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記録映像レビュー①-2005年 ミクニヤナイハラプロジェクト『3年2組』

ミクニヤナイハラプロジェクト
『3年2組』
2005年5月 (吉祥寺シアターこけら落とし公演)


[作・演出]
矢内原美邦
[出演]
足立智充、稲毛礼子、上村聡、鈴木将一朗、関寛之、渕野修平、三坂知絵子、矢沢誠、山本圭祐

[音楽]
スカンク
[映像]
高橋啓祐
[衣装]
広野裕子
[照明]
森規幸
[舞台監督]
横尾友広、瀬川有生

 さて、吉祥寺シアターの記録映像レビュー、記念すべき第一回目は、2005年、吉祥寺シアターこけら落とし公演として発表された、ミクニヤナイハラプロジェクト『3年2組』。ミクニヤナイハラプロジェクトの旗揚げ公演でもある。早送りボタンを押したままだと勘違いしてリモコンを確認したら特に押していなかった経験があるほど、この作品に限らず、異様な速さの動きと喋りで場を引っ掻き回し続ける演出が特徴的で、最初はほとんど何言ってるのかわからん、と面食らうものの、段々とバラバラのピースが脳内で爆発を起こすような感覚が生まれ、起承転結を追うのとは別の理解の仕方が出来るようになってくる。未来の扱い方は、私の知らない時代の空気を感じさせた(2010年に上京してきたので、2009年以前の東京の舞台は、前提から知らない世界のものだ)。その時代を実際に知る方はそう思わないかもしれないが、今日の視点からみれば、羨ましい時代だ。これからの作品で未来を描くときに、希望を感じさせるのは至難の業で、絵空事から逃れるのは並大抵のことではない。ここで描かれる未来は、残念ながら私が生きている世界のことではなかった。

 吉祥寺シアターで予定されていたミクニヤナイハラプロジェクト『はじまって、それから、いつかおわる』は2020年3月、コロナウイルス感染拡大の影響で中止になった。私は観に行く予定だったが、そうなるだろうと半ば諦めていて、事実、中止になった。失われた作品のことは出ている情報しかわからないので推測の域を出ないが、『3年2組』の頃から、濃厚接触すること、大声で人に向かって叫ぶことは、ミクニヤナイハラプロジェクトが常に抱え持っている切実さを伝えるのに欠かせない要素で、それを取り外して公演を行うことは、無理に等しいように思う。数本の作品を実際に生で観てきたが、演出をこの状況に合わせて微調整するというレベルの話ではない。衝動的なふるまいとコロナ感染対策は、水と油のように馴染むはずのないものだ。ミクニヤナイハラプロジェクトをまた気兼ねなく観れる日が、いち早く到来することを期待するが、仮にコロナ禍が長期戦と化したとき、それでも出来るミクニヤナイハラプロジェクト、というのは、一人芝居にする以外の選択肢を、なかなか思いつけないところがある。

 約半年かけて、私の脳は、自動的にコロナ禍でも大丈夫そうな舞台とそうじゃない舞台でフォルダ分けする脳になった(全然良くない癖だが、ガイドラインがガタガタの居酒屋などを反射的に避けているうちにいつのまにか身についていた)。『3年2組』はこの分類なら圧倒的にそうじゃない舞台のほうだが、私は生きている実感を求めて劇場に通っていたようなところがあるので、今まさに、何も気にせずに観て高揚したい、と願わせてくれた作品でもあった。


チーフ・キュレーター 綾門優季

いただいたサポートは会期中、劇場内に設置された賽銭箱に奉納されます。