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にしなり!3話「日雇いデビュー!」

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 私日暮そのひ!訳あって今西成で暮らしています。目を悪くして右足を失った生活保護受給者のくらしさんと共にドヤに二人で狭いながらも住んでいます。いいことばかりではないけどそれでも楽しく日々を過ごしています!

くらし「なぁ、そろそろこの辺の暮らしにも慣れてきたやろ。現金行ってみぃへんか?」
そのひ「現金…?」 
ついに来たか、とは思ったが既に現場仕事への覚悟は出来ている。でなければこんな土地にいるわけがない。
「あんなぁ、ここの日雇いの働き方のスタイルとしては”現金型”と”契約型”ってのがあるん。んで前者はマンマ、働き終わった後に現金貰えるんよ」
「あの…いいですか?」
「ん?」
「私、経験なしですけど大丈夫なんですかね」
「あ、そないなこと心配してたんか!アホやなぁ、ウチ事故る前まではバリバリ働いとったしコネもぎょうさんあるから安心して働き行って来いや!」

そうしてくらしさんがかつて使っていた道具を持たされたつなぎ姿の私は他数名がいるバンに入る。

「今日は解体の仕事やで!給料払ってるんやからキッチリ働きぃな!」
大柄な女性が怒鳴るようにいうと同時にバンは発進した。
「お前か?くらしの尻拭い言うんは?」
「え、ええ?」
「ヤツはどっか抜けてるんやないかと思うぐらいええやつやったがとんでもないヘマしおって今じゃあんなザマや。あ、あたしはアキ。くらしとはよう現場仕事しとった仲なんや」
「そ、そうなんですか…」
私はくらしさんとの仲もあってか他の人に質問攻めにされたりして既に滅入っていた。頼むから私の事は詮索しないでくれと何かに祈っていたその時だった。

「みんな〜?その子怯えとるからやめときぃ?」

金髪褐色で運転手の人と互角のガタイをした女性はその場の日雇いの人たちを制してくれた。
「ひ、ひまさんが言うならしゃあないわ…へへ」
どうやらひまさんと呼ばれている人は中々この辺りでは発言力がある人らしかった。
ひまさんは運転中にも関わらず私の隣のアキさんをどかして私の隣に座ってきた。

「あたし、ひじかたひまわりちゃん!皆ひまさん言うけどあたしそんなけったいな名前ややわ、ひまわりちゃんって呼んでぇな」
「ひ、日暮そのひです…」
「そのひちゃんかぁ!よろしゅうなぁ!何で前髪伸ばしてるん?作業の邪魔なるで?」
「い、いやもうこの髪型で産まれた頃からなんで!慣れてます!」
また嘘をついてしまった。今後あと何度嘘をつけばいいのだろうか…

「そのひちゃん新入りやよね〜分からんことあったらこのひまわりちゃんに任せときぃ」
「は、はいひまわりさん…」
「ひまわりちゃん!あたしのことひまわりちゃんって呼んでいうたよな?」
「で、でも先輩ですし…」
「それもそうかぁ…じゃあひまわりちゃん先輩でよろしゅうな」
「そんな無茶苦茶な」

「まぁみんな新入りが珍しいからああやってそのひちゃんにたかって聞きに来るアホおるけどはた迷惑やよな〜みんなワケありなんわかっとんのに」シュボッ
「土方ひまわり!車内禁煙何度言うたら分かるんや!」
ひまわりさんがわかばを咥え、ライターに火を付けると同時に運転手のお姉さんが怒鳴る。
「すんまへんこればっかは胎教のたまもんでしてなぁ…」
「仕事が終わってからやってくれぃ、そろそろ現場につくで」
いかついお姉さんはため息をつきながら運転に集中し、窓からはバブルの頃に建てられたであろうボロっちいデパートが解体してくれと言わんばかりに出迎えてくれた。

はっきり言って初めての現場仕事は死ぬほど疲れた。全身が痛い。
新人だから穴を掘っては水を入れる作業ばかりしていたが腕が痛い。
休憩はまだまだだと言うのに倒れそうな私にひまわりさんはポカリを買ってきてくれた。

