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【千年とハッ】涌田悠・田上碧インタビュー

『千年とハッ』小屋入り前の稽古場にスタッフがお邪魔し、出演者のお二人にインタビューしました。今回の作品について、お互いのクリエーションについて、たくさんお話いただきました。

―今回、初めてのご共演ですね。どういうきっかけでしたか?

涌田悠(以下、涌田):私が碧さんをお誘いする形で、今回のコラボレーションとなりました。
 以前に碧さんのパフォーマンスを拝見したことがあって、今作のクリエイションの中でも主軸になっている「見て呼ぶ」という手法(…街の風景の中にあるものを、声と歌で描写していく田上独自の手法)によるパフォーマンスをされていた。それを見たとき、ご自身の中から表現しているというよりは、ご自身の声と世界が触れ合っているところから歌や言葉が生まれているところがすごく素敵だなと感じました。ただ単に歌だけじゃなく、言葉が生まれる手前の息と言葉、そして歌という、そこの「あわい」を行き来しているようなところがすごく個性的で魅力的だなと感じています。
 私自身も踊りと言葉を扱うパフォーマンスをしていますが、「踊り」「言葉」というそれぞれが独立したものというよりは、動きから踊りになったり、呼吸から言葉が生まれたり、言葉が動きになって踊りになったり、その表現と表現のあわいみたいなものに興味があります。そうしたところに共通する部分もありそうだし、違う部分もありそうで、一緒に創ったら何か面白い発見があるんじゃないかなという予感があって、お声がけしました。
 実際一緒に創っていてもすごく発見があって、楽しんでます。

田上碧(左)、涌田悠(右)

―碧さんはいかがですか。

田上碧(以下、田上):作り始めたかなり最初の時期に、一緒に吉祥寺の街を歩いて、実際に景色を見て、言葉に変えたり動きにしたりするワークを何度かやったんですけど、その時に一番印象的だったのは、私と悠さんの景色との向き合い方、取り組み方が全然違くて。
 私は歩くのを止めずに通りすぎていく景色を、捕まえては離すという感じでやってるんですけど、悠さんはじっくりやっていて。身体をそこにおいて、実際にその世界に触れて動く、私の「見て呼ぶ」を「触れて動く」と解釈してくれたんですけど、その時の時間の感覚は私よりももうちょっとゆったりしていて。各々がそれまでやってきた表現―私は即興で歌をつくって演奏する、悠さんは短歌を作るというのをダンスと一緒にやっていて―がこんな風に身体に出るんだなと思って、それが一番初めに面白かったし、いまだに面白いところです。

吉祥寺シアター稽古場

涌田:そのスピード感の違いとかがそのまま作品にも乗っていますね。

―お二人の持つ表現の「あわい」を行き来するスピード感も違うのでしょうか。

田上:結構(自分は)早いかもしれないです。じっくり変わるというよりは駆け上がるという感覚でいるので。結構あっち行ったと思ったらこっち行くとか、そういう感じがありますね。

涌田:私も行き来は常にゆっくりっていう感じはしない、スピードが移り変わりながら行ったり来たりという感覚の方が強いですね。

―今回、吉祥寺という街を題材に作品創作を行っています。吉祥寺にはどのような印象を抱かれていますか。

田上:結構いろんなものが近くにある感じがします。駅から公園とか、駅から商店街とかがすごい近くで―私たちがリサーチしてたのはそのくらいの狭い範囲内なんですけど―吉祥寺シアターも駅から近いし、駅付近の小さいエリアの中でもいろんなものに出会える、その幅があるなと思いました。

涌田:多くの場所に行ったわけではないけど、狭い範囲でいろんな風景を見れましたね。公園から離れると井の頭通りがあって、大きいドン・キホーテの商業施設の感じとか、公園に向かう水門通りという道があって、そこの静かな落ち着いた住宅地の感じとか、その場所によってスピード感が違いました。出てくる言葉も全然違かったし、出てくる動きの質感とかも違ったので、やっぱり街に触れて創っていくというのは、風景の表情によってこちらが動かされるというか、声と体が動かされるのが面白いなと感じましたね。

8月に開催した涌田さんのワークショップでも、
吉祥寺の街を歩いて言葉や風景を味わいました。

田上:(思い出すように)街には「風景」と「情報」があって、「情報」が多いと(わたしは)負けちゃうのかな。
 「風景」の比率が多い時は、こっちから積極的にアプローチできるんだけど、「情報」がすごい多い状態だと結構こっちが食らうというか。一度ドン・キホーテのお店の中で「見て呼ぶ」ができないかと思って行ったんですけど、あまりにも「情報」が多くて、ちょっと難しかったっていうことがあって。

涌田:外からの言葉が多すぎて、「なんも言えねえ」みたいな(笑)

田上:受け取るだけで精一杯になっちゃって(笑)

―そういうものが混在している街ということですね。

田上:そういう様々なパターンが街の中の小さいエリアにギュッと詰まっているような感じですね。

涌田:いろんな時間の流れとか、空間の広がりがありましたね。

劇場での稽古の一コマ

―現在まさに作品を創作中ですが、手ごたえはどのように感じていらっしゃいますか。

田上:わたしたちは初めて一緒に作品を創るし、今までやってきた表現も違うので、各々が普段どういう風に創り始めているのかを、二人とも見つめ直さざるを得なくなっていて。作品も歌と踊りが生まれる瞬間を大きなモチーフにしているので、その瞬間をもう一度見つめて、シーンを創っているなと感じています。
 例えば同じように声を出していても、身体から音を出すまでの道筋が全然違っていて、その違いが見えてくることで、自分がどうやっているのかがわかるとか。そういう学びの多さに、一番手ごたえを感じています。

涌田:碧さんの話を聞いていて、歌や踊りが生まれる瞬間って、急に現れるんじゃなくて、それまでに起きていること―身体が世界に触れて、何かが生まれているというプロセス―があって、それそのものを作品の中で見つめているというか、それそのものが乗ってる作品になってるんじゃないかなと思いました、改めて。
 お互いの違いに触れることで自分がやっていたことが明確化されるというのは私も感じています。今まで私は踊りと発話、身体と言葉をミックスさせながら表現をしてきましたが、碧さんの歌は、言葉そのものの意味ではなく、言葉の持ってる質感みたいなものが音に乗って、まるで触れられるかのようにそこに立ち上がるみたいなところがあって。声ってそういう力があるんだなと改めて思いました。私も踊りながら発話するときに、言葉を声の質感にのせていくというか、身体の一部として発話を捉えて、言葉の質感みたいなものを表していきたいなと思いながら、創作しています。碧さんを見て学んでいるところです。

―似ているようで異なるそれぞれの性質がお互いに刺激を与え、化学反応を生み出しているんですね。お二人とも稽古の合間にありがとうございました。

お二人ともありがとうございました。公演はいよいよ12月8日(木)の試演会から始まります。皆様のご予約お待ちしています!

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