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女子サッカー・浦田佳穂の指導者観に迫る。vol.1 JFAアカデミー福島の“言語技術”


「女子サッカー界に、こんな指導者がいることを知って欲しい」

話を聞きながら、そう強く感じました。気づいたら4時間半も経っていて。

この方です。

浦田 佳穂(うらた・かほ)
JFAアカデミー福島出身。順天堂大学へ進学し、主将として創部初のインカレ出場を果たす。2015年ユニバーシアード日本代表に選出。卒業後は、なでしこリーグで3シーズンプレー。流通経済大学男子サッカー部コーチを経て、今年度から流経大柏高校女子サッカー部で監督を務めている。
Twitter→https://twitter.com/uuuuRa525?s=20

指導者としての考え方自体にも、考えていることを的確に伝える言語力にも、圧倒されるものがありました。もちろん、熱量にも。

そこには、かほさんのバックグラウンドが大きく関わっていました。かほさんの指導者観とともに迫っていこう、と。

まずは、JFAアカデミー福島から。私自身、“エリートサッカー集団”だと思っていました。その強さの秘訣が、言語技術トレーニングにあったとは...。

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浦田 中学から実家を出て、JFAアカデミー福島(以下、アカデミー)に1期生として入りました。中高一貫で6年間完全寮生活。公立の学校に通いながら、クラブチームで活動しているという感じでした。

市川 アカデミーって、どんな場所だったのですか?今も育成年代では強豪チームですし、どんな指導が行なわれているのか、気になります。

浦田 アカデミーは、すごくエリートなイメージがあると思います。実際サッカーに関しては、まさに国内トップレベルの環境です。中学生でここまで恵まれている環境ってどこにもないだろうなと感じていました。プレー環境に関しても、スタッフに関しても。

でも、アカデミーが実は一番力を入れていることが何か、知っている人は少ないと思うんです。

それが、人間性の育成、キャリア教育です。「サッカーよりも、何よりも覚えている」と卒業生が口を揃えていうくらい。今振り返っても、本当にやってて良かったと思いますね。当時はめんどくさかったし、めちゃくちゃきつかった記憶しかありませんが。(笑)


中でも一番印象に残っているのが、コミュニケーションスキル、言語技術(以下、コミスキ)の授業です。国語とは少し違って、“話す力、聞く力、自分の中で整理する力”をつけるもの。

あとは、マナーセミナーもありました。基本的な食事のマナーやレストランでの振る舞い方、和室・洋室での入り方、礼儀作法といった内容です。海外に行ったら日本とはマナーが違うから、身につけよう、ということで。先生も面白くて、楽しかったね。「マナーとは愛です」みたいな。(笑)


市川 コミスキ、気になりますね。サッカーをする上で、絶対生きてくる。

浦田 そうなんです。サッカーで試合中にチームメイトと話す時間は10秒、20秒とほんの一瞬。限られた時間で、いかに正確なコミュニケーションがとれるかが問われます。前のプレーについてどう思ったかを自分の中で整理してわかりやすく伝えた上で、相手の意見を聞く。逆に聞かれた側は、自分がどう思って、どうしていきたいのかを伝える。効率よくやらなければいけません。

このプロセスができるのと、「さっきのあのプレーわからないよね...」で終わってしまって、解決しないまま次が始まってしまう、のとではプレーの質が全然変わってきます。ピッチ内は、監督のものではありません。選手同士で対話して、作っていく場だと思っています。

自分の行動を明確にして、目の前の課題に対してのWhyをどんどん自分たちで掘り下げていく。それを、相手に伝わるように解説できるようになるところまでが、コミスキの目指すところです。

市川 サッカーに限らず、多くの団体競技で求められる力ですよね。私が今やっているタッチフットボールでも、プレー間の25秒で次のプレーコールを決めなければなりません。中身の戦術的な判断がどうだったかという振り返りに加えて、「25秒でどういうコミュニケーションを取れば良かったのか」という観点で振り返ることも大事だなと。一人ひとりが“言語技術力”を上げることで、まだまだ質を高めていけると改めて感じました。

大学体育会では、ある意味このコミュニケーションがごく当たり前のように行なわれているように感じます。学生主体、かつ時間が限られている中で競技のレベルを上げるためには、フィールド内外での正確な意思疎通が欠かせません。ただ、これ自体を掘り下げようとする人は少なくて。日々ほぼ自動的にとっているコミュニケーションに意識を持っていくことで、かなりの言語能力がつけられる気がしています。


浦田 この能力が身につけば、普段の生活でも、相手が何をしたいのか/伝えたいのか、こっちが分析できるようになります。一生懸命話している人の言葉を、受け取る側から理解することができます。受容力と理解力はものすごくつきました。どの年代の人と話していても、相手が言いたいことを理解できるようになったなと。 

