怪談No.02 化石ブーム

知人の吉田(仮)から聞いた話です。

当時僕が彼にこの話を聞いたときの雰囲気を味わって貰いたいため、以下の文章は吉田が語る言葉として読んでいただくと幸いです。

俺が小学校3年の頃、クラスで化石ブームが起こっていた。ブームのきっかけは、クラスの目立たない男子が三葉虫かアンモナイトの化石のレプリカを学校に持ってきたことだった。当時クラスの男子たちは目立たない男子がヒーローのように思えて、その日から男子全員が化石を探すようになった。

しかし化石なんてそこらへんに落ちてるようなものじゃない。だからみんな珍しい形の石を持ってきて見せ合っていた。

ある日の休み時間に俺は友達の田中(仮)と校庭で遊んでいると、交通事故に遭ってしばらく休んでいた中村(仮)が話しかけてきた。

「これ凄くない?」と俺らに声をかけて、両手を開いて見せた。

中村の両手には10センチほど長さの骨があった。

俺と田中は興奮して思わずその骨を取って、まじまじと骨を見ていた。するとチャイムが鳴ってしまい教室に戻ることになった。教室に戻る途中、中村は「俺はまだケガが治ってないから、保健室で授業を受けてんねん。じゃあ。」と言って保健室へとむかった。 

俺と田中は中村が持ってきた骨を持ったまま教室に戻ったので、クラスのみんなにその骨を見せた。しかし反応はあまり良くないもので、みんなからは手羽先の骨なんじゃないかと揶揄われた。

翌日俺と田中は骨を返しに保健室に向かった。でも向かう途中に廊下で中村と会って骨を返そうとしたら、中村は「それあげるわ。俺別の化石見つけたし。」と言って、俺たちに見つけた化石を見せた。

それは同じく骨ではあるが、昨日の骨は棒状のものだったのに対して、今あるのは曲線状のものだった。

俺と田中は新しい骨をみてまた興奮して、どこで化石が取れるのかを中村に聞いた。

すると中村は「放課後そこに連れて行ったるわ」と言ったので、放課後俺と田中は中村と一緒に下校した。

中村は一軒家の前で「ここやで」と言ってその家へ入ろうとした。俺は「これ中村の家?」と質問したが、中村は無視した。俺と田中は中村を追うようにその家へ入った。

でも中村は俺らを置いて行くように、玄関から真っ直ぐの奥にある部屋へと入っていった。俺と田中は急いでその部屋へ入ろうとしたが、玄関から一番手前の部屋から中村のお父さんらしき人が出てきた。

俺たちは中村のお父さんらしき人に「お邪魔します。中村君の友達の吉田と田中です。」と挨拶をした。しかしお父さんらしき人は黙ってただ不思議そうな目で俺たちを見ていた。

田中は声が小さくて聞こえてなかったのではと思って、大きい声で挨拶をやり直して、さらに化石のことまでその男に話した。

するとお父さんらしき人は目を変えて「化石?もしかしてお前らがやったんか?!」と言い、俺と田中の腕を掴んで「お前らどこの学校や?!」と怒鳴った。俺は声を震わせて学校の名前を言った。

男は「お前ら逃げたら承知せんぞ!」と言い、電話をかけに奥の部屋まで行った。俺と田中は怖すぎて、逃げる気なんて全くなかった。

30分くらいすると担任の先生がその家に来て、男は担任の先生に事情を話した。男曰く飼っていた猫が昨日の朝死んでいて、死に方が異様だったらしい。猫は手足を引きちぎられていて、明らかに人為的なものだった。そこで男は俺と田中が化石を自慢したいために飼い猫を殺したのだと主張した。

