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夏の怪談「山道のカップル」。

弟が唐突に「なぁダーキってお化け見える?」と聞いてきた。10年以上前だ。私はお化けを見たことがないから「見えないよ」と答える。弟は「......そうか」と思わせぶりな態度だったから「え、お前は見えるの?」と尋ねると「見える」と言う。

「こりゃまたずいぶんと強気だねぇ」と言うとあいつは「見えるもんはみえるから仕方ない」と言うので、

「え、じゃあ実際に体験した怖い話のひとつやふたつ、お前にもあるってこと?」

こう聞くとあいつは待ってましたとばかりに嬉々として「えーと、あれはあの人がいなくなる前のことだから......」と意味のわからないことを言いながらも、「これはマジなんだけど」と前フリをしてエピソードを話してきた。


...

彼が高校生のとき、年上のヤンキーな先輩といっしょに肝試しに行ったらしい。そこは札幌からすこし離れた場所にあるトンネルらしく、車で行く必要があり、弟は先輩が運転する車の助手席に乗って、夜の山の中を走ることになった。

真夏の山の中は真っ暗だが、ところどころにポツンポツンと街灯がある。山道をしばらく走っていると、車からちょっと先にある街灯の下に2人の男女が座っている姿が目に飛び込んできたらしい。


「こんな夜遅くになんでカップルがいるんだよ、と思ったわけよ」


車は街灯の下にいるカップルにどんどん迫り、やがて通りすぎていった。

弟は先輩に「こんな時間に、しかもあんなとこにカップルなんておかしいっすね」と確認してみた。すると先輩は「あぁそうだな、ヘンだな」と首をかしげている。弟としては、先輩もあのカップルは見えていたんだ、よかったと安心したらしい。



やがて肝試しをおこなうトンネルに着いた。トンネルは真っ暗で、いかにもお化けやら鬼太郎やら稲川淳二やらが出そうな雰囲気だったが、特に心霊現象は起こらず、2人で「こんなもんか」と拍子抜けしたらしい。

そもそも霊的なものに期待をして、それが裏切られたからって拍子抜けなんてしないでほしいんだけど、あいつにそう説教たれてもしょうがない。

先輩とのムサい肝試しが終わると、家に帰ろうとなったらしい。なのでさっき来た道を戻る必要がある。

「特になにもなかったっすね」と先輩と話しながら車に乗り込む。車が発進してまた山道を戻っていく。車のスピードがあがっていき、街灯をひとつ、またひとつ通りすぎていく。


もうすぐさっきのカップルがいた場所だな、と思われる街灯が見えてきた。あの謎の2人はまだいるだろうかと思って、助手席からじーーっと見つめてみた。しかし、

2人の姿はなかった。

さすがに遅い時間だから帰ったんだろうな、と思いながら街灯を車で通り過ぎる。助手席からちらりと一瞥いちべつすると、街灯の根元には2つの花束が置いてあった。




弟はとんでもないものを見てしまったと思ったらしい。さすがに怖くなり、あわてて運転席の先輩に確認してみた。

「......先輩、み、見ました......?」

「み、見たよ。まだいたなあの2人。しかも2人ともずーっとこっち見てたな」

「......え?」


......
...
..
.


「それでさ、ダーキ。その先輩さ」

「......あ、あぁ」

「次の日、事故で死んじゃったんだよ」

「......」

「......あれは死神かなんかだったのかなぁ〜」

「......」

「ダーキ、どう、この話?」

「......お前さ、いろんな怖い話の複合技みたいな怖い話すんの、やめろや」


そういう話があと5個くらいある。


〈あとがき〉
弟は「俺たちの母さんも見える人だよ」と言っていて、いやそのかまってちゃん特有の見える詐欺やめろや、とよく言っていたのですが、彼が語る怖い話の実体験は妙に完成度の高いエピソードが多く、ちょっと信じそうになってしまいます。私は騙されません。今日も最後までありがとうございました。

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