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【稽古場レポート】創立70周年の劇団青年座が送る、別役実の傑作不条理劇!

 2024年9月28日(土)より、吉祥寺シアターにて劇団青年座『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』が開幕を迎える。本公演は青年座創立70周年記念公演第3弾で、劇団を代表する名優である山路和弘山本龍二がダブル主演を務める。節目となる年に満を持して挑む『諸国』。一体どのような作品になるのか。私は先日、本作の稽古場にお邪魔してきた。緊張しつつ訪れたが、フラットな雰囲気で着実に作品を作り上げる場だった。その様子をお届けする。

 稽古場を訪れると異様な格好の人物がいた。騎士の従者1(前田聖太)と従者2(桜木信介)は身じろぎするだけでガチャガチャ鳴る金物を全身にぶら下げている。なんとこれは本衣裳らしく、ト書きにもその通りの指定がある。
 今日は稽古の序盤だ。シーンを細切れにあたりつつ、演出の金澤菜乃英が立ち位置や動線、動作、会話の論理性を整理し、その場の形を固める。例えば、宿屋の亭主の娘(野邑光希)がコップに水を注ぐシーン。この動きの間だけにも、動作の速さ、大きさ、相手の話の受け取り方、タイミングなど多くの要素がある。演劇というと華やかなイメージを持つ人もいるだろうが、実際は地道な修正の積み重ねだ。
 どう提示するか難しいシーンがあり悩んでいる時に、俳優たちから色々なアイデアが出て、金澤が「確かに!」と声を上げる場面もあった。若手ながら演出家として高い評価を得ている金澤とベテラン俳優陣の間にはリスペクトが感じられ、稽古場の空気はフラットで意見交流が活発だ。

 『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』はドン・キホーテを下敷きにした別役実による不条理劇だ。

<あらすじ>
荒野の一角にある移動式簡易宿泊所。病人を求めて移動してきた医師と看護婦。死人を求めて移動してきた牧師。三人がまだ見ぬ客のことで言い争っていると、宿の亭主とその娘が戻ってきた。娘は、もうすぐ具合が悪そうな騎士と従者が訪れそうだと告げる。そこに、それぞれの従者を引き連れて二人の騎士が現れた……

撮影=坂本正郁

(※以下、若干のネタバレを含みます!)
 不条理劇では、その名の通り不条理なこと、道理に合わないことが起きる(もしくは何も起こらないこともしばしば)。大真面目に展開される会話は雲を掴むようで、自分がおかしいのか登場人物たちがおかしいのか分からなくなる。例えば、「お食事って何だい……?」と聞く騎士に、宿屋の亭主の娘が“お食事”の概念について説明し始めるシーンがある。このように、言わなくても分かるような当たり前のことを問うたり疑ったりする会話が多々ある。それは現実をひたすらに疑う哲学者のようでもある。かと思えば認知症のおじいさんにも見え、またある時は幼児がリアルにおままごとをしているようにも映る。道理に合わない暴力が突然起き、足元が揺らぐ。私たちが生きている中で無意識に前提としている常識が取り払われる。

 不条理劇の良さは噛めば噛むほど味がするところにあると思う。別役実作品を何度も見た人でも永遠に確かな解は得られず、「これは一体何だったんだ……」と考え込むだろう。多くの俳優によって演じられてきた本作。創立70周年を迎えた青年座が満を持して挑む『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』、ぜひご覧ください。そして一緒に、「これは一体何だったんだ……」と考え込みましょう。

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