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「自分に才能がないことを認める才能があった」脚本家・政池洋佑さんの夢の叶え方

コピーライター・作詞家の阿部広太郎さん主宰の連続講座『企画でメシを食っていく2023(通称:企画メシ)』。第6回のゲストは、脚本家の政池洋佑さん。脚本を担当した映画『ハケンアニメ!』は、アカデミー賞をはじめ多くの賞を受賞しました。

政池さんがどんな経緯で脚本家になったのか、仕事への取り組み方など、企画の種となりそうなさまざまなことをお話してくださいました。レポートライターのぐみ(企画メシ2022卒業生)がお送りします。

(左)阿部広太郎さんと(右)政池洋佑さん

高校の「日誌」が周りを巻き込んだエンタメの原点

阿部広太郎さん(以下、阿部):政池さんは少年時代、「今思えば企画をしてたな」と思うことはありますか?

政池洋佑さん(以下、政池):高校のとき、日直が書く日誌に普通の内容以外に「先生の言ってたちょっと面白いフレーズ」とか、そういうことを書きまくってエンタメスペースにしてました。それがきっかけで、他のみんなもそこでふざけるようになって、めちゃくちゃ日誌を書くようになりました。自分がしたことが結果として遊びの媒体になったという意味では、今思えば、あれが原点のような気もしますね。

中学のときめちゃくちゃ帰宅部で、クラスで3番目に冴えないぐらいの男の子を想像してもらえば多分俺で。「これは良くないな、人生変えなきゃ」と思って高校で突然野球部に入部しました。

阿部:帰宅部だった中学時代は、ドラマをたくさん観たりとか、物語やドラマに触れる機会はあったんですか?

政池:バラエティーよりはドラマや映画が好きでした。ある意味救いだったのかもしれないですね。「耳をすませば」が特に好きで、その影響で所縁のある地域の大学に入りました。
それこそ今の阿部さんみたいな職業になりたくて、広告系のゼミに入ったのですが、就職活動がうまくいかなくて、結局失意のもと普通のサラリーマンになって働きました。

就職失敗。失意のどん底で「自分でできるクリエイティブ」を発信した

阿部:ちょっと自分がやりたかったこととは違うんだよなぁ、という感じですかね。

政池:サラリーマンが悪いわけじゃないし失礼なんですけど、周りの友達がテレビ局や代理店で働いてたから、「なんてつまんない日々なんだ」と思ってしまって。当時付き合っていた彼女にも遠距離になって振られて、最悪な社会人1年目でした。

それこそ阿部さんの本(『あの日、選ばれなかった君へ』)を読んで共感しました。ちょっと違いますけど、僕も順風満帆なクリエイティブ人生じゃなかったので。

阿部:もやもやしながら働いていたところから、どういう気持ちでいっそ会社を辞めようとなったんですか?

政池:しばらくは辞めなかったんです。自分たちでクリエイティブを発信できないかなと、同期の仲間と一緒に「カケダシ.com」という新人1年目とか2年目の人にインタビューするサイトを作りました。当時、10年目とか結果を出している人のインタビューはあったんですけど、新人の人にっていうのはあまりなくて。それと「お昼休みの小旅行」っていう企画を作りました。 「お昼休みのたった1時間で、飯を食わずにどこまでお昼休みを楽しみ切るか」というコンセプトでいろんなことをして。カラオケ行ったり、銭湯に行ったり、裁判の傍聴に行ったり、 美術館行ったり。

そんな企画コンテンツを作ってて、「やっぱこういう企画作るの楽しいな」と思ったんですよね。仕事がつまらなさすぎるからやらざるを得ない、みたいな感じで、逆にそれが良かったのかもしれないですね。

