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音声の耐えられない難しさ

こんにちは、カオマンガイコダイラです。
私にはどうしてもできないだろうことが一つあります。やったことがないので、実際できるかどうかはわからないのですが、できない自信があります。みなさんはできるでしょうか。あるいは、「とてもお世話になっている」という人もいるでしょうか?

それは「文章を音声で聴くこと」です。

短い詩や絵本の朗読ではなく、最近流行っているオーディオブックのような、「長編小説やビジネス書を音声にしたサービス」を利用することが(たぶん)できないのです。

リスニング力

いきなり英語の話になってしまいますが、私は「リーディング・リスニング・スピーキング・ライティング」という英語の4技能の中で「リスニング」が最も苦手です。つまり音声を聴くのが苦手です。
冗談抜きに聴いていても「何を言っているのかわからない」のです。私のTOEICのリスニングテストの点数は、3回連続くらいで同じ点数でした……(リーディングは得意なので、文章との親和性は高いのかもしれません)。

なぜリスニング下手なのか。これは英語力以前に、私の音声を聴き取る能力が低いからだと思っています。なぜなら、普段の生活の中で、日本語でも聴き取れないことが多発するからです。
じゃあ普段文字がないと日本語で会話ができないのか?というと、そうでもありません。できていると思っています。ただしあるものが足りない場面では聴き取れないのです。

それは文脈です。

文脈の力

この場合の文脈というのは、文章の脈絡だけでなく、周囲の状況とか、それを話す必然性みたいなものも含みます。
結婚式のスピーチは「話し手は新郎新婦の生い立ちなんかを話しつつ、何かしらおめでたい話をするんだろうな」という状況というか、約束があるから何を言っているのか聴き取れます。
そこで突然「マルクスは包括的な世界観および革命思想として科学的社会主義を打ちたて、資本主義の高度な発展により社会主義・共産主義社会が到来する必然性を説いた(Wikipediaの『マルクス』のページより引用)」と喋られても絶対に分かりません。文脈とズレすぎているからです。脳がバグります。
文字が……せめて話す内容を書き起こした文字さえあれば分かるのですが……。

TOEICのリスニングセクションでは、いきなり質問が1つ読まれ、その後3つ読まれる選択肢の中から妥当な回答を選ぶという問題が20問くらいあります。文脈もクソもない問題です。
「ケーキはどこへ行ったら買えるの?」という質問の後に、「会議は何時からですか?」「以前にこの倉庫に来たことありますよね?」と脈絡のない質問が連続すると、やはり脳がバグります。
しかも正解の回答が「以前にこの倉庫に来たことありますよね」→「私は新入社員です」みたいなこともある。こんな質問と応答だけを切り取っても脳は理解を拒否するだけです。なにか事前の情報や、身振り手振り(要するに文脈です)があったら成り立つかもしれませんが、リスニングだけでそれを理解するのは相当にやっかいです。

文脈の力って相当偉大なのかも……と思います。

文字のなかった時代

ただ、文脈があっても理解が盤石……とはいきません。作家の井上ひさしは著書「私家版 日本語文法」の中で、こう述べています。

「まだ文字のなかった時代、語部が語りを行っていた。語部はまず物語を暗誦しなければならない。その際に、暗誦行為の道しるべは枕詞だった。同時に、聴衆はすべての情報を耳から得る(語部の身振りや仕草から、情報は得られるにしても)ほかはない。新しいことばかり並べられては、話についていけない(『素人の 古典まなびの 七五調』より)」

井上はこの後、だからこそ決まり文句=枕詞が語りのなかに必要だったのであり、そこから七五調が誕生していった……と持論を述べるのですが、まさにこの「話についていけない」人が私です。
ここでは、皆がその場にいて文脈を共有しているのに、それでも話についていけないのです。あくまで井上の想像ですけれども、実際そういうことになるかと思います。だからこそ、情報が耳からしか得られないことを解消するために、人間は文字を作ったのだと思います。

そして戻っていく、あるいは進んでいく

いま、まるで語部のいた時代かのように、物語は「語り」の世界へと戻っていこうとしています。
しかもその物語(やビジネス書)は、読み聞かせを前提とした絵本ではありませんし、枕詞や七五調といった「聴かせるための工夫」もありません。分かりやすいように「文脈」を整理してくれることもたぶんないはずです。

これで「話についていける」人は相当リスニング力が高いし、文脈に頼らずに理解ができる人かと思います。しかも他の作業をしながら聴いて理解することができる!
私のように文字に頼り切り、文脈のない世界では生きてはいけない人よりも能力の高い人かもしれません。皆さんはどっちの世界の人なんですか!?

今はYouTube全盛期の時代だから、映像とともにですが音声を聴いて楽しむ人が多く、こういう離れ業ができる人が増えているんでしょうか。
私もそういう能力があったらなぁ。と思いつつ、文字も文脈も使えるはずなのに意味が分からない駄文を書いてしまいました。

私の本当の問題は、別のところにあるのかもしれません。

#散文 #リスニング #音声 #井上ひさし #オーディオブック #TOEIC

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