おじいちゃんかおばあちゃんか分からない人。
いつも通る道に工事現場がある。
マンションの外壁工事をしているようだ。
交通量は多くはなく、1分間に10人が通過するかしないかであるが、工事現場の落下物などから通行人を守るべく、いつも決まって2人の警備員さんがいる。
1人はふくよかな体格の男性。
黒ブチの眼鏡をかけていて、年齢は50歳前後に見える。いつも外にいるからか、日差しを浴びて真っ黒に日焼けをしていて、朝、私が通ると決まって元気に「おはようございます!」と挨拶をしてくれる。
数々の警備員さんをみてきたが、こんなに笑顔で元気に挨拶してくれる警備員さんを、私はいまだかつてみたことがない。
もう1人は身長が150センチ前後の猫背の小さな警備員さん。
ヘルメットをかぶって突っ立っち、警備棒を振り回して私たちを誘導してくれる。挨拶は先ほどのおじさんほど元気ではないが、小さく微かな声で「おはようごさいみゃす」とフガフガ言ってくれる。
本来挨拶をするようなタイプではないのかもしれないが、もう1人のふくよかな方のおじさんの元気に、影響されているのかもしれない。
この150センチほどの警備員さんは、年齢がおそらく60歳を超えているのだが、その身長以外にすばらしい特徴がある。
おじいちゃんかおばあちゃんか不明なのである。
ヘルメットをかぶっているから、髪型がわからない。顔には少しのシワがあり、日焼けをしている。
「男性です」と言われれば男性だし「いいえ、私は女性です」と言われれば女性にも見える。
ほぼ毎日、その工事現場を通過するので、この2人の警備員さんとも必ず挨拶を交わす。
ある朝、いつも通りその工事現場を通過する。この日の私は、確認したくなった。
150センチの警備員さんが、おじいちゃんなのか、おばあちゃんなのかを。でも、確認する術がない。
「あなたはおじいちゃんですか?」と通行人が話しかけるのもおかしな話。「いいえ、私はおばあです」と言われたら、次の日からどんな顔でそこを通ればいいかわからない。
どうすればいいか。
挨拶を利用しよう。
幸い、警備員さんは2人。1人は性別不明だが、もう1人はふくよかな男性。かつ、だれよりも挨拶の声が大きく、いつも元気なのだ。
この元気な警備員さんと挨拶を交わし、その元気の勢いを借りて、150センチの警備員さんに私から元気に挨拶をする。
宇宙探査機ボイジャーが宇宙を移動するときに利用した重力アシスト・スイングバイに似ている。要は、ある物体の勢いを借りて、もっと大きなエネルギーを生み出すのだ。
そうすれば、向こうも元気に挨拶をしてくれるだろうから、その声で性別が判断できるはずじゃないか。完璧な戦略だ。
というわけでやってみた。
早朝、トコトコと歩き、工事現場を通りかかる。いつも通り、2人の警備員さんがいる。ふくよかな警備員さんが私を発見。お互いにいつも見る顔。警備員さんは満面の笑みで私に言ってきた。
私も負けない。
元気には元気で返すのが一番。
朝から気分がいい。
5メートル歩くと、150センチの警備員さんが見えてきた。やはり猫背でそれほど元気がない。警備棒を回している。
おじいちゃんなのかおばあちゃんなのか、やはり分からない。いつもなら「おざます」だけだが、今日は違う。確認したいのだ。
よし、と思って、先ほどの元気を使っていつも以上に元気に、重力アシストの要領で言ってみた。
150センチの警備員さんは、笑顔で私にこう言ってきた。
結論、やっぱりおじいちゃんなのか、おばあちゃんなのか、分からなかった。
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