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ニンジャ二次創作:オーゾニにまつわるエトセトラ(改訂版)

ニンジャスレイヤー公式が年末年始にちなんだDIYコンをやっていて、いい機会なので。

2014年以降のお正月に書いていたニンジャスレイヤーの短い二次創作をまとめたり直したりしたものです。新年から15日ぐらいまでのあいだに、フォロワーのかたがたからお題(リクエスト)をもらったり自分で勝手に書いたりしています。

意外と多かった。新しいのかいたら追記します。
(載せ忘れが見つかったので追加しました)

1)ワザ・スシ/エーリアス

「これ、アンタにサービスだぜ!」エーリアスは得意気にスシ・カウンターへと椀を出した。「オショガツ限定メニューなンだ」フジキドが顔を上げると、エーリアスの後ろでアキモトが目を細めていた。「食べていってください」「イタダキマス」フジキドは椀を持ち上げ、静かに口をつけた。

ダシからはほどよい塩気と温かい魚介の香り。大きさを揃えて切った根菜の下にサーモンと四角いモチが見えた。「珍しいだろ、サーモンのオーゾニだぜ」エーリアスが胸を張る。「若い頃に修行した店で覚えたものです」アキモトがフジキドの表情に答えた。「旨いです。とても」フジキドはもう一口ダシを啜った。

「鶏と菜ッ葉がネオサイタマ風なンだッて?」エーリアスが言った。「そうだ」「ナトリ・ゾーニですな」「ナトリ?」「名を挙げる、という意味だ」フジキドは椀から顔を上げ、モチを飲み込む。フジキドはかつて自身が食べたオーゾニを思い出そうとした。その味と風景は湯気のように遠く霞んでいる。

「エーリアス=サン、サケのオカワリを」フジキドはエーリアスとアキモトの前でほんの少しだけ饒舌になり、普段より少し多めにサケを飲み、スシを食べた。ワザ・スシを出たフジキドはストリートの喧騒を独り歩くうち、ふと思い立ち、コケシ・マートでモチと鶏肉、葉野菜を買った。

2)ネオサイタマ某所/サヴァイヴァー・ドージョー

一斗缶を改造した簡易コンロで鍋が沸く。フォレストはダシを一匙掬い、味を確かめた。バイオマガモの骨から出る力強い旨味。良し。「大将ォ! モチ、そろそろだ」別の一斗缶コンロからハイドラの声が飛ぶ。少し嬉しそうだ。「案外マメにやるよな、こういうの」ディスカバリーが鍋を覗き込む。

「行事食はなるべくやっておきたいのだ、皆楽しみにしているからな。戦況次第だが」フォレストは静かに鍋を火から下ろした。その隣でフロッグマンは茹でたマガモの肉を切り揃える。横からカマイタチが肉へと手を伸ばし、フロッグマンに手の甲をはたかれた。「オーゾニに入れるんだから食うなよ」

「チェッ」カマイタチは手の甲をさすっている。「でも意外とまともだよな、鳥のオーゾニ」「いや、去年はパクチー入ってたぜ」ディスカバリーが応じる。「食料の備蓄状況によるのだ」フォレストが付け加えた。「モチがなかった年もあったぜ!」ハイドラが焼けたモチを椀に分けながら話す。

「それオーゾニって言うの?」カマイタチが聞き返すが、ハイドラは「知らねェ」と笑った。「代わりにセンベイが入ってよォ、セントールがスゴイ怒って」フォレストがふと顔を上げ、遠くを見た。「そろそろ哨戒に出た二人も戻る頃だ。盛り付けにかかるぞ」「ガッチャ」

モチの上にマガモの肉と葉野菜をのせ、熱いダシを注ぐ。人数分の椀が揃ったところで、セントールとファーリーマンが戻ってきた。野営地周囲には異状なし。報告が終わり、全員にオーゾニの椀が配られた。滋味を感じさせる香りがあたりを満たす。心なしかスパイシーだ。「イタダキマス!」 

3)廃ビルのアジト/フィルギアとスーサイド

点きっぱなしのテレビがジンジャ・カテドラルの混雑を中継している。テーブルにはピザの空き箱、菓子やツマミの残り、コロナの空き瓶が散乱していた。スーサイドが身を起こすと元日の冴えた空気が肌にしみた。「起きちまったよ」忍び笑いの方を向くと、フィルギアがドンブリを持っている。

