほど、何もかもがそれぞれ意味を持っていて、いろんな方向から物語を表現しています。

これはMVにも活かせるのではないでしょうか?

曲が映画や舞台でいうところの脚本であるとすると、MVでどうやって表現していきたいかが見えやすい。
表現するのに必要なものが見えてくる。

例えば、

1.主役の人間性を表現するには
▶︎どんなキャラデザだと伝わりやすい?
▶︎画角を誰目線にするか?

2.主題を表現するためには
▶︎テーマを暗喩する物として何が適切か?
▶︎主題を伝えるのに必要な伏線となるシーンを作る!

3.曲の見せ場の迫力を増すためには
▶︎場面の切り替わりエフェクトに意味を持たせる!

などなど。

「ここを伝えるにはこれが必要」を曲の隅々まで繰り返すことで、MVの構成は決まっていきます。
ストーリーを映像化するための着眼点さえ身につけば良い、ということです。

最初はできなくても②の分析を続けていると、自然に身についていきます。


④音を見る力を身につける


ここまで映画と舞台からの学びをMVに活かすことを話してきました。
しかしMVはやっぱり音楽が主役。
上記のことにプラスで、「音を見る力」を身につけることも大切です。

曲作る人なら、曲に合った音選びの時誰しも思うことがあるはず。
ここはもっとキラキラした音使いたいな、とか、ふんわりした音ないかな、とか。
それって音に見た目のイメージみたいなのが、意識してなくてもなんとなく持ててるのかなって思います。

それを音だけでなく、曲全体でやる癖をつける。

「この曲は立体的だな!」
「この曲のイメージカラーはピンク!」
「この部分の音はなんかすごい眩しい!」
「ここはエジプトか?」

みたいなざっくりでいい。

そしたら②で得た引き出しと照らし合わせて、
「立体を潰さないためにあえてラフなタッチにしてみよう!」
「全体的にピンクで統一してみよう!」
「眩しい音に合わせてエフェクトつけよう!」
「エジプトらしい壁画タッチで描くか!」
みたいに考えていけば良い。

これは好きなアーティストの曲を聴きながら、どんやMVかなって想像を膨らませてからMVを実際に見てみるとかでも鍛えられる。


⑤これらを実際に活かしてみると


これらの鍛え方をしてきて身についた演出方法の引き出しを使ったMVを、例としておまけであげときます。

1.主人公の人間性の表現

「一方的に好きだった相手に恋人が出来たことで逆上して殺しに行く」という曲。

ずっと変わらない画角にすることで、自分本位で他人の気持ちを何も考えられないストーカーらしい人間性と、待ち伏せている様子を同時に表現しました。

↑ラスト1回だけのこの場面転換で、ついに犯行に及んだこと、趣味の違うデザインの2本の傘からストーカーしている相手に恋人がいること、ドアロックがかかっておらず恋人はまだ帰宅していない状況であること、などいろいろ表現できます。

2.主題の表現

「アダルトチルドレンの苦しみ」が主題となっている曲です。
こちらのMVでは、主題を暗喩する小道具を入れました。
踏んづけられた「積み木」です。

「遊び道具」を子どもらしさの暗喩とし、それを踏んづける行為で子どもらしさを犠牲にするアダルトチルドレンを表現しています。

ちなみに持っている黒い旗は後半「白」になります。
主人公の心理状態が限界であることを表しています。

⑥まとめ


長々と書きましたが、結論はこれ!

MVの構成力とは、

☆頭で得た「伝えるために必要不可欠な演出」
☆心で得た「フィーリングの音の見た目」

を組み合わせつつ、

☆限られた素材を活かして工夫して

表現していく力です。

映画・舞台の分析は、これらの力を効率よく高めることができるひとつの方法です。
あくまで一例ですが、私は学生時代これをやり続けていたことが今MV作りに活きているのを実感しています。

画力やアニメーション技術と違って、手先が器用でなくても、高いソフトがなくても、やり続ければみんな出来るようになります!

ぜひぜひMVへの後ろ向きな気持ちは捨てて、チャレンジしてみてほしいなと思います。

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