担任の先生は2人はそんなことをする子じゃないし証拠もないと、ずっと俺たちを庇ってくれた。

口論の最中俺が担任の先生に「先生、部屋の奥にまだ中村がいます」と言った。

先生は怪訝な顔して「中村君はまだ入院中よ。何言ってるの?」と言った。途端に俺と田中は狐に包まれたような気になった。

またこの発言によって男は俺ら2人を嘘つき呼ばわりし、事態はさらにややこしいことになった。

結局明日の放課後に担任の先生が立ち会いのもと、俺と田中とそれぞれの保護者が男と話をすることになってしまった。その日の夜は本当に精神的に追い込まれていた。

翌朝俺は登校中に小さな骨のようなものを見つけた。昨日大変な目にあったのにも関わらず、ただクラスのみんなを見返すために俺はその骨を拾って学校へ行った。

教室に着いて早速クラスのみんなに骨を見せに行こうとしたら、田中の机の周りに人集りが出来ていた。俺はそこへ行くと、どうやら田中も俺と同じような骨を拾ってきてクラスの注目を浴びていたのだった。

また俺もみんなに拾ってきた骨を見せた。俺と田中の持ってきた骨は形が少し違うが、似たような硬さで両方とも鶏肉や魚の骨とは全く別の形状だった。

俺と田中は束の間の注目を浴びて楽しんでいたが、内心は不安でいっぱいだ。放課後にまたあの男に合わないといけないのはもちろんの事こと、入院中のはずの中村と遊んだことそのものが怖くてしょうがなかった。

俺と田中は休み時間に確認のため中村に会いに保健室へ行こうとしたが、怖くてやめた。

時は残酷なくらい早く過ぎて、あっという間に下校時間となった。だが担任の先生からの帰りの挨拶が終わってすぐ、担任の先生は俺と田中を職員室へ呼び出した。

恐る恐る俺と田中は職員室へ向かい、先生のところへ行く。なんと昨日の男から連絡があり、その内容は都合で放課後の話し合いに参加出来なくなったことと、もう2人が犯人だと思っておらず疑ってすまないというものだった。

俺と田中はかなりホッとしたが、なぜ男が参加出来なくなったのか少し疑問に思った。担任の先生から今後は勝手に他人の部屋に入らないようにと注意されて、俺たちはそのまま下校した。

俺は家に帰ると早速母親から叱られた。どうやら先生は既に話し合いが無くなったことを母親に連絡していたらしくて、母親は先生と同様に勝手に他人の家に入るなと叱った。

母親が叱り終えた後、俺はなんで男が話し合いに来なくなったのかを母親に聞いてみた。母親はどうやら怪我したみたいだとそれ以上は詳しく教えてくれなかった。

俺は田中の親ならもしかしたら田中に教えてるんじゃないかと思って、田中の家に電話をした。電話には田中本人が出たが、田中の様子がおかしかった。電話に出るなり田中は「今すぐ骨を捨てろ!」と言ってきた。

俺がなぜかときいても田中はただ捨てろと言い張る。仕方なしに俺は骨を近所の公園の砂場に捨てた。

翌朝俺は学校で田中に直接なんで骨を捨てないといけないのか聞いてみた。

田中は「あの中村が行った家のおっさんがケガしたのはしってる?」と聞いてきた。俺が頷くと田中は「あのおっさんは働いている工場で事故にあって、手がぐちゃぐちゃに潰れたって、お母さんに聞いた。中村の呪いや。俺らが持ってた骨って絶対あのおっさんの手の骨やん…」

俺は理解が追いついていなかった。まず中村の呪いの意味を聞いた。すると田中は「お前知らんの?…中村の交通事故って轢き逃げやで、多分あのおっさんが犯人やってんやろ…中村はおっさんに仕返しするつもりで猫も殺したんちゃう…」

俺はだんだん怖くなった。全て推測に過ぎないのにも関わらず、なぜだか真に迫るような説得力を感じてしまったのだった。

その後俺は田中と仲良くすることはなかった。2人は別々のグループで遊ぶようになった。

中村は退院したらしいが、事故による後遺症で普通の学校に戻ることは困難だそうで、別の施設へ行くため転校することになった。

俺は中村に聞きたいことがたくさんあるが、気味が悪くて中村に会おうとは到底思えない。そもそも本人ではない、中村に似た何かがこの事件を引き起こした可能性もある。

腕が潰れたおっさんはその後どうなったのかわからない。しかしおっさんの住んでいた家は今は更地になっている。

正直今後の人生においてこの件には一切関わりたくないと思う。

ただ俺が歩くときは下を向かないようになった、下を向くといつもあの骨が落ちてるような気がする。




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