見出し画像

しっかり聞きなさい

しっかり聞きなさい!

私たちは、小学生の頃より、いつもこのように先生から言われてきました。

その「しっかり」の中身をさぐってみると、「おしゃべりしないで聞く」とか、「人の目をみて聞く」とか、「集中して聞く」など、聞くときの態度や姿勢について指導されてきたように思います。もちろんそのこともとても大切なことなのですが、「しっかり」の中身は、それだけでは十分ではないでしょう。

そう考えた私は、中学校の国語科の授業で、「聞くこと」の指導の実践研究に取り組んだことがあります。

そのよりどころとなったのが、哲学者のモーティマー・アドラーの次の言葉です。

聞くことは主に頭脳の仕事だ。耳ではない。
もし、頭脳が聞くという活動に積極的に参加していなかったら、
それは「聞く」ではなく、「聞こえる」と表現すべきだ。

みなさんなら、どんな「聞くこと」」の授業をしますか?
聞いたことを細かくメモさせるような聞き方の指導でしょうか。
いえいえ、そんなことはボイスレコーダーを活用すれば済むことです。
「頭脳の仕事」になっていません。

私の授業で仕組んだものは、目的や状況に合わせた「聞き方のいろいろ」です。目的や状況が変われば、聞き方も変わるのだということを意識させる指導です。
授業で取り上げた聞き方は、次の4つです。

①選んで聞く
 ・聞く目的以外の情報は捨てながら聞く聞き方
②まとまりを聞く
   ・いくつの話題から話されたかをタイトルをつけながら聞く聞き方
③分けながら聞く
 ・全体と部分、共通点と相違点、事実と意見など、仕分けしながら聞く聞き方
④「!?」と聞く
 ・「それは、本当だろうか?」や話題のすり替わり、論理の矛盾など、ひっかかりを持ちながら聞く聞き方

この実践研究で最も苦労したことは、教材開発です。
よくある「聞き取りテスト」に見られるスキット(スピーチや説明、話し合いなどの場面を音声化したもの、または、その原稿)の常識を取り払わなければなりません。
子らの教材となるものには、次の配慮をしました。

よくできたわかりやすいスキットは、教材にはなりません。例えば、ラベリングやナンバーリングによってでき上ったお手本のようなわかりやすさを持つスキットを用いて聞かせても、すんなりと聞き取れることでしょう。人が話す際のマナのわかりにくさを持つもの、「ノイズ」があるものが、実際的であり、その実際的な教材を使って「聞く力」を鍛えられるようにしなければ意味がありません。

よくある「聞き取りテスト」の構成は、まず出題のもととなるスキットを聞かせ、そのあとに「問い」が示されるというものです。これをひっくり返すことが重要です。何について聞き取るか、それを先に子らに示して聞く目的を持たせることで、「聞き方(どう聞くか)の構え」をつくらせるのです。この構えこそが能動的に聞く場をつくり、力をつけていくのです。

  (教材の実際をこの記事に示せないのが残念ですが…。)

その学習活動を通して子らが感じたことは、「聞くことって、結構しんどい…」ということ。それはそうです。「頭脳」をフル回転させながら聞いているのですから。

「聞く」という活動が、実は、受け身の活動ではなく、能動的な活動なのだと気づいたのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?