「オハヨ。食うかい、オーゾニ」「オーゾニ?」「呑んだ後は欲しくなるだろ……汁っぽいの」スーサイドは飲み過ぎの頭で考える。その間にフィルギアはドンブリの隣にマグカップを置いた。「節目に食うものって大事だぜ、ニンジャでもさ」フィルギアはドンブリのモチを一つカップに移す。薄く焦げ目のついた良い焼け具合だ。

続けてインスタント・スイモノの袋を破り、モチに浴びせてヤカンの湯を注いだ。「ドーゾ……」「オーゾニ? これが?」「モチが汁に浸かってりゃオーゾニってわけ」スーサイドはマグカップを受け取った。人工香料のケミカルなバイオマツタケ風味。熱い汁が冷えた体を温める。

スーサイドはソファに伸びているアナイアレイターとルイナーを顎で指した。「アイツらのは」「ネボスケにゃ冷えた焦げモチ」フィルギアは意地悪く笑い、ドンブリの汁を啜った。「フー……」一息ついて、思い出したようにスーサイドに言う。「ドーモ。アケマシテ、オメデト。今年もヨロシク頼むぜ」

4)ニチョーム/ヤモト

「絵馴染」の前では奥ゆかしく小声のアイサツが繰り返されている。時刻は早朝。ニチョームのトシマタギ営業が終了し、人々はようやく眠りについたところだ。店の前の清掃を終えたヤモトが店内に戻ると、カウンターにザクロがいた。「ザクロ=サン、『キマリテ』のオニシメいただいたよ」

ヤモトが器を掲げるとザクロは半分閉じていた目を見開いた。「ンマ! ヤモト、アレ持っていきなさい、キントン。アータの作ったやつ」「うん」ヤモトはニンジャ瞬発力で店の奥に上がり、大きめの鉢にキントンを詰めて戻る。オニシメをくれたスモトリが道路の清掃を終えぬうちに外へ駆け出した。

店の外では再び小声のやり取り。ザクロは容器の蓋を開けた。味の染みたオニシメの隣に、下茹でした野菜とネリモノを彩りよく刺した串が数本。「ヤモト、これ何?」「オーゾニ」「オーゾニ?」「このまま煮て、ドンブリの中で串を外すんだッて」大人数のオーゾニを素早く綺麗に盛り付ける知恵だ。

「ヤモト、モチは四角でいいかしら?」ザクロはオニシメ容器を持って店の奥へ向かう。「ザクロ=サン? 寝なくて平気?」「眠いわよ! でも美味しそうなの! 面白そうだし!」ヤモトはホウキを持って店内に突っ立ったまま、ザクロの大きな背中を見送った。

店内の清掃を始めたヤモトの方へ、ダシとネリモノの匂いが流れてくる。その匂いはセンチメントを含んでいた。簡素な、有り合わせの材料で作ったオーゾニを思い出す。「出来たわヨ!」野太い声がヤモトを現在に引き戻した。「いま行くよ!」ヤモトはホウキを置いて、暖かい店の奥へと戻っていく。

5)キョートの庵/ディプロマット、アンバサダー

音もなくショージ戸が開きナミダが入室した。「オット!」ガンドーはアグラから正座へ座り直す。ディプロマットが苦笑する間に、ガンドーの前に椀が出される。「気にすることでもなかろう」「いや、でもよ、こう……アトモスフィアが」目の前の双子は揃って背筋を伸ばし、礼儀正しく座っている。

「オショガツに、茶室でオモテナシだ。少し位ピシッとしねェとよ」ナミダは客人と二人の主人に椀を出すと、静かに退出した。「最初に会ったときは大立ち回りをしたんだろ、茶室で」アンバサダーは身ぶりで客人に椀をすすめる。「そりゃ、あン時はよ」ガンドーは再び足を崩し、椀の蓋を開けた。

椀の中身は白いミソのスープだ。中央に頭を出すのは、半透明に煮えた大根の幽玄と、人参の赤い鮮烈。下には丸いモチが隠れているだろう。「こりゃあ……」ガンドーはため息をついた。「食うのが勿体ねえな、綺麗だ」見れば目の前の双子もまた、両手で椀を持ったままその中身に見とれている。

ガンドーは二人に先んじて白いスープを一口飲んだ。「旨いな」上品な甘味がなめらかに口のなかでとろけていく。「呼んでもらってナンだけどよ、いいのか? 兄弟で水入らずのところに来ちまって」「むしろその逆だ」「客を呼ぶ余裕ができたってことさ」二人の言葉にガンドーは顔を綻ばせた。

