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「にしなり!」二話

↑前回

 私、日暮そのひは那間歩くらしさんのドヤに住み始めてから3日経った。
私は公園での経緯を話したせいか暫くはゆっくりしてていいと言われたのでくらしさんが借りてきた本を読んだりくらしさんがどこのツテで手に入れたのか分からないそのひ名義のスマホを眺める生活を続けていた。

「そのひちゃんさぁ、3日経つけどせっかく新天地に来たのに探索とかしないの?」
「私インドアだから…」
くらしさんには日々嘘を重ねているが正直申し訳なく思っている。
しかしもしも既にニュースや指名手配でバレたらそれこそ終わりなので仕方がない。
「勿体無いで~、どうしてインドアなったん?」
くらしさんは基本的に気さくな人ではあるが詮索してくるところだけはどうしても正直今の私としては好きではない。
「実は私、醜形恐怖症でして…」
また私は嘘を重ねる。
「ええ~?そんなコト無いと思うけどよう見せてみ?」
ほぼキス直前の距離で前髪をかき分けられて顔を晒された私は内心ヒヤヒヤしていた。
「なんやかわええやんか、そんなツラして不細工思うてたらほんまもんの不細工に失礼やで?あ、今のは少し無神経すぎた!すまん!」
「いや、いいんです…でもなんでいつも私のこと睨んだりとか距離めっちゃ近くで見てきたりしてるんですか?」
「ん~?昔は日雇いやってたんやけど事故って目があんまようないんよね。右足がないのもそれが理由ってワケ」
「じゃあ今どうやって生活を…?」
「生活保護と障害者年金と闇市や」
「なんか余計なことまで聞いてしまってごめんなさい…」
「えぇよ。事実なんやからさ、ダハハ」
だから始めて会った時に私のことを睨むように見ていたのか、納得した。

「でもなぁ、そのひちゃんは髪伸ばしてもいいんやないかい?可愛いんやし」
「考えときます…」
昔は背中まであるロングヘアだったがバレたら終わってしまう。私は苦笑いを浮かべながら適当に返事した。

「せや、醜形恐怖症なんならマスクすりゃええんやない?前髪クソ長いしほぼ隠れるとちゃうん?正直前髪は切ったほうがええけどもまぁそのひちゃんの意思を尊重するわ」
手鏡でマスクをしてくらしさんの服を着てみるとほぼ別人になっていたような気がした。
「ほなじゃあ今夜はスーパー玉出でも行ってみるか?夜ならすこしゃあ顔も見られへんやろ」
正直行きたくなかったがくらしさんの目が悪いことと足のことを考えたら贖罪のつもりではないが手伝いぐらいしないと申し訳ないのと断ってもしつこそうだなと思った私は黙って頷いた。

くらしさんが趣味のパチンコに出かけてる間、私はスマホで東京のニュースを眺めていた。

『タイガーマンションにて20代の男性の遺体発見』

私が住んでいた場所だ…もうバレてしまったのか。恐る恐る記事をタップしてみるとやはり元居住者の私が疑われていたが当然だ。あいつは人望がなさ過ぎて泊まり歩く場所が私のところしか無かった。
二度と東京に帰れないと思った私は再度この土地で骨を埋めることを決意するとドアが開く音がし、身体がビクッとなった。

「いやぁ久々にシンフォギアで勝ったわぁ。そのひちゃ~ん、金の他にチョコもろてきたからデザート食べようでって…なんで布団に包まっとるんや?」
「す、すみません…たまに酔っ払いの人とか入ってくるのでつい」
「あ、山田さんのことか。強う言ったらんとなぁ。ホラ玉出行くでそのひちゃん」 

半分引きずられるような形で私はパチンコ屋のようにギラギラとした店に連れていかれた。
「金はさっき稼いできたから好きな弁当選んでええで~」
そう言われて惣菜コーナーに向かった訳だがどれも正直言って美味しそうではない(これは連日の疲れによるものかもしれないが)
生きるためには好き嫌いはしない人間だがクソの中からましなクソを探すような行為は正直言って苦手だ。
だから私は高校選びからも逃げ、中卒として、元彼殺しの犯罪者として逃げている。
「え、えっと…初めてなんでオススメ教えてくださいよ」
「ウチはこのおにぎりと焼きそば入っとるやつが好きだからそのひちゃんもこれ食べよ!な?」

くらしさんオススメのそのお弁当とストロングゼロ2本買った私達は私にとって新居地でもあるドヤで初めて酒缶のプルタブを開いた。

「飲みっぷりええねぇ、もう一本買ってきた方がよかったかぁ?」
「い、いえ久々なもんでつい…」
「そうかぁ!じゃあ飲め飲め!ウチは自販機でどぶろく探してくるからそれ飲んでてええよ~」
くらしさんは未だに慣れてい無さそうな松葉杖でやっと立つとそのまま出ていってしまった。

どぶろく…?そんなもの売ってるのか。

私は二本目をためらいもなく開ける。酒を飲めば少しはあのクズを殺した記憶も薄れるだろうからだ。
今思わなくてもろくでもない人生だった。母親は不倫三昧、父親はアル中のパチンカスで暴力を振るってくる。私自身も中卒で友人から誘われたキャバクラで働いて顔も性格も悪い男と付き合った挙句の果てに殺してしまうのだから本当にろくでもない…。

酒と自分に酔っているとくらしさんは見たことのないボトルを2つ買って帰ってきた。
「そのひちゃんもそれだけじゃ足りんやろ?これでも飲んでまぁやなことは忘れとけぇ!」
「ひゃい!」
完全に”出来上がった”私はその変なボトルを気にもせずにガブガブ飲んだ。
「えぇ…東京モンはホンマ怖いわぁ…そんなんジョークで買ってきただけやのに…」
「クセがすごいけど飲めますねこれ!もっとないんれすか!?」
「あ、あぁ…これもやるわ」
「それくらしさんの分じゃないんれすか?いいんれすか?」
「お、おう。好きなだけ飲め飲め」

「こんなに楽しく飲めたの久しぶり!イェーイ!」
「うん、せやねぇ」(まぁそのひちゃんが楽しいならええか…)

次の日、案の定二日酔いに襲われたそのひは苦しみに悶えた。

???「☓☓西成滞在説…ほんまかいな?」
新幹線に乗った少女は週刊誌を広げながら首を傾げた。
まぁいい、新人にしてはデカい仕事を任されたからこれで犯人とっ捕まえて出世しちゃお
彼女は微笑みながら大阪までの新幹線の中で眠った。

続くかもしれんし続かなきゃそうかも

高いよ