見出し画像

人の頼みをつっけんどんにはね返すという意味の言葉で「けんもほろろ」というのがある。この「ほろろ」とはキジのホロ打ちのことで、羽を激しくはばたかせてドドドドドと大きな音を立てる習性を指す。「けん」はケーンケーンと鳴くキジの声である。ケンもホロロもオスのキジが見せる仕草なのだ。
一方メスのキジについては「焼け野の雉子きぎす夜の鶴」という美しいことわざがある。彼女たちは大変に母性愛が強くて、春の野焼きで雛たちが燃えてしまいそうになると、自らの体で覆い隠して子どもを守ろうとするのだという。鶴もまた子を羽で包んで夜の寒さから守ってやるそうだ。
こんな風に言うとメスに比べてオスのキジがずいぶん薄情に思われるかもしれないが、決してそんなことはない。何しろ彼はたった一つのキビ団子で鬼退治という命がけの仕事を引き受けてやるくらいの男なのだ。こんな誘いは私ならけんもほろろに突き返してしまうことだろう。

何といっても彼らは日本の国鳥に選ばれた名誉ある野鳥なのである。豪華絢爛な羽飾りは他の追随を許さぬ圧倒的な存在感をかもし出している。
ただこの選考には一人のライバルの存在があった。それはヤマドリという、やはりキジ科の仲間で、姿形はキジとよく似るがキジのような派手な色彩ではなく、一見するとやや地味で目立たぬ羽色をした野鳥なのだ。赤みを帯びた明るい茶色の羽はやんわりと金色の光沢を放っていて、白い縁取りの複雑な鱗模様にはも言われぬ至極の美しさがある。私はたった一度だけ山でこの鳥に出会ったことがあるけれど、あの時の感動はいまだに忘れることができないほどだ。
しかもヤマドリは日本にしかいない固有種である。キジは大陸にも近縁のものがいて日本の固有種とは認められていなかった。
結局その華やかな色彩と親しみの深さからキジが国鳥に選ばれたわけだが、固有種のヤマドリの方が国の鳥としてふさわしいのではないかと不満をささやく人はその後もあとをたたない。

だけど本人はもうすっかりその気になって堂々と野原を闊歩かっぽしているのである。鳴かずば撃たれまいに、今日もあの大きな声でケーンケーンと勇姿を披露している。
誰が今さら「やっぱり国鳥はヤマドリに変更しよう」などと彼に告げることができようか…。
しかし大丈夫、安心したまえ。
どうやら日本のキジは近々学会で新たに固有種として認定される予定になっているそうだ。そうと決まってしまえば、もう誰一人としてこの国鳥に不満を漏らすような人はいなくなるだろう。きっとキジたちも激しくホロ打ちをして大喜びするに違いない。



スキ♡はnote会員以外の方でも押すことができます。会員登録していない方の場合はどなたが押して下さったのかは分かりませんが、♥は執筆の励みになりますので、面白いと思って頂けましたらぜひスキ♡→♥お願い致します🖋

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?