それで辞めようと思いました。昔お笑い芸人をやっていたという先輩に「そんな甘いもんじゃないぞ」と言われましたけどね(笑)。

放送作家に弟子入り。しごかれても折れなかった理由

阿部:次のステップは、どういう風に踏み出していったんですか。

政池:放送作家の方に弟子入りしました。こんなこと言ったら怒られちゃうんですけど、放送作家を目指してる人って、すごくちゃんとしてる人かすごくやばい人、いろんな夢を諦めて流れ着いた感じの人かどっちかで。師匠はちゃんとしてる方だったんですけど先輩の中にはやばい人もいましたね。企画書を川に流されたり、破られたり、ボールペンを折られたり。結構しごかれましたね。「どうかしてるぜ放送作家」と思いながら続けてました。

阿部:ま、マジですか……。でも、そんなちょっと荒くれ者の先輩たちにしごかれながらも、心が折れなかった理由は、なんだったんですか。

政池:もう背水の陣だったのかもしれないですね。今思えば25なんてめちゃくちゃ若いんですけど、周りの友達は華やかな場所で輝いていて、もう引くに引けないというか。

阿部:とにかくやるしかない!と仕事をしていて、初めて番組のクレジットに名前が載ったときのことは、やっぱり覚えていらっしゃいますか。

政池:覚えてますね。俺が書いた締めのセリフをタレントさんがそのまま読んでて。うわって胸が熱くなった記憶があります。絶望の中にある希望を見つけて、走ってたって感じだったんですよ。そういう楽しい瞬間を人参に耐えてたって感じの20代半ばでしたね。

「気の乗らない飲み会」が脚本家のキャリアに繋がった

阿部:どのようなきっかけで脚本に足を踏み入れていったんですか?

政池:放送作家は違うなというか、自分より好きな人たちがたくさんいる。自分が好きなのはドラマや映画で、やっぱりそっちをやりたいなとやってみて改めてわかって。コンクールに応募して賞を獲ったりしたんですけど、なかなか仕事には繋がりませんでした。

そんなときに新卒で勤めた会社の先輩に飲みに誘われて、全く乗り気ではなかったけど、偶然その場に有名な脚本家が居て一緒に飲もうよって言われて「僕、脚本家になりたいんです」って言ったところから、後輩としていろいろ面倒見てもらうようになって、そこから「ナースのお仕事」とかをやっていた金子ありささんに弟子入りしてキャリアが始まりました。

阿部:面白いですね。賞も獲られていたけど、繋がったのは飲み会!

政池:めちゃくちゃ強運でしたね。新卒で入った会社で働かなかったら、この出会いはなかったですし。だから、よく後輩とかに言ってるのは、「コンクールとかに出すのももちろん大事だけど、やっぱり結局この業界って、人と人の出会いだったりするから、なるべく現場に早く飛び込む方法が大事だよ」って。もちろん俺は運が良すぎたんですけど、早く現場の人と知り合うことが大事かなってのはすごい思うし。

東京って、知り合いの知り合いぐらいに行ったら、クリエイターいるじゃないですか、大体。
だから、バットを振るのももちろん大事なんだけど、さっさと打席に立つっていうか、俺は運良くそう気づけたので、後輩にはなんかこと伝えるようにしてます。

夢の先にも棲み分けがある。自分の武器を見つける大切さ

阿部:仕事の広げ方って2パターンあると思っていて。黙々と職人のようにやる人もいれば、コミュニケーションの力で仕事を増やしていく人もいますよね。ちゃんと誰かと繋がっておいたりとか、仲良くしておくっていうことの重要性を最近ひしひしと感じます。できるのであれば、知り合っていくっていうのは、本当に大事ですよね。

政池:大事ですね。もちろんいろんなやり方があると思うんですけど、僕なんかは「自分に才能がないことを認める才能」があったと思っていて。例えば坂元裕二さんは天才ですけど、そういうタイプとは違う。

じゃあ自分の武器はなんだろうなと思ったときに、師匠の金子さんによく言われた「政池くんって心折れないよね」という言葉で。全然褒め言葉じゃないですけど、心の折れなさを槍にして現場に飛び込んで、もうどんなピンチが来ても、「うわ、そのピンチ燃えますね」と思ってないけど言ったりして。 裏を返せば、それってある種のコミュニケーション力だった気がします。

コミュニケーション能力が自分で長けてないなって思う人は、別にそこを頑張らなくていいと思うんですけど、自分にとってはある種武器だったんで、いろんな人と繋がろうっていう意識はありますね。

阿部:大共感です。そんな中で、政池さんが脚本家としてやっていけるなと思われたお仕事はどんなものでしたか?

