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子どもが出てくる映画の話をしよう。その6 『誰も知らない』

今では誰もが知っている映画『誰も知らない』。この是枝裕和監督の『誰も知らない』を観たときは、衝撃だった。ヘンなたとえだけれど、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を読んだときと似ている。

なんか、ちがう。今までの映画と、なんか、ちがう、という。

もともと是枝監督がドキュメンタリー映画を手がけていた人だった、とあとで知って、ぽんと膝をたたいた気がする。ドキュメンタリーに作為がないとはいわないけれど、つくりこんだ作為を見せるものではない。ドキュメンタリーとかフィクションとか、そんなどこかジャンルの境界をさらりと超えた感覚があった。

映画『誰も知らない』は、2004年公開。

父親が違う4人の子どもが置き去りにされたという実際にあった事件をモチーフにした映画。母親はYOUが演じている。ほかには大人らしい大人は出てこない。最初は仲良さげな母親もやがて姿を消し、それから4人の子どもたちだけの生活がはじまる・・。

この映画が有名になったのは、なんといってもカンヌ映画祭で、史上最年少の主演男優賞をとった柳楽優弥くんの力が大きいだろう。いやぁ、優弥君くん、よかった。ほかの子たちもみんなよかった。メチャ自然だった。必要以上に不幸をあおることなく、子どもたちの生活が全てたんたんと描かれている。覚えている限り、音楽をからませたりもしなかった。わたしたちは、そういう子どもたちだけの生活をただのぞいているような。

是枝監督は、脚本を子どもたちにあえて読ませない。その場その場でシーンをつくっていくという。たぶんそこが「つくりこんでない」感じになるんだろう。

母親役のYOUもよかった。母親と子供たちがみんなでご飯食べるシーンとか、脚本なしだから勝手に子どもたちも話すんだそうだ。年下の男の子がつい自分の家の話なんかもはじめても、そうなんだあ、なんてYOUもちゃんとこたえつつ、自然に家族の会話ができあがるまでそのままにしておくんだと。それをどこかで読んだとき、YOUもスタッフもすごいなあと。だからあんな普通の自然なシーンができたのかとつくづく納得。

おさえこめば子どもだって、それなりに行動するだろう。でもそれは、大人がつくった「子ども」にしかならない。ありのままの「子ども」のままで役に入るには、忍耐というよりもなんでも受け入れるよっていう気持ちのおおらかさが必要なんだろう。

すきなシーンは、子どもたちがカレーをつくって母親をむかえるとこ。にぎやかなのさ。母親(YOU)が喜んでカレーを食べようとして、「なんか(食べるもの)ない?」というと、明(柳楽優弥)がすぐそばの菜箸を渡す。するとYOUが長い箸を手に「これ? まあいいか」なんていうのを、明が笑いながら見ているところ。

感動させようと仕組まない。そんな子どもを描いたいい映画だった。

同じく是枝監督の『奇跡』も子どもたちが主人公。

初めての九州新幹線開通をテーマにした映画ね。子どもの漫才兄弟まえだまえだほか子どもたちが主人公。これに出てくる子どもは、とにかくよく走る。大人なら歩くところも走りまくる。それでつい、「そうだよな。子どもって走るんだよな」と思い出す。

是枝監督といえば、『空気人形』とか『万引き家族』とか名作目白押しだけど、なかでも2012年の正月の駅伝のスポットCMは必見。なにしろ映像が是枝監督。ナレーションを書いたのは村上春樹だ。CMは劇場で「よし観るぞ」と思ってみるのではない。こっちは正月でだらだらしてるし、駅伝はリアルタイムで観たいじゃないか。そういうところで、ほんとうにたまたま出会えた逸品はめちゃうれしい。それにしても、やるなあサッポロビール。

「みんなのギャラリー」から写真をお借りしました。Thnks!






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