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ジャズの泥臭さ

 音楽のジャズの世界では、泥臭くて良い、と言うことがある。
 例えば、ピアノのBobby Timmons(ボビー・ティモンズ)・トリオのアルバム『In Person』がその好例となる。
 案外、きれいなお姉さんが『イン・パーソン』を好んでいたりする。それは「磁力の原理」。これは同極では反発し合い、異極で結合する原理をいう。この原理は、友人関係、夫婦関係などでも通用すると思う。互いに反対の性格の人同士の方が相性が良い場合がある。きれいなお姉さんの音楽の好みも、それに当てはまる。
 そのような「泥臭くて良い」とは一体どのようなジャズなのだろうか。要素としては「ブルージー」といわれる「ブルース感覚」があると思う。洗練されたきれいなジャズとは対照的である。演奏の仕方に土俗的な「土のにおい」のするジャズ。これは都会的ではない。都会的なジャズの代表はBill Evans(ビル・エヴァンス)だろう。彼には泥臭さを微塵も感じさせない。上品に洗練されたジャズである。その対極にあるのがボビー・ティモンズだと思う。そこには氣だるい感じがある。彼独特の節回しを聞くことができる。こうした「泥臭さ」を持ち味とする奏者は彼だけではない。その持ち味の元となるものは、先ほどのブルース感覚だと思われる。一方、都会的なジャズのエヴァンスは、クラシックの素養を身に付けている。
 ピアノに注目して書いたが、サックスにも泥臭さはある。サックスの泥臭さといえば、テキサス・テナーが挙がる。これはブルース感覚だけではなく、男らしさも加わる。例えば、Illinois Jacquet(イリノイ・ジャケー)『Bottoms Up』やBuddy Tate(バディ・テイト)『Groovin’ with Tate』といったアルバムがそれに当たる。泥臭くて、男らしいジャズ。これらのアルバムは飽きさせない。繰り返し聞きたくなるアルバムの一つ。
 ジャズとブルースは切っても切れない縁がある。ジャズの泥臭さは、ブルースに端を発する。ジャズはブルースほどの濃厚な泥臭さはないものの、やはり、ジャズのセオリーの中で「ブルース感覚」と呼ぶべき、程良い「泥臭さ」がある。その程良い泥臭さに魅了される者は後を絶たない。この「泥臭さ」を良いと思うかどうかは、やはり聞き手の好みになるだろう。こればかりは聞いてみないと分からない。



Bobby Timmons『In Person』
Illinois Jacquet『Bottoms Up』
Buddy Tate『Groovin’ with Tate』


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