「すんませんこの子倒れそうなんでウチが面倒見ときますわ」
「…くらしの話聞いとったが思ったより腰抜やのう」
女は頭を掻きながらため息をついた。

クーラーが効いたバンでひまわりさんに膝枕された私は疲労と同時に情けなさがこみ上げてきた。
「最初は大体そうなるんよ、ここで落ち込んでたらやってけへんで?今は休んどき?」
ひまわりさんは優しく私の頭を撫でる。
「冷えピタ貼ったるから前髪失礼な〜」
まずい、前髪は…私が貼ると言う前に彼女はもう私の前髪をめくっていた。
「…なんやそのひちゃん美人やなぁ、そんなかわええのに顔隠して生きてたら勿体ないでホンマ。こんなとこよか飛田新地とかキャバ、いやアイドルやタレントやってけるルックスやないかい」
…そんなことしたら捕まりますって、という言葉を飲み込んだ私はただ黙って横になっていた。
「ウチなぁ、親がクソッタレすぎたから逃げてきて売れないながらもアイドルになったんや。あん頃が一番楽しかったなぁ」
「アイドルやってたんですか!?すご!」
「いやいや、ホンマ売れへんやつね。でもなぁ、枕?拒否ったら悪い噂流されてすぐクビでこういうところでしか仕事出来へんくなったわ」 
「…そ、そういえば胎教がうんぬん言ってましたけどそれって」
「ん〜?ウチのババァがなぁ、ウチがお腹の中いる頃に酒とタバコやめなかったんや。だから軽く頭悪いんや。これだけ聞いたらもう察せるやろ?」
軽くどころではない気がする。
「す、すみません…変なこと聞いちゃって」
「えぇよ、今度時間あったらもっと話したる」

ずっとひまわりさんと話していると時間が経つのが早かったのか作業が終わったみたいでみんながバンに戻ってきた。
「なんやこの寒さぁ!」
「バンの冷房つけっぱとかありえへんわ!おい!新入り!何呑気に涼んでやがんでぇ!」
ど、どうしよう。なんと言えばいいのか…とりあえず謝るしかないか…と慌てふためいた。
「あんな、バンに冷房つけさせたんはウチの判断や。文句あんならそのひちゃんやなくてひまわりちゃんに言い?」
「アッハイ…」
「まぁなんだ、すまんなみんな。窓開けたら少しは冷気も抜けてくやろ」
ひまわりさんはバンの窓を1つづつ開けていく。冷気が抜けていく感じがした。

しかしドライバーのお姉さんだけはまだ怒りが収まっていなかった。
「土方ひまわり!お前新人の介抱のドサクサに紛れて何サボっとんや!これだから知恵お…」
「すんまへん、あんま差別的なこと言わんといてくださいな」
ひまわりさんの眼光には凄みがあった。にらみ合いに負けたのかお姉さんは黙ってバンに乗って運転させた。

帰りのバンの空気は冷たかった。気温的な意味ではない方でだ。
しかしひまわりさんだけは気さくに私に声を掛ける「そのひちゃん大丈夫か?そんな具合悪いようならウチんとこ来いへん?」
「いやもう大丈夫ですって…」
「いーや、大丈夫やない。運ちゃんここウチ降りるとこですわぁ!」
「ちょっ…新入りはまだここじゃ…」
「ええからええから!ほな降りよ!」

ひまわりさんは寮まで私を担いでいくと布団に優しく投げ飛ばした。
「あ、あの…ここは?」
「あたしの寮。ホンマは飯場なんやけど事情あってなぁ…あ、これそのひちゃんの給料!」
ほとんど働いていなかったのに日給通り入ってる…どうやってそうしたのだろうか

「あたし今夜は徹夜でエペやるから寝ててええで」
物がとっ散らかって汚い部屋だったがくらしさんと住んでるところに比べたら遥かに広い。私はくらしさんにLINEしてから久々に広い布団で思う存分寝かせてもらった。

くらし「久々に一人やわぁ~なんか寂しいな」
???「☓☓はここにおるんかオラァ!」
何者かがドアを蹴破った
「はぁ?誰やそれ」
「ちっ…ここはハズレか」
「おい待て誰やあんた!」
「あんたみたいなカスに名乗る筋合いは無いんすわ」
「舐め腐りやがって…ブチ殺すぞワレェ!」
「そんな身体でどうやって私に勝とうと?プッwあ、そうだこの写真の人知りまへんか?」
くらしの眼の前に昔のそのひの写真を突き出した。
「悪いなぁ、ウチ目ぇ悪くて誰が誰だかわかりませんわ~ホンマすんませんのぅ、身体が健康じゃなくて分かりませんわw分かったらはよ帰れボケブス!」
「おー怖い怖い、じゃあ失礼しますわ」
くらしは腹が立つ女だと思ったが伊達に西成に住んでいない、彼女から薬物常習人からの特有の匂いがしたのできっと変なヤク中がラリって入ってきたのだろうと薄っぺらい布団に包まって寝た。

そのひ「うわっ!」
ひまわり「ど、どうしたんや」
「なんか悪夢見ちゃって…」
「相当疲れとったんやなぁ、酒でも飲む?」

元彼を殺したことがバレた夢だとは到底言えない。私はひまわりさんがくれたハイボールを飲み干してからまた眠りについた。

2024/04/25
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高いよ