「兄さん、俺の椀に芋が入ってる」アンバサダーが言った。「俺にもだ」ディプロマットが言い、双子は顔を見合わせた。古い時代には、家のあるじの椀にだけ芋を追加する作法があったという。「そりゃあ、兄弟仲良くってことだぜ、きっと」双子はもう一度顔を見合わせ、静かに笑った。

6)ヨロシサン製薬社内某所?/サブジュゲイター

「新年早々ご苦労なこと」目の前の女が椀に口を付けたのを見て、サブジュゲイターも自分の椀を手に取った。青菜と、美しく結び細工をしたネリモノ、焼き目を付けたモチが、澄んだスープに沈んでいる。ハシで具を押さえて一口啜る。「お味はいかがかしら?」

女の白い笑顔は新年早々喪服めいた衣装に陶磁器めいて映え、血の存在すら感じさせぬ。「大変……結構です」サブジュゲイターには味など感じられぬ。実のところ、サブジュゲイターはここまでに何人ものヨロシサン重役のもとを訪ねていた。新年の挨拶をし、その都度オーゾニを供されてきたのだ。

いずれも同じ、葉物にネリモノ、澄んだスープ、そしてモチ。行事食であるが故にメニューが変わることも無い。バイオニンジャの胃腸をもってしても、こうも続くと、つらい。「なかなかの健啖家と聞いていてよ、サブジュゲイター=サン」全ての訪問先でオーゾニを平らげた話がここまで伝わったか。

サブジュゲイターは手の中の椀を見下ろし、今日食べたモチの記憶を数えた。出されたものに手を付けぬのはシツレイにあたる。サブジュゲイターは目の前の女の笑顔に言いようのない苛立ちを覚えたが、それを顔に出すこともできぬ。「い……頂きます」目の前の女が心底楽しそうに微笑んだ。

7)廃ビルのアジト/シマナガシ

「なあ、やっぱり違わねえか」「オーゾニだ」「どう見ても鍋」「オーゾニだ。モチ入ってる」ルイナーが強い口調で答えたので、アナイアレイターは曖昧な返事をしてモチと肉を椀に取った。フィルギアは煮溶けたモチを椀の中でつついてケラケラ笑っている。すでに顔が赤い。酔っているのだ。

「人数分盛りつけるの面倒だろ」ルイナーはモチと一体化した肉や野菜を掻き込んでいる。スーサイドは呆れ顔でコロナをあおった。「ほぼ鍋パじゃねえか……」「まあ、食っときなよ」フィルギアはハシでスーサイドを指した。「オショガツなんだからさ」

アナイアレイターがルイナーに言う。「モチ焼かなかったのかよ」「焼いてから入れるのか!」会話を聞いたフィルギアは相変わらず笑っている。スーサイドは遅れて鍋の中身を椀へ取った。「オーゾニか……」刻んだ根菜類がよく煮えてショーユの色に染まっていた。汁は溶けたモチで濁っている。

「意外と旨いな、鍋」「オーゾニだってルイナー=サンが言ってる」「オーゾニだ」「ビールに合う」大の男が4人で一斉にオーゾニをつつく。ほどなく鍋の中身は汁とわずかな具を残すのみとなった。「アー……食った……」

満足しきった空気の中、ルイナーは言った。「じゃあ、締めのウドン入れるから」「鍋じゃねェか!」

8)ネオサイタマ市内某所/サワタリ研究員

「寒い、寒い……」研究員は肩を縮めて台所へ向かう。コタツの温もりを振り切るのは並大抵のことではなかったが、オーゾニぐらいは食べておかねばならぬ。節目に食べる物には何らかの意味があるのだ。詳しくは知らないが。オーゾニはいわばオショガツのアイコンである。

鍋に湯を沸かし、合成カツオ粉末を加える。モチは隣のコンロで焼く。冷凍庫から鶏肉と冷凍野菜を出して鍋の中へ。具が煮えたら焼けたモチを入れて出来上がりだ。簡単でよい。研究員はドンブリに移したオーゾニをコタツへ運んだ。コタツに足を入れ、オーゾニを啜って一息つく。「フー……」

菜物と鶏肉のオーゾニには「名を上げる」という意味が込められているが、メガコーポの末端サラリマンである彼にはそのような予定も見込みも実際無かった。とはいえ多くの人々がそうであるように、彼もまた、節目に食べる料理に込められた意味を気にする事はなかった。

汁はケミカルなカツオ味、野菜は煮えすぎだが、手早く作ったにしては悪くない。コタツの向こうでは古いテレビが色彩を狂わせ昼のニュースを映している。新年の休暇は残り十数時間となった。研究員は空のドンブリを置き、休暇の残りを安らかに過ごすべくコタツに潜り込んで目を閉じた。