自分の考えをしっかり伝える力も身につきました。言葉の選択、話す順番、説得力の付け方。相手に言いたいことを的確に伝えられるようになったと感じています。

①問答ゲーム

<やり方>
(例)
Aさん:「あなたの好きなスポーツはなんですか?」
Bさん:「私の好きなスポーツは〇〇です」
Aさん「なぜ〇〇が好きなんですか?」
Bさん:「理由は2つあります。1つ目は、〜...」

浦田 段々掘り下げていくんです。答える側は、まずは自分の意見を曖昧にせず、結論からはっきり伝えます。理由づけは、発想力を活かせばいろんなことが考えられます。それをいかに自分の中で明確にして相手に伝えられるかが、このゲームのポイントです。

サッカーに置き換えてみると、

Aさん:「サッカーの(競技としての)目的は何ですか?」
Bさん:「ゴールをすることです」
Aさん:「では、そこにたどり着くまでの過程って何ですか?」

人によって、理想の過程は様々だと思います。でも、「自分にとって、ゴールまでどのような道のりがあるのか」かを考えて言葉にすることが、ピッチ内での力に繋がってくるんです。

もし答えが曖昧だったとしても、それはそれでいい。考えること自体に、意味があるからです。例えば将来、「なぜこの仕事に興味があるのですか?」と聞かれた時に、自然と自分で考えるようになるし、理由づけもできるようになる。

言葉で発したら気づくんです。「あ、自分ってこういうことを考えているんだ」って。自分自身に対して新たな発見を見つけられるのが、問答ゲームです。

逆に答えを準備して、その答えになるようににどう理由づけしていくか、というのも興味深いです。面白かったのは、「サッカーは嫌いです」という答え。なぜ嫌いなのか?と、あえて嫌いな理由を考えるのも、良い経験でしたね。

これは、U-8など小学生年代からやっていくとより効果があると言われています。「今日サッカー楽しかった?」といった日常会話の中でも、「なんで?」って掘り下げて行ってあげたり。意外と、できそうでできない子がたくさんいるんです。

高校生年代だと、監督とは恥ずかしがってあまり話さない、というケースもあります。これならゲーム感覚でコミュニケーションが取れるので、監督と選手、選手同士でも取り入れていこうと考えています。


②絵の読み取り

浦田 この絵を見て、季節はいつだと思いますか?

市川 夏だと思います。なぜなら、半袖を着ている人がいるからです。

浦田 時間帯は?

市川 コーヒーを飲んでいる人が多いので、朝だと思いました。

浦田 そうやって、絵を見て「自分は何を見て、どう思ったのか」分析をする力がつきます。サッカーだと、「相手がこういうポジションニングなら、こういうプレーをしてくるな」と自分で考えて、理由とともに伝えられるようになります。理由を合わせて話すことで、お互いが納得します。チーム全体の問題解決能力に繋がるんです。

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浦田 その他にも、言葉だけでお題について説明する「絵の説明」、物語を聞いて要約して相手に伝える「再話」などがありました。

市川 これを6年間続けたら...強いですね。当時、やっているときはどんな感覚だったのですか?

浦田 確かに当時はやらされている感覚はありました。今の指導者界では、自分で考えることが大事にされていることが多いように感じます。教えるだけではなくて、ヒントを与えて気づかせてあげることが大事だ、と。もちろん教育において欠かさない考え方です。でも、そもそもヒントをうまく拾って考える力をつけるために、種をまいてあげることこそ指導者に求められることだと思うんです。

形式的なものを与えられることに対して、少なからず抵抗はあるはずです。その時には効果を感じなくてもいい。いつか社会に出た時に、「やってて良かった」と思ってもらえる力をつけることが指導者の役割です。

市川 もっと知って欲しいですね。間違いなくどのスポーツのレベルも上がると思います。なおかつ、競技以外の場所で、スポーツを通じて培った力を自然と翻訳できるようになりますよね。

浦田 そうなんです。最近私たち一期生が引退し始めて、選手以外の立場で社会で活躍するようになっています。まさに、コミスキの偉大さを感じているところです。

卒業生である私たちが発信していかないといけません。そうしないと、日本サッカー協会(JFA)がやっている取り組み何だったの、って。アカデミーはサッカーエリート組織なんでしょって、周りのイメージだけで終わってしまうと思うんです。

JFAの指導者養成でも少しは触れられます。ただそれがサッカーとどう繋がるのか、成功体験として指導者本人が得ないと、自分のチームでやってみようとはなかなか思ってもらえません。私は成功体験があるので、自分のチームにも還元しつつ、どんどん発信していく必要があると感じています。

<<続く>>


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