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アダム・グラント「Think Again」を読んで(前編)

アダム・グラント「Think Again」

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"Think Again - The Power of Knowing What You Don't Know" by Adam Grant 2021年2月出版

「GIVE & TAKE」「ORIGINALS」など、日本にも愛読者の多いアダム・グラントが今年2月に出版した新著「Think Again」のメインテーマは、「自分の中の固定観念を捨て、考え直すこと」。 
個人的にも、もっとも大事なテーマの一つです。刻々と周囲の環境が変わる中、いつまでも凝り固まった考え方でいたら問題は解決できない。これまで課題解決には経験に基づいた知見に頼るのが一番と言われていましたが、これからは「学んだことを忘れること」がより重要となるというのがこの本に一貫するテーマです。「自分たちは知らないんだ、ということを知ることこそが真理」だというのです。

科学者は常に真理を求め、自らの仮説も疑いながら他の意見にも耳を傾ける。「謙虚さを失わずに学ぶことで、自分を高めることができるという自信を持つ」姿勢を持っています。そんな科学者のようなマインドセットで物事に取り組むと、世界がまた違って見える。

過去1年間に読んだ本の中で最も沢山の気づきを得ました。お腹いっぱい。前編となる今回は、まず各章で語られる内容についてざっとまとめます。

以下、少しネタバレも含んでいます。とはいうものの、実際に読んで驚いていただきたいところは隠していますのでご安心を。

【Part I:自分自身で再考する】

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他人を説得する方法として「主張する」「批判する」「かけ引きをする」の三種類が一般的。自分が意見を聞く時の姿勢も同じ。ついつい相手の話を聞きながら、それに対して「そうじゃないんだよな」というところからスタートしがち。これに対し、過去の偉大な科学者たちのように「自分は無知である」という前提で自らの考え方の限界を知り、相手から学ぼうとすることで新たな道が見えてくる。

傲慢さは能力の伴わない自信からくる。能力のない人ほど、自分のことを過大評価してしまったり、逆に能力があり周りからも評価されているのに自分だけができないと思っていたり。能力と自信のバランスをとり、「知らない」ことを知ること。自分がわかっていないことを理解していないと再考はできない。謙虚さを失わずに自信を持つ姿勢を意識すること。

・自らの意見に固執するのではなく、意見はあくまで暫定的なものとしてとらえ、自分の考えが自らのアイデンティティとして固執しなければならないものにならないようにする。そのためには、自分の置かれている「今」と、身に染み付いたこだわりの元となった「過去」を切り離すこと。また自分の「意見」と「アイデンティティ」を切り離すことが大事。

自らのアイデンティティは、どのような意見が正しいと信じているか、ではなく、どのような価値観を大切にしているか、で形成されるべき。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス曰く「正しい判断をする人達は人の意見をよく聞き、自らの考えを頻繁に変える。そうしない人は多くの判断を間違う」

・良い衝突と悪い衝突。いかにリレーション・コンフリクト(好き嫌いなど感情的な衝突)を避けつつ、タスク・コンフリクト(意見の衝突)の議論ができるかが大事。身の回りに違う意見を持ち、お互いに議論を戦わせることができる壁打ち相手(チャレンジネットワーク)を持つことが重要となる。

【Part II:相手を再考させる】

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・ディベートの達人やプロの交渉人。共に共通するのは相手を力でねじ伏せるのではなく、問い掛けを通じて相手と共感できるところを探し、そこから「何があれば、あなたは考えを改めるきっかけになりますか?」と聞いていくところにある。

価値観の異なる相手を改組させる。盲信的で熱狂的な野球ファンを、毛嫌いするライバルチームのファンに改組させることはできるか?対話を通じて「自分が信じ切っていることは、実は確証があるわけではなくたまたま自分がこれまでの人生の中で染み付いたステレオタイプに基づくものなのではないか?」と自分自身で気づかせることで自らが最も大切にしていたイデオロギーが変わることもある。

質問を通じて傾聴することの大切さ。考え方を変えるきっかけとなる気づきを与えられる質問とはどんなものか?自分の考えをことさらに主張したり相手のことを非難するのではなく、相手が頑なに思い込んでいることの背景を丁寧に聞き出すことで、そこにある知識の欠如に気づかせ、持っていた信念に疑いの目を向け、これまでとは違う考え方への興味を醸成することが可能になる。

【Part III:みんなで再考する】

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・地球温暖化に関する議論がアメリカで複雑骨折している理由の一つは、政治と関連づけられてしまっているから。どちらを信じるか、物事に白黒をつけてしまうところにそもそも無理がある。

・「学ぶ」を見直し、生徒に自分がこれまで身につけた知識を疑うことを教える。小学校のうちに科学的な思考プロセスを身につけないと、後から直すのは難しくなる。点取虫タイプの成績優秀者が苦しむ課題「日々何気なく目にしている慣習や考えで本来ならばおかしいと思われるものを探し、それについてプレゼンする」。子供と一緒に「作文を何回か推敲させる」ことで考えが深まることを体感する。

