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06話 『二人』の初恋

昨日の言葉には深い背後意図が隠されていた。結菜が昨日「また会おうね」と口にした瞬間、彼女の中には「二度と優斗には会わない」という誓いが燃えていた。結菜は自分が幸せになることで、同時にそれが彼女を不幸にすることを恐れ、それを回避しようとしていたのだ。

「パパ朝だよ、日曜だから遊びに連れて行ってよ」と小さな娘の声で目覚めると、理解れない感情が吹き荒れ、目の前には実在する娘がいるにもかかわらず、結菜に会いたくてしかたがない。自分自身の心が一歩前に進み、でもこれ以上進んでしまうと今の幸せがなくなってしまう。人間の欲望は時に自己矛盾を生むものだ。手に入れたいものはすべて手に入れたいと願うが、同時に損得勘定で選り好みをし、複雑な心情に翻弄されることもある。

その晩、結菜から優斗に送られた一言のDMが舞い込んだ。「もう会わないほうがいい」。優斗は淡々と「そうだね」と返信するしかできなかった。

昨日はスタートではなく、ゴールだったんだ。
優斗と結菜の間に生まれた一度きりのわがままが、二人の関係をもう二度と戻れないものに変えてしまった。
真夏の蒸し暑い夜、二人の初恋は終わりを告げた。

優斗は心の中には結菜への未練と、なぜか再び会いたいという欲求が渦巻いていた。出会った時以上に理解できない感情に揺れ動きながらも、仕事に明け暮れ、日常を過ごしていた。

ある晴れた日、優斗は仕事を終え、家路につく途中で突然のメッセージがスマートフォンに届いた。「また会いたい」という一文。それは結菜からのものだった。

驚きと同時に、優斗は心がざわめくのを感じた。彼女が再び会いたいと言った理由は何だろう。彼女は僕に対してまだ何か感じているのだろうか。それとも、彼女はただ友達として僕と関わりたいと思っているのだろうか。それとも、彼女は僕に何かを伝えたいのだろうか。

返信に迷いながらも、優斗は「了解。いつでも会いたい時に言ってくれればいいよ」と返信した。結菜との再会が現実のものとなる瞬間を優斗は心待ちにしていた。

結菜の心情は複雑で、優斗もまた複雑な気持ちになっていた。

結菜は「明後日、あの場所で待っている」と言う。
振り回されている気分だが、ときめきがあふれ出す。二度と会えないと思っていたから、君の言葉はすごく嬉しい。

(つづく)

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