頭より目の方が賢い。デザインの必然性にこだわるブックデザイナー 佐藤亜沙美の美学。
「企画でメシを食っていく2019」、今回のテーマは「デザインの企画」
ゲスト講師は祖父江慎さんの事務所「コズフィッシュ」から独立し、「サトウサンカイ」を設立。『Quick Japan』のアートディレクターを務め、『静かに、ねぇ、静かに』(本谷有希子)『生理ちゃん』(小山健)など人気書籍の装丁を手掛ける佐藤亜沙美さんをお迎えしました。
「逆」をいく少女時代
図工・美術の時間に「桜の画を描きなさい」と言われて、ただ桜を描くのではなく水道をメインに桜を描き、お題に対して「逆」をいく少女時代を過ごしていた佐藤さん。
「なぜみんなが考えつかないことを描こうとしたのですか?」というモデレーターの阿部広太郎さんの問いに対して、驚かせたいと思っていたのもあるけれど、面白いねと言ってくれる先生の存在が大きかったとのこと。
本との思い出についても話してくださいました。
「不登校になった時にお風呂で本のセリフを読み、その主人公になりきる妄想をしていました。そのときに本に助けられたんです」
「関わる人の世界が狭いとき、隣の人の声がすべてと思ってしまいます。でも、小説に書かれている世界を読むことで、全然違うところに連れて行ってくれたり、色んな人間が自分の中に入ってきたり。その感覚が面白かったんです。文藝は弱い声を肯定するものだから、普通通りに出来ない自分を肯定される状況が豊かに含まれていて、ダメでもいいんだと思えたんです」
祖父江さんなら知っているという確信があった。
佐藤さんはデザインの専門学校に入学するも、実践の中で学びたいと思い、すぐに辞め、印刷所の中にあるインハウスの広告会社に就職します。
仕事にやり甲斐を感じながらも、次第に心境の変化があったそうです。
「広告の仕事をする中で、自分が作っているものが誰の目に触れてどこに届いているのかという曖昧さが非常に苦手だと気づいたんです。大勢に伝えることの不確かさが心許なくて、迷っていました」
「その時、広告づくりの参考に本屋に通っていて、手に取る本と手に取らない本があるということに気がつきました。手に取る本のほぼすべてが同じデザイナーさんで、祖父江慎さんでした。それから、祖父江さんの講演会に行き、控室に突撃して顔と名前を覚えてもらおうとしていました」
「自分の知らないことを祖父江さんなら知っているという確信がありました。本という真面目なジャンルで祖父江さんの手がけられたものは圧倒的なパワフルさがありました。普通じゃないようにしたいんだけど、どうしたら成立するんだろうかと惹かれたんです」
0から1が立ち上がる瞬間は常に孤独。
平日は会社に行き、土日は祖父江さんの事務所・コズフィッシュに手伝いに行っていたという佐藤さん。その生活を一年続けて、晴れて入社します。
働きはじめて衝撃を受けたそうです。
「外から見ていいなと思っていた仕事は、あらゆることが整っているのだろうと私は思っていました。入社して驚いたのは、それらのほとんどは基本的に一人がメインで動かしていて、個人から生まれていたことでした」
「チームを組むことで周りへの気遣いが生まれて、パワーが弱まることがあります。それぞれが自分の筋肉を使って1つの作品を作りあげるんです。0から1が立ち上がる瞬間は常に孤独なのだと知りました」
話を聞いている企画生たちも静かに熱を帯びていきます。
大切なのはその作品にとっての必然性
佐藤さんが祖父江さんから教わったこと、それはー
「その作品でなければ成立しないデザイン=必然性があること」
「お金をかけてできるものが必ずしも面白い訳ではない」
そして、特に企画生に響いていたのは、
「普通に落ち着かせないでね」の言葉でした。
「普通にはパワーがあり、普通だと安心で分かりやすいしあらゆる面で便利です。普通にするとそれっぽいものになりますが、いかに潜り込んで内側から滲みだすかというトレーニングをしました」
「視覚的な刺激を生み出すために、その作品の必然性を探ります。そこで編み出したのが手書きラフを書くことでした。A4一枚に自分のアイデアをまとめて見せることで整理されていくんです」
ここで佐藤さんが手掛けた作品の造本プランを特別に見せていただきました。
内沼晋太郎さんの著作『これからの本屋読本』は上部の角がカットされた特殊な装丁になっています。最初本屋さんのような家形にしようとなりましたが、そのためには高額な型が必要になるということが判明したそうです。
もちろんそんな予算はありません。
しかしそこで諦めないのが佐藤さん。現場に行きどんなことが出来るのか、会話と調整を繰り返すことで、断裁機を使って角を一つ一つカットしてもらう製法辿りつき、装丁を完成させることができたそうです。
100年後も残したい情報は、本。
質問の時間では、企画生から次々と質問が上がります。
「電子書籍があることで、本は無くなってしまうのではないか?」という質問に対して佐藤さんは…
「コーヒーのシミと一緒に記憶する、ということが書籍にはあると思います。かたちがあることで、この情報を内包しているという身体性が生まれます。そういう点で紙の本が持つ力を感じています」
「電子書籍だと視覚的に残ることは今はないので、100年後も残したい情報は今のところ本が有効だと思います。ただ、電子書籍がものすごく読みやすくなったら本はまた別の役割になるかもしれません」
その上で、デザイナーとして何が出来るかも語ってくださいました。
「私にしかできない経験や知識をなるべく蓄えておいて、それを具現化することです。常に危機感は持っているので装丁のデザインをする以外の仕事も意識的に取り組んでいます。そこから派生して新しいことができたらと考えています」
プレッシャーが高いものは今挑戦すべきこと。
モデレーターの阿部さんが最後、佐藤さんに質問します。
「新しい作家の方との仕事の時、プレッシャーはあるのでしょうか?」
佐藤さんは、優しくも強く、語ってくれました。
「人と会うのが苦手で、打ち合わせのたびに緊張して苦しいなぁ思うこともあります。でも、プレッシャーが高いものは今挑戦すべきこと。自分に新しい何かをもたらすものとして受け入れています」
本のデザインをアップデートするために常に行動を起こす佐藤さん。
そこに佐藤さんの美学を感じました。
キャリアハックでの記事もぜひご覧ください
企画メシもいよいよクライマックス。最後まで駆け抜けていきます。
ライター:市川怜美
サムネイルデザイン:小田周介
写真:加藤潤
※「企画でメシを食っていく」からのお知らせ※
5周年を記念して、11/3(祝・日)にBUKATSUDOにて「企画祭」を行います。ぜひ、下記のサイトをご覧ください&お越しください◎
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