見出し画像

カンヌライオンズ・チタニウムグランプリの歴史(4)

Obama for America「Obama/Biden Presidential Campaign」

2009年のチタニウムグランプリは、2008年のアメリカ合衆国大統領選挙戦におけるバラク・オバマ&ジョセフ・バイデン陣営のプロモーション活動に与えられた。

オバマ陣営は「MyBarackObama.com」(通称MyBO)を立ち上げ、Facebook、YouTube、Twitterなど16のソーシャルネットワークやiPhoneアプリなどを活用して、有権者と双方向のコミュニケーションをとった。
Facebookやメールだけならヒラリー・クリントンやジョン・マケインなど他の候補者も利用していたが、これだけのソーシャルネットワークを駆使し、また携帯電話のテキストメッセージを使って選挙に関する重要な情報を定期的に登録者に発信した点で彼らは新しかったと言われている。
また、献金は1ドルからクレジットカードで可能という手軽さもあり、395万人から7億4500万ドル(約750億円)という史上最高額の政治資金を集めることに成功したという。

ある世論調査によると、若年層の有権者においてオバマを好む層はマケインを好む層の2倍存在したそうだが、これには徹底的にインターネットを活用した双方向のコミュニケーションや気軽に支援できる仕組みが存在したことが大きかっただろう。

「Obey Giant」のポスターで有名なグラフィティアーティストのシェパード・フェアリーがオバマを支援するため自主的にポスターを制作したり、YouTubeに「Crush on Obama(オバマに首ったけ)」という自作の応援ムービーを投稿するオバマガールが現れたりといった現象も発生した。

画像1

シェパード・フェアリーの「Obey Giant」と「HOPE」


「広告」の可能性を拡張した受賞

個人的には、この受賞が発表されたとき、政治活動がマーケティング・コミュニケーションの施策として表彰されることに強い違和感を覚えた。(カンヌライオンズは当時まだ「広告祭」だった)

というのも、この事例を最高の広告として表彰するということは、オバマ陣営は彼らが掲げる理想や公約によって当選したのではなく、巧みなコミュニケーション施策によって当選したのだと認めることになる気がしたからだ。

政治というものが、ましてやその中で世界最大級のイベントであるアメリカ大統領選挙ともあろうものが、コミュニケーションの巧拙によって左右されてほしくなかった。

しかし振り返ると、この事例でおこなわれた様々な施策は、私たちが広告主のマーケティング・コミュニケーション活動として提案する施策と本質的に変わるものではないし、結果としてオバマ陣営の当選に大きく寄与したことも間違いないだろう。

であれば、この事例が広告賞を受賞しても何ら問題はないはずだ。
むしろ、広告企画という仕事が大統領選挙に関与しうるということを気づかせてくれる事例であり、広告の可能性をこれまでになく拡張する受賞だったと言えるのではないだろうか。

最後まで読んでいただきありがとうございます。 この記事が何かのお役に立てば幸いです。