・NASAの事例に学ぶ、組織にはびこる再考することを忘れることの怖さ。「宇宙飛行士が宇宙遊泳中にヘルメットに水が溜まり溺死寸前になったり、2度にわたるスペースシャトルの爆発により14名の犠牲者を出した惨事を経て企業文化がどう変わったのか」を通じて、心理的安全性について考える。自分たちはパーフェクトではない、ということを認める謙虚さが大事。最終的な判断だけではなく、その判断に至るまでの再考プロセスを全員でコミットすることが大事。

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・常に再考を繰り返しながらお互いに学び合うカルチャーでは、再考プロセスの深さも評価基準に。

・再考カルチャーを意識的に仕組み化しているアマゾンの事例:パワポでのプレゼンに代わり、6ページのメモで「課題」「過去に考えられた解決方法」、そして今回改善された「より顧客利便性をあげるための解決方法」を整理。ミーティング前に参加者全員が黙って読み込む。全てのものに当てはまる方法ではないかもしれないが、影響が大きく元に戻せない決断を行わなければならない時には役に立つ。

・「先にうまくいくという確証を求める」のは再考プロセスに逆行する。ジェフベゾスの2016年の株主への手紙「会社のカルチャーとして、提案されている内容にたとえ自分が納得できない場合にも、試しにやってみることにコミットするという姿勢を大事にしている」。失敗しないように石橋を叩くのではなく、たとえ違う意見でもリスクを取って実験し、失敗を通じて学べるのであれば積極的にコミットするという姿勢。

【Part IV:結論】

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・「大人になったら何になりたい?」と聞いてはだめ?「何になりたい」ではなく「何をやりたい」かが焦点。

うまくいかない時にコミット度合いを高めるのは時に危険。 Grit(やりぬく力)が強い人は自分の考えに固執しがち。自分自身が何者なのかわからずに自分探しの旅に出るのではなく、逆に早い段階から「自分はこれになりたい」と決めつけてしまうことの問題点。

・両親や友人を感心させるがために給料の高い職についたり、世界を救うためにNPOに飛び込んだり。人生の設計図を早い段階から決めてしまう必要はない。

・自分が結婚したいタイプと思っていた「キャリア志向で志の高い女性」ではない、「家庭的な女性」と恋に落ちてしまって悩んでいる学生からの相談。「そういう女性がタイプだと思ったのはいつ?ティーンエージャーの時からならば、その前提そのものが古い可能性がある。二人が幸せなのであれば、志が高いことを必ずしも相手に求める必要はないのでは?」

幸せ、というものは追い求めると不幸せになる。人生を単に楽しく過ごそうとするのではなく、人生に何らかの意味を求める人の方が結果的に幸せ。仕事に面白さを見出そうとだけしている人たちよりも、仕事に何らかの目的を求める人たちの方が情熱をもって仕事に取り組むことができる。「幸せとは追い求めるものではなく、自分の中に何らかの動機や目的があり、それを追い求めて動くことによって得られるものである」

環境を変えるだけでは、幸せにはならない。「不幸せだと思って陽気なイタリアに旅行に行っても、そこにいるのはイタリアにいる不幸せな自分でしかない」

・キャリア、人間関係、コミュニティは全て「オープンシステム」。常に周囲の環境からの影響を受け揺れ動いているもの。常に「終点まで複数の道があり」、「始点からは複数の道がある」。大事なのは、特定の道をたどることや、終点そのものにこだわりすぎないこと。成功、幸せのかたちは一つではない。

・我々のアイデンティティも、ひいては人生そのものも「オープンシステム」。人生やキャリアに関して凝り固まった昔の価値観に足かせをはめられる必要はない。人生の選択肢について考えなおす第一歩は、日々何をするべきかを見直すことからはじまる。

【エピローグ】

・コロナ禍に求められるリーダー像は、これまで直面したことのない困難に対して「自分たちは知らない。色々なことを試して、うまくいかなければ正直にそれを認めた上で他の方法を試すべきだ。大事なのはさまざまな施策をたゆまなく行い続けることだ」と言えること。

・クリアなビジョン、骨太の計画、ゆるぎない予測。自信を持ったリーダーは大衆の受けは良い。経済が安定している時もそうだが危機的状況において本当に求められているのは不透明な状況を受け入れ、失敗を認め他人から学び、そして計画を見直すことができるリーダー。

・感染爆発を止める、経済を復興するというような確固たる処方箋が存在しない大きな課題に直面した時、自分たちは全てのことを知っているわけではない。昨日は正しいと思っていた仮説を疑う、そうしたリーダーこそが求められているのではないか。

学びという行為はそもそも自分の信念を進化させるために行うものであり、正当化するためにあるのではない。そしてそれとともに自分たちの考え方も都度改めていくべきもの。

・「人々がもう少し再考できれば、より良い世の中になるのではないか」という考え方をどう思うか? 「いちいちそんなことしてたら生きていけないよ」という場合、何がその考えを改めるきっかけになるか?

Think Again(英語版)

次回は、この本を読んで自分が感じたことを書いてみたいと思います!

まつざき



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