企画と私vol.1「かけ合わせが、お酒も、人生も、おもしろくする。」堀 雄飛
豊かな大地からおいしい作物が生まれるように、豊かな人生からおもしろい企画も生まれるはず。そんな仮説のもと企画人が企画人たる所以を、ワークだけでなくライフ面から紐解いていく「企画と私」。
記念すべき第1回は、東京から北海道余市町へ移住し、仕事のかたわら「お酒づくり企画」に励む企画人・堀 雄飛さん。「アイデアはあるものの組み合わせ」とはよく言いますが、堀さんの人生こそまさにアイデアにあふれた「企画」そのもの。「移住者の視点」と「地元の資源」のかけ合わせで作るお酒、「仕事」と「趣味」のかけ合わせで生まれる好循環などについて深掘っていきます!
お酒好き電通人、余市でお酒づくりはじめます。
―そもそも、どうして東京から余市に移住されたのでしょう?
堀さん:子どもが生まれたこともあって、東京でサラリーマンをやり続けていくことに疑問を感じ始めていた時期にちょうどコロナになって、世の中的な転換期だったこともあり、動くなら今かなと思って。
そんな頃、余市に家族で旅行に来て、余市SAGRAというオーベルジュに泊まったんですけど、そこでオーナーに「東京以外の拠点を考えてる」とか「お酒づくりに興味がある」って話をしたら、ワイナリーや農園、なんなら小学校の校長先生とも引き合わせてくれて。そんなこともあって、まずは環境を変えてみて、住みながらお酒づくりのイメージを膨らませたり解像度を上げていこうかなと思って、今ちょうど1年経とうとしている感じです。
―お酒づくりは、ずっとやりたいと思っていたんですか?
堀さん:もともと日本酒が好きで、飲むのも、酒蔵めぐりとかも好きだったり、仕事でも官公庁案件で日本酒を海外にプロモーションする事業に携わっていて。そんなことから、日本酒はもちろん、ワイン・ウイスキーとか、日本ブランドの農産物を使った製品ってものすごく成長の余地があると実感してたんです。お酒は嗜好品だし、誰かが「正解」を作るものでもないし、向き合うテーマとしてすごく面白いなって思っていて。自分で何かを生み出してみようと思った時にも、お酒というテーマが真っ先に浮かびましたね。
―どんなお酒づくりを目指されてるんでしょう?
堀さん:今はブランデーづくりをやりたいと思ってます。ブランデーの原料は果物なんですけど、ここ余市はニッカがリンゴジュースづくりから始まったことでも知られるように、果物が特産で。果物って決して新しいテーマではないし離農される方も少なくないのですが、もう一度見直してもらいたいというか、まちにある資源を、切り口や光の当て方を変えることで産業に厚みを与えるようなことがしたいと思っていて。東京から来た人間だからこそ、今あるものに新しい風を生めたらよいなと。
―「今あるものに新しい風」、いいですね。
堀さん:アイデアも、「あるもの」からしか生まれないじゃないですか。私は0→1を考えるのはあまり得意じゃなくて、「あるもの」をいろんな方向から見てみるみたいなアプローチの方が自分には向いてて。ブランデーも、原料次第でいろんな種類ができるんです。フルーツのブランデーもあれば、薬草のブランデーもある。余市は、果物のバリエーションが豊富だし、可能性が大きいと思っています。今は選択肢は広く持ちながら、まずはステップ0をどうやったらステップ1にできるかなっていう段階で。やりながら、模索している感じです。笑
お酒づくりが仕事に活きて、仕事がお酒づくりに活きる。
―お酒づくりが、仕事にも役立っているのだとか?
堀さん:いま、異業種からワインづくりに参入する道内企業のワインのブランディングに向けたお手伝いをしています。
メンバーを余市に連れてきたこともあって。一緒に農家さんや・ワイナリーの話を聞いたり、ワインを扱うためのアイデアの種をたくさん植える、メンバーとワイナリーの橋渡しも自分の役目だと思っています。クリエイターだったりプランナーだったり、粒ぞろいのメンバーをワインの世界にはめていくための潤滑油みたいな動きですね。
社内メンバーが続々ワインにハマっていってるのも面白いです。チームとしてワイン熱が高まっているということは、クライアントと同じ目線に立って、同じ熱量でいられるということなので、パートナーとしての成長につながる。作り手に寄り添うのは、企画の第1歩ですからね。
―仕事でもお酒に関わって、ご自身のお酒づくりに影響はありましたか?
堀さん:ポジティブなところだと、やっぱり熱意というか、人の情熱でお酒って生まれるんだと改めて感じたというか。どんな異業種からでも参入できるし、作り手として工夫のしがいもある。一方で焦りも感じて、プレイヤーが増えているから、新規参入がかつてほどチヤホヤされにくくなっているし、ライバルも多いなと。だからこそ、差別化のための工夫とか、チャレンジしなきゃいけないことはたくさんあるなと感じています。
―お酒づくりから少し話は変わりますが、東京と北海道で「企画人」としての環境の違いなどは感じられていますか?
堀さん:東京も北海道も企画としてやることは一緒なんですけど、やはり企画は「あるもの」の組み合わせなので、北海道にある素材を使えるというのはこっちで企画をできるいいところですよね。「北海道」という単語そのものにブランドや、説得力があるじゃないですか。「北海道」に説明がいらないから、そこを前提として企画に走れる。北海道ブランドのベースを使って事業・企画・プロモーションを仕掛けられることが電通北海道の可能性だと思います。素材がいいと、企画で伸びしろを描きやすい。
あなたにとって、企画とは?-「実現された思いつき」
ーでは最後に、堀さんにとって「企画」とは?
堀さん:これは東京にいたときのプランナーの先輩の言葉なんですけど、「アイデアは"企画"と"思いつき"に分かれる、両社の決定的な違いは根拠があるかないかだ」って。その言葉は自分の中で心に留めておこうと思って、北海道に来ても大事にしている言葉です。根拠のないアイデアはただの思いつきで企画ではないけど、根拠を積み重ねていくことで、説得するためのストーリーや突破力が生まれて企画になります。
思いつきを企画に持ち上げていくプロセスは自分の中でもまだ確立できてないですが、この会社の強みは「実現力」だというのはとても感じます。実現させる力がある人の密度が高いし、誰かが言った思いつきを実現したいと思ってくれる仲間も多い。
あとは、こういう自然の中でいい空気を吸いながらアイデアを考えてみるというのもいいんじゃないですかね、オフィスで考えるのとは別のアウトプットが生まれたり、気持ちの入り方ひとつで、思いつきが企画になるかが決まる、というのはあると思うので。
―地元の果物と東京仕込みの企画力。社内外メンバーのスキルや熱意。色々なかけ合わせを試し、週末に畑仕事をしながら"思いつき"を"実現"まで持っていく堀さん。この先どんなお酒が出来上がっていくのか、どんな仕事が生まれていくのか、非常に楽しみだ。
(ライター:寺岡 真由美)
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