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子どもが出てくる映画の話をしよう。その⑯ 中国・香港合作『少年の君』

 久しぶりにミニシアターで映画を観た。
 映画館を出て、しばらくまだ映像の中にいた。
 そんなことってあるよね? 
 それは、いい映画を観た証。

 この日みたのは、中国・香港発のジュブナイル映画『少年の君』
 2019年制作で、日本での一般劇場公開は2021年。
 さらにその1年遅れで観たわけです。
 正直にいいましょう。実はあんまり期待してなかったのです。タイトルも、「優等生の少女と不良少年の出会い」という少女漫画的な設定も、年を重ねてすっかりやさぐれちまった身には、ちょっとテレるような物語かもしれない・・なんて。

 ところが、これが、もう、なんつーか・・

めちゃくちゃ よかった!!! 


「was と used to be は同じ過去形。どう違うかわかる?」

 物語は、ある教室。英語の女性教師のこうした問いかけからはじまる。 

 時はさかのぼり、舞台は中国のとある進学校。大学受験を前に 激烈な猛勉強を繰り広げる学生たち。そこでとある事件がおこる。
 まずここからが、めちゃくちゃうまい。 カメラは決して何が起こったかを直接映さない。 だけど、わかる。 わかるのだ。 校庭をみおろす周囲の目線から、それを見た少女の行動から、悲劇を気づかせる。 最後に、生徒たちのスマホの画面で「やはり」という真実をのぞかせる。ちらりとだけ。

 そっからはもう前のめりで、入っていく。

 過酷な受験戦争。くりかえすいじめ。格差の激しい世界で、自由を得るため、賢い大人になってこの世界を守るため、感情を押し殺して最高峰の大学をめざそうとする少女。
 そんな彼女を守ることを少年は約束する。

 「君が世界を守るなら、おれが君を守る」

 少女には、ひとりで生きてきた世界がある。自分もまた、他者の求めに応じなかった一人だった自覚もある。最初から少年を信じたわけでもない。その距離感の強弱が、少ない台詞と映像でじわじわと語られていく。少女役チョウ・ドンユイは、その揺れを表情だけで伝える。

 受験はさらに近づき、二人をとりまく状況はさらに過酷さを増し、ついに……。
 おっと、詳しくは書かないでおきたい。ただ最後の最後で、ふたりが無言でかわす『会話』のすばらしさは伝えたい。決して声をだしていないのに、その表情だけで、ちゃんと聞こえてくるのだよ。二人の声が。

 これは切ない青春映画ではあるけど、決して甘酸っぱいだけじゃない。それは、強い社会へのメッセージが軸にあるからだし、そこにくらいつく役者たちのホンキを感じる展開があるからだ。
 映像も台詞も、そして役者たちも、ほんとうに最後の最後まで、みせてくれる。テロップのあとまでもね。

 監督は、デレク・ツァン。1979年生まれ。香港出身。
 wiki情報によると、この映画の原作は、オンライン小説だそう。フルーツ・チャン監督作品をリアルタイムで観てきた身には、時代というか世代差までも感じてしまうけど、そんなこたどうでもいい。
 未来を信じて前へと進む人たちは、先人がしょうがないって見て見ぬふりをしてきたことからも、目をそらさない。その一歩は、希望に満ちている。

 いい映画だった。
 

 映画のロケ地は中国・重慶だそう。ということで、タイトル画像は重慶の町を「みんなのギャラリー」からお借りしました。Thanks.

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