9)どこかの密林/ディスカバリー

「オーゾニの材料が無いため新年の行事食は中止と言ったが」フォレストは語る。「先刻、ディスカバリーが自販機に偽装した特殊兵器に捕獲されたので――こうなった」椀の中身はダシに浸かったモチと根菜、それと……見たことのない色の肉だ。「ウワッ……」

バイオニンジャたちの間に動揺が生じ、視線が一斉にディスカバリーに向けられる。ディスカバリーは椀を見つめる。「アー……これは俺が食わねえと」よくわからない色の、由来だけは明らかな肉。おそるおそる椀に口をつける。「無理すんな」「ニィィ!」制止する声が聞こえるがやるしかない。

「アレ? これは意外と旨い……海鮮系な……」ディスカバリーは謎の肉を咀嚼する。強い弾力のある身から、噛むほどに染み出す旨味。「意外と悪くねえな、大将?」「味見くらいしておるわ!」フォレストが言った。他のバイオニンジャたちは安堵のため息をついた。

新年らしい和やかなアトモスフィアがドージョーを満たした。新年の椀に箸をつけ、みな口々に未知の食材の感想を述べる。「確かにウマイ」「野趣、旨味、十分」「舌がピリピリしてくるところが実際斬新」「何だと? 待て! お前たち、食うな!」

ベンダーミミック由来の何らかの毒素により、サヴァイヴァー・ドージョーはオショガツの三日間を寝こんで終えた。その後「謎肉オーゾニ」は触れてはいけない話題となり、それはマナウスに落ち着いた後も変わらなかった。ただ「ニンジャでもあの毒はヤバい」とはディスカバリーの弁である。

10)ピザ・タキ/タキ

「……でも、オショガツは休みでしょう?」客のいないピザ店でコトブキが言う。タキはテレビリモコンのザッピング操作を止め、埃っぽいカウンターに突っ伏した。「オショガツは寝て過ごすモンだ」テレビのマンザイ番組がわざとらしい大爆笑SEを流す。

「いけません! オショガツといえばジンジャ・カテドラル、仮装大賞、モチマキ、サケ、オーゾニ……」「知るかよ。うちにモチなんかねえぞ」店の扉が開いた。「オイ、今日は休み……」「知っている」見知った顔が答えた。マスラダはタキの返事を待たずに店内に入った。白い紙袋を持っている。

コトブキは袋を受け取りその場で開けた。「まあ!」モチが入っている。タキは複雑な表情だ。「なんでモチなんか持って来やがった」「投げていた」モチマキ、つまりボンズがモチを投げ、飛距離を競う新年の行事である。硬く重いモチはしばしば寺院の敷地を出て通行人に当たり、死者が出る。

コトブキは嬉々として店の奥に入っていった。「オーゾニ作る気でいるぜ」タキは唸った。「調味料、タバスコぐらいしかねえのにさ」店の奥では湯の沸く気配。店内を温めるには至らない。「……ピザ、食うか?」タキは一応声をかけてみるが、返事はない。二人の若者は無表情でテレビを眺めた。

11)ザイバツ・ネオサイタマ駐屯部隊/ワイルドハント

ワイルドハントは一人用のチャブに蓋をした椀を置き、その前に座った。ネオサイタマ侵攻から新勢力との協定成立まで、息をつく余裕など全くなかった。気が付けばオショガツもとうに終わった頃合いである。

フスマを隔て、建物の塀の遥か向こうから街の喧騒が微かに届く。未明だというのにネオサイタマの街は眠る気がないらしい。とはいえ、この部屋にはガイオンめいた静謐があった。配下のアデプト達は遅すぎる新年のオーゾニを食べ終え、満腹のうちに眠りについた頃だろう。周囲は静まり返っている。

ワイルドハントは無言で椀の蓋を開けた。抑えた照明に白い湯気が光り、ミソが奥ゆかしく香る。その中に爽やかな香りが混ざっている。白い芋の上に小さく削った柑橘の皮が乗っていた。「これは」ネオサイタマのイタマエもなかなかのものだ。

汁を一口飲んで深々と息を吐く。ワイルドハントは薄暗い天井を見上げ、オーゾニの湯気が消えていくのを見送った。これを食べて体が温まったらもう寝よう。ワイルドハントはオーゾニの具にハシをつけた。「アッ、モチは四角か……惜しい……」


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