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バイブスヤバめの小説『みどりいせき』を読んでほしい。

この小説を一言で表すならば、「読む大麻」だろうか。

始めは難しく読むのに苦しんだ場面もあったが、読み進めるうちにその独特の文体が癖になり、読み終わるころには、早く次回作を読みたいと思うようになっていた。

もちろん、この評価は小説の内容に引っ張られてのものだったことは言うまでもないが、それを除いても著者である太田ステファニー歓人の文体には依存性があると言わざるを得ない。

どのページを開いても著者にしか書けない文学があって、『みどりいせき』でしか読めない物語があった。

さらにこの小説が不思議な体験をもたらす要因の一つに、場面設定の不明瞭さがある。本来であればそこがどこなのか、時代背景や魔法のような実在しないものの有無まである程度は説明されるが、みどりいせきではそうでなかった。

物語を進めるのは大麻を中心としたいわゆる薬物に当たるが、これに関連する単語の説明が全くなされていない。CBDとか、バッドトリップとか。これらの単語の意味を分からずに読み進めた読者もいたかもしれない。

だからと言って物語がつまらなくなるなんてことはなく、むしろ多くの読者と似た境遇の主人公により深く感情移入できるようになっているのがこの小説の面白い所だろう。

「ええと、濃い方がゴリラ」一本を春が指でトンって弾く。「んで、うしぃのがジェラートだけども」
(中略)
「あれ、じゃあ、しびでぃだけのはどっち?」
(中略)
「CBDどころか、バキバキの超ハイグレインポート」

みどりいせき 集英社 p86

こんな会話延々と続く。さらには素面の時と吸ったときで口調が変わる人物もいるので、正直誰がしゃべっているのかわからない時もあった。しかしそれは主人公であるモモセと同じ状態であろう。

そして何より最終局面直前の描写には度肝を抜かれた。小説であのような浮遊感を味わったのは初めてだった。これからもそう多くはないだろう。

全体を通して、この人だから書けた小説なのだと強い印象を受けた。しかしそれ以上に、きっと大麻とか吸ったらこんな気分になるのかなぁと、どんな情報を見るよりも体感できた気がした。

目の前の輪郭が仄かに崩れて、その色だけが私の目の前に主張してくる。モモセたちが最後に摂取したのはおそらく大麻ではないが。それらと無縁の生活を送っている我々にはそんなこと関係なく、美味しい所だけを文学的に摂取してしまっている。きっとバッドには入らない。

「ずりぃ」

とどこからか聞こえた気がした。

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