政池:自由に楽しく書いて、プロデューサーや出演者の人が喜んでくれる作品に出会えたことですね。これも偶然の出会いからうまれた仕事なんですけど、デビューして3作品目ぐらいで。逆に言うとそれまでは結構つらくて、デビューしたけど全然楽しくなかったけど、その時は自分の好きとプロデューサーの好きと世の中の好きが一致したって感じで、すごく楽しかったですね。

阿部:めっちゃいい話ですね。その気持ちよくお仕事できた理由は、やっぱり一緒に仕事する相手のおかげだったりするんですか?

政池:そうですね、そのプロデューサーはすごく褒めてくれるタイプの人で。褒めてくれると何がよかったのかわかるから、すごくありがたかったですね。その人とは今も仕事させてもらってるんですけど、そこから別の仕事に繋がったりもして。

あとは、合う場所って結構大事だと思います。阿部さんの仕事のコピーライターで言うと、例えばしっとり系の素敵なコピーを書くのと、笑える系のコピーを書くのは違うと思うんですよね。脚本家になってみて思ったんですけど、夢の先にも棲み分けがあるんだなってすごく思いますね。僕はコメディーが好きで書きたいですけど、例えばシリアスなものを振られてもうまく書けないと思うし、逆にそっちが得意な人がコメディーを振られても、もちろんそれなりに書けるだろうけどちょっと苦労するかもしれない。

阿部:自分の居心地のいい部屋を見つけるのが大事なんですね。

政池:まさにそうですね。

「自分にしかできないこと」が今の自分のテーマ

阿部:すごく仕事が順調そうに見えるのですが、今脚本家としてぶつかっている壁とか、感じている課題はありますか?

政池:日々壁にぶち当たってますね。人の脚本を見て面白いなって思うことも多いですし。心の底から思っているのは、オリジナルを作らなきゃなってことです。「ハケンアニメ」でアカデミー賞をいただいて、すごくありがたいんですけど、辻村深月さんの原作があるものなので。それだと「脚色家」だなと思うし、自分がやりたいのもオリジナルドラマだし、オリジナルの企画をいっぱい通さなきゃなって思ってます。

阿部:オリジナルドラマを作りたいということで、作戦としてはやはり、機会や出会いを大切にすることなんでしょうか?

政池:そうですね。あと最近は、勇気を持って断ることの大切さを痛感してます。ありがたいことに、仕事の依頼も多くいただいています。でも人間、物理的に全部の仕事はできないし、断らないと企画を出す時間も無くなってしまう。断るのが苦手で引き受けちゃうので、断り方の本を買って読んだりしています(笑)。次の仕事が来るような断り方ができるといいなと思いながら(笑)。

阿部:先のことを考えた見極めが必要になってきますよね。

政池:結局、今やってる仕事が次の仕事を呼ぶじゃないですか。果たして本当に次やりたい仕事につながるのかどうかみたいなことを、まずは1回考えます。あと僕、本当に飲み屋運が良くて、たまたま行ったバーで「プロポーズ大作戦」を書いてる大好きな脚本家の金子茂樹さんが偶然隣にいて。オリジナルドラマばかりやってる人なんですけど、「なんでそんなに楽しそうな仕事ばかりやってるんですか」って聞いたら「俺にしかできない仕事しか受けないから」って言ってて。「俺にしかできない仕事、かっこいい〜!」と思って。今の僕のテーマですね。

億劫な飲み会ほどいい出会いがある

阿部:出会い運の秘密を知りたいんですけど、飲みのお誘いはあまり断らないようにしてるんですか?

