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へし折られた左腕。

14歳のとき、元気に腕を骨折した。

サッカーの試合中に、うしろからドンと押されて倒れた私は「ワーッ」と地面に勢いよく手をついた。

と、思ったら前からも味方選手が倒れてきて、その身体が私の腕にドスンと乗っかった。

もみくちゃになったわけ。



下の画像を見て分かるとおり、私たちの腕には2本の骨がある。名前を尺骨しゃっこつ橈骨とうこつという。

2本あるんだよね


この2本ともが折れた。

割り箸を2本折るときに「バキバキ」という音が聴こえるかと思うが、それと同じ音が私の体内から聴こえてきた。

私のだいじな左腕の骨が、割り箸が折れるように美しくへし折られたのだ。2本とも。

とっても痛かった。




その場でもだえた。立てない。

かつてない痛みだったもんだから、ゴロゴロ転がった。心配して集まる味方選手。早く立てよと言ってくる都会の相手選手。怖かった。これだから都会の人間はいやなんだ。痛いのに。

「いてぇ、いてぇ、イッテテテテテ」


審判が近づいてきて、私の左腕を確認する。

その場にいた全員が絶句した。


あらぬ方向に私の左腕が曲がっていたのだ。

関節がもう一個増えたかのような。

腕が途中から上方向に曲がっている。

ありえない角度で。


とってもびっくりした。


左腕をおさえながら私は交代。

当時のチームの監督の本業は消防士。
そのへんの応急処置はお手のもの。

試合には母と妹の2人が見にきていて、左腕をひん曲げた私はユニフォーム姿のまま車に飛び乗った。病院に直行するのだ。運転手は母。後部座席には心配そうな妹。


「イテテテテテテ」


車内では「大丈夫? 大丈夫?」と2人が確認してくる。大丈夫ではない。だって腕が曲がってる。痛いし。折れるときバキバキって聞こえたし。

あと、あれがしたかった。
だから私は言った。


「痛いけど、おしっこしたい」


おしっこはしたい。痛くてもしたい。

左腕があさっての方向に曲がっていても、したいものはしたい。車の中ではおしっこができない。病院に着くまで我慢しなければならない。




病院に着いた。

ユニフォーム姿のままで着いた。

左腕が痛い。おしっこがしたい。

左腕を支えていなければ、腕が取れそうな気がして怖い。だから自分で左腕を支える。


おしっこがしたい。

だからトイレに駆け込む。
よし、やっとおしっこ。



でも、


玉結びになっていた。ユニフォームのパンツの紐がキツく固く。玉結び。これではパンツが脱げない。下ろせない。腕が使えないからほどけない。

つまり、おしっこができん。


というわけで、漏らした。


トイレの小便器の前で漏らした。
左腕をひん曲げながら。

とっても悲しかった。




曲がった腕をお医者さまに見てもらう。
手術が必要な骨折だった。
全身麻酔で。




そこからはもう、応急処置をして、
日を見て全身麻酔で手術を実施。

初めての全身麻酔は6秒で眠りにつき、目が覚めた病室では、あまりの気持ち悪さで緑色の液体を吐いた。調べてみるとあの液体は胆汁たんじゅうらしい。



当時は胆汁だと分からなかったので、自分がエイリアンになってしまったのかと思って泣いた。

胆汁は緑色なの!



学校を数日間休んだ私は、左腕にカチカチのギプスを巻いて、再び登校した。骨折した人間というのは一時的にヒーローになる。


骨折ボーナス期だ。


みんながチヤホヤしてくれる。


おしっこを漏らした話や、緑の液体を吐いた話、バキバキと折れた左腕についても、なんならイラストを書いて、懇切丁寧わかりやすくみんなに説明した。


「みんな聞いてくれ!」とばかりに得意げに。


あれ? 


おれって陽キャじゃね?



私の利き手は右手だから、ものを書いたり食べたりすることには支障はなかった。が、これはチャンスとばかりに、となりの女子にたくさん手伝ってもらった。

「ここの文字消しづらいから消してくんね?」と言っては、やれやれと手伝ってもらった。



あれ? やっぱ陽キャじゃね?




クラスのみんなが、私の左腕のギプスにメッセージを書いてくれた。「書いていいよ」と言ったら男子も女子も先生も何かしらを書いてくれた。

どんなことが書いてあったかは忘れてしまったけど、ギプスはメッセージだらけになった。



ん? やっぱりおれって……?


〈あとがき〉
バキバキに折れた左腕は上方向にひん曲がっていました。私の記憶が正しければ、私は教室で騒ぐような人間ではありませんでした。逆に静かにしていたはずです。小中高と同じキャラで、大学では周りが怖くてクソカス人間でした。だから陽キャではないはずなんです。今日もありがとうございました。

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