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悪が善になってしまった「宗教」とは〜映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』を観て

1995年3月20日、世界中を震撼させた、地下鉄サリン事件が起きました。
自分が生まれる前に起きた出来事でしたが、テレビ番組の報道や両親の話、そして社会の授業で教わった内容などから、話の輪郭は理解しているつもりです。
しかし、人から聞いた「イメージ」の”地下鉄サリン事件”と、その瞬間をリアルタイムで生きていた人が「感じた」”地下鉄サリン事件”では、捉え方が全く異なると思います。

私の両親の友人は、当時日比谷線を利用していて、その日たまたま忘れ物をしたため、自宅に一度戻ったそうです。もし忘れ物をせず、いつもと同じ時間で出勤していたら、被害者の一人になっていたかもしれなかった、と後に聞かされました。
14人の命を奪い、6000人もの方が負傷者となったこの事件。
主犯は”宗教団体”と知った際はとても恐ろしく感じたのを今でもよく覚えています。残酷な殺人事件な上に、人の”信仰心”を利用した『地下鉄サリン事件』を、これから先、二度と起こさないためにもまずは知らない世代が知っておくべきだと感じました。
それからは自分なりに調べたり、特集番組を観て事件の実態を追いかけています。

そして、2021年3月20日に公開された、映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』は、事件の”被害者”と”加害者”の対話形式のドキュメンタリーということで、観に行ってきました。そこで感じたことを自分なりの解釈でまとめてみたいと思います。

(1)彼らの衣食住の実態
映画は、昔の友人と再会したかのようなテンションの会話で始まったため、自分は最初、事件の被害者と加害者のやりとりには見えませんでした。

そしてカメラはオウム真理教の後続団体の施設に入っていき、日常を映します。
そこで目にしたものは、”あのオウム真理教”というバイアスがかかっていたのと、他の宗教団体の実態を知らないため、普通の光景なのか異様なのか、自分では判断がつきません。

阪原さんは、きっと日本中が気になるであろう宗教団体の実態を、躊躇い無く質問していて、観ていてとても興味深かったです。
「その服は自分のか?」「これが食事か?味があるのか?」「このスペースは何?」「実際、飛べるのか?」
荒木さんは、阪原さんの質問に対し、はぐらかしたり隠したりせず、素直に答えていたのが印象的でした。ただ、どこかマニュアル的な何かが存在するような話し方で、人間味があまり感じられませんでした。

(2)事件への見解
上記で書いたような、日常会話のようなやりとりをしつつ、阪原さんは事件についても質問していきます。
「誰がやったんだと思う」率直に聞いても、「自分は分からない。証言ではこうなってる」と、答えていました。自分の見解を語ろうとしませんでした。

「突然事件の被害者になってしまって、今も苦しんでいる。自分はどうしたらいい。この事実に対して、どう向き合ったらいい。」そんな阪原さんの言葉がずっと心に残っています。

目の前で苦しんでいる被害者の存在を知りつつも、荒木さんの宗教に対する信仰や”教祖”への想いは揺らいでいませんでした。
また、頑なに謝罪を拒む姿が異様だったとともに、荒木さんの心にいるオウム真理教の根強さを感じました。

(3)荒木浩さんという方
二人が故郷へと帰る道中、ある駅が荒木さんにとって思い出の場所だったらしく、涙を流していました。
これまで、全く”人間らしさ”が無く、感情のない人物のように映っていた荒木さんでしたが、ここで初めて荒木さんの内側の部分が垣間見えた気がします。
荒木さんも、自分と同じように、思い出すと泣いてしまうような大事な存在がいて、懐かしいと感じる過去を持っていると知り、初めて同じ”人間”なんだと感じました。

二人で過ごすうちに、前半は阪原さんの問いに答えるだけだった荒木さんが、後半は自ら自分の話をするようになりました。家族の話、祖母との話、好きだった食べ物の話、アルバイトの話、信仰のきっかけかもしれない記憶、出家した日の話、、
オウム真理教の実態を話す時とは真逆で、自分の感じたことを饒舌に話している荒木さんが、”素”の荒木さんなのではないかと思います。

(4)未来の信者
こうしてまとめて見ると、オウム真理教を信仰している人は生まれたときから素質を持っていたのでは無く、いわゆる”普通”の暮らしを送っていた人間です。
映画の中で、オウム真理教の後続団体に出家する人は、未だに存在すると話していました。阪原さんも仰っていましたが、彼らはなぜかつて残虐な事件を起こした団体だと知りつつ入るのか、なぜ信仰しようと思ったのか。もっと深いところを調べていかなければ、第二の地下鉄サリン事件が起こりかねない、そういった危機感を感じました。

過去の話だと捉えず、これからも自分なりの見解を持ちつつ、向き合っていかなければならない問題だ、と思っています。

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