政池:基本断らないですね。 億劫な飲み会ほどいい出会いがあるっていう持論があるので。脚本のキャリアが広がるきっかけになった飲み会も、気乗りしなかったけど行ったらすごい出会いがあった。億劫と感じるということは、自分にとってコンフォートゾーンじゃないということ。自分の居心地のいい世界から出ることが、普段行かない世界に飛び込むことなのかなって。もしこの理論でみなさんが気乗りしない飲み会に行って、本当にやばい飲み会だったら申し訳ないんですけど。

自分なりの「面白い」の軸を持つことが大事

阿部:政池さんがお仕事を頼まれたとき、まず企画のとっかかりとしてどんなところから手をつけますか?

政池:まずは自分なりの「面白い」の軸、基準を作ることがすごく大事だと思います。この設定だったら広がりそう、ワクワクできそうってことを考えることですね。面白いと思うものってみなさん違うと思うんですけど、なんでそれが面白いと思ったのか分析する。例えば僕はドラマの仕事をしているけど、ドラマ以外のところで考えるのも大事だと思っています。例えばCMやライブとか。

感動したことをより抽象化して、これがなんで感動したのか、心動いたのか、みたいなことを自分の中でリストアップするようにしていて、 多分そういうことの積み重ねが、自分の中の面白の基準を作ることになるような気がします。

アイテム、場所、時間……自分にとってベストな環境を見つけてあげる

政池:方法論でいうと、僕は企画のはじめにまずB5のノートに3色のペンでとにかくバーって書くというのをやります。この瞬間が一番楽しい。

僕にとってはB5と3色ボールペンがベストなんですけど、自分が企画を出しやすい環境を作ってあげるってすごく大事で。みなさんにもノートは全ての大きさを試してみてほしいです。白紙がいいのか、線が入ってるほうがいいのか絶対みなさんにも自分にとってやりやすいアイテムや環境があるはずなんです。ノート・ペン・カフェ・時間など、意識するとよりどんどん出てくるようになるので。

好きなアイテムがわかると企画考えたくなるので、「自分の大好きなこのノート開こう!」って思えるようなものを見つけてほしい。才能がなくてちょっとサボっちゃうような人は、そういう状況を作ってあげるのってすごく大事なんじゃないかなって思います。

後半は、政池さんが出した課題の講評。なんと、約60名の企画全てにFBしてくださいました。

「見て面白い」じゃなくて「見る前から面白そう!」と感じる設定のオリジナルドラマ or 映画の企画を考えてください。 「キャッチーな企画のタイトルと、ログライン(3行〜5行)」、渾身の1企画をお願いします。

ドラマで大事なのは「設定・キャラクター・展開」で、今回の課題は設定にあたる部分とのこと。よかったところや惜しいところ、そのままだとここが微妙など、一人ひとりに対するアドバイスがなるほど……という内容ばかりでした。

全体を通して、想像もしていなかったお話がたくさん出てきて、何かしら企画に関わる仕事に役立つのはもちろん、人生をワクワクさせるヒントになるようなアイデアがたくさんあったなと思いました。希望の就職ができなかった中で自分にできる企画を考えていらっしゃったこと、億劫な飲み会ほどいい出会いがあるというお話には、すごい行動力だなと思いました。

作る仕事はどうしても才能やセンスについて考えたり、このやり方でいいのだろうかと悩んだりすることもあるけれど、自分の武器や向いているテイストなど「夢の先にも棲み分けがある」というお話も刺さりました。私もいつか、自分にしかできない仕事ができるようになりたい!

いちばん目から鱗だったのは、アイテムや時間など、自分にとってベストな環境を作るのが大事だという話です。うまく考えられなかったり進められなかったりすると「なんて自分は駄目なんだ……」と思いがちだったのですが、とりあえずいろんなノートを使ってみよう! とワクワクしました。

レポートライター:ぐみ(2022年企画メシ卒業生)
編集:きゃわの

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