NZ life|アンドロイドの鳥
ニュージーランド生活37日目。
天気くもり。気温17度。ちょっとムシムシする気がする。
朝から庭の手入れをするために、道具が置いてある倉庫に向かう。
キィと音を軋ませながら木製のドアを開け、倉庫の奥に進むと、突如背後でバタバタっと大きな音がした。
なんだろう?と思って振り向くと、窓に向かって鳥が体当たりしていた。グレープフルーツほどの大きさをした灰色の鳥が、一心不乱に窓にぶつかっては落ち、を繰り返している。
間違って倉庫に入り込んでしまったのか、それとも一夜をここで過ごしたのかは分からないけれど、その鳥は懸命に体当たりを続ける。
助けてあげようかと思って近づくと、バタバタと倉庫の中を飛び回り、やがてオレンジ色のバケツの後ろに隠れてしまった。
あんまり刺激してはいけないなとバケツに背を向け、庭の手入れ道具を手にして倉庫をそっと出た。ドアは10cmほど開けておいた。自分の力でここを出るんだよ、と心の中で呟く。
ニュージーランドにはいろんな鳥がいて、みんな変わった鳴き方をする。ピヨヨヨヨと美しいさえずりが聞こえたかと思えば、グェッグェッとむせ返ったような声が聞こえてくる。
私は目がいい方じゃないので、鳴き声の主を簡単に見つけることができない。だからこそ「今鳴いているのはどんな姿をした鳥なんだろう」と、かえってワクワクした気持ちになる。
さっきの迷い込んだ鳥の声も、もしかしたらいつも耳にしているのかもしれない。
そんな個性豊かなニュージーランドの鳥たちの中でも、とりわけ私を惹きつけてしまう鳥がいる。
名前はわからないし、やっぱり姿を見たことがないのだけれど、庭仕事をしている時やカフェに向かう時、ふと頭上から声がすると、たちまちギョッとする。
うまくは言えないけれど、美しいとか綺麗を超えた、なんだかドキマギする声をしている。意志を持っているのに、無機質な声。そんな鳴き方をする鳥。
昨日はお休みだったので部屋でゆっくり過ごしていた時、不意に窓の外からその声が聞こえてきた。心がギョッとし、ざわざわし始める。
せっかくなので調べてみようと思ってパソコンを開いたけれど、はて、どうやって検索しよう。
ひとまず 「 New Zealand birds 」で検索をかける。たくさんのヒットした記事の多くに国鳥であるKiwi (キーウィ)のことが書いてある。飛べない鳥であるキーウィが頭上にいるわけもないので、もちろん違う。
ちなみにニュージーランド人は自分たちのことを、親しみを込めて「キウイ」と呼ぶ。「彼ってキウイ?」みたいな質問をされても困らないように。
そもそも見たことがないのだから、視覚情報で答えに辿り着けるわけもないということに気がつき、YouTubeを開く。「 New Zealand birds songs 」で検索をかける。
ニュージーランド特有の鳥たちがたくさん出てくる動画を再生する。鳴き声を聞いているうちに、どれも聞いたことがあるような、いやむしろないような、とゲシュタルトが崩壊していく。
鮮やかだったり繊細だったり、どれもみな美しい声には違いないんだけれど、違うんだよなあ。もっと、こう、なんていうか、意志があるのに無機質な声。
あ、そうだ。とぴったりの言葉が浮かび、検索ワードを書き換える。
「 New Zealand bird robot song 」
ヒットした動画を再生すると、私の心はギョッとし、たちまちドギマギし始めた。意志のある、無機質な声。
大陸から切り離され、原生林の中では野鳥がたくさん生息し、かつては天敵のいない楽園であったニュージーランド。
人間によって生態系を少しずつ変えられ、次第に消えていった鳥たち。
私たち人間が踏み込んでしまう前のニュージーランドは、もっとずっと多くの鳥の声が、どこまでも響き渡っていたに違いない。どれほどいのち豊かな島だったのだろうか。
意志のある無機質な声は、私にはロボットのように聞こえる。スターウォーズに出てくるR2-D2にも似た声で、私たちに警鐘を鳴らしている。
そう遠くない未来、この世界はアンドロイドの鳥たちに支配されてしまうかもしれない、と私はひそかに思っている。
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