四季#4
彼女は、夜のコインランドリーでけたたましく鳴る機械を背に、つらつらとスマホを眺めていた。
夜中の住宅街の静けさとは真逆に、煌々と輝きを放つこの施設の中は、まるで異世界の中に放り込まれた少女のような錯覚を彼女に与えていた。
部屋の中に香る柔軟剤と、私一人しか存在しないこの空間。
彼女はその中で、一人ただスマホを眺めている。
残り3分
その表示に切り替わると同時に、機械は音の流れを変えて違う機械に生まれ変わっていた。
不思議と落ち着いていた。
それは時間の流れだったのか、彼女自身の思いなのか分からない。
しかし、この空間の中で私が落ち着いていた事は確かだった。
ドアが開き、手をつないだカップルが同じ空間に入る。
どうやら今後の生活について彼等は話しているようだった。
その話を聞いて、彼女も自身が話していた過去と重ね合わせていた。
何も生まれないその会話は尽きること無く宙を舞っていく。
誰も解釈しない言葉。
一人歩きして、目的地を見失っている言葉。
その言葉の数々が、自然と相手を傷つけ、また喜ばせていることに気づいたのは彼女が孤独になってからだった。
突然、機械が心を失い静かな世界に生まれ変わる。
3分が経過したことを知らせる音だけがなり、彼女は現実に戻っていた。
私生活すらままなっていない自分と、今まで犯してきた自身の怠惰が同時に襲いかかり、その断罪のために彼女はそこにいた。
部屋を出て、じっとりとした空気の中を彼女は歩いていた。
自然と足取りは重くなっていく。
それは季節のせいなのか、自身の心なのか分からない。
足を止めスマホを見ると、時刻はとうに目的の時間を過ぎていた。
ため息を吐き、重い足を動かす。
予報は外れて、その日は晴れたまま1日を終えていた。
思うようにいかない自身の人生が、なぜか誰かから嘲笑されている気がして、悔しさと悲しさの入り交じる複雑な感情を呼び起こしていた。
落ち着けるわけがなかった。
あの出来事以来、私の思う人生はめちゃくちゃになったとさえ思った。
一方で、彼女の中にある感情はそれだけでは無いことも分かっていた。
濡れた衣服を手に、彼女は過去の出来事を一つ一つ噛みしめ、このままではいけないんだと自分に言い聞かせていた。
公園を抜けている途中、自分のスマホが鳴っていることに気づいた。
その表示を見て、息が詰まる。
「もしもし」
彼女が発したのか、それとも電話の向こうから聞こえたのか。
ただ一つ分かったのは、その声は落ち着いているという事だけだった。
会話の内容なんてまったく覚えていない。
その時思ったのは、「私は変わってしまったんだ」という失望とも、期待ともつかない感情だったと思う。
目的も無いまま、ベンチに腰を下ろし、なんとなく空を見上げる。
流れる水滴は、歩いたせいなのか、自分の心を表しているだけなのか。
漂う積乱雲は、珍しく星月夜を引き立てる役に回っていた。
夏の夜
彼等は、同じ空を眺めていた。
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