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ときどきは気合いが必要
飛行機は嫌いじゃないけど、
乗り込む時と降りる時の
せかせかじりじりした感じは苦手だ。
母と一緒に飛行機に乗った時のことだ。
事前チェックインをしていなかったら、母と前後の席になってしまった。
母は喘息持ちで、
気圧の変化や、湿度が高かったりすると体調が悪くなる。
それに加えて、やっぱり年をとったからだろう。
忙しかったり、人混みの中を歩いたりしても
呼吸が浅くなって一気に体調が崩れてしまうことが増えた。
その日も母の体調は万全ではなかった。
急がないように私は歩くペースを意識的に落としてみたりしたけど、
母は周りに同調するように、やっぱりしっかりせかせかと飛行機に乗り込んだ。
前の座席に座る母の様子を肘かけの隙間から覗くと、
やはり呼吸が苦しいのか肩で息をしているように見えた。
母はもう喘息と長い時間付き合っているから、
呼吸が苦しくなってしまうことや
発作とまではいかないけれど苦しくてヒューヒューと呼吸したり、
ゼエゼエと咳が出たりすることにすっかり慣れてしまっているように思う。
それがない私は、喘息の症状が出ている母を見ると、いつからかなんだかとてもやりきれない気持ちがするようになった。
1時間弱の飛行を終え、飛行機は地元の空港に着陸した。
着陸してすぐにカチャカチャとベルトを外す音が聞こえて来る。
ポーンと音が鳴ってすぐに立ち上がって手荷物を取り出す人達。
前方の方の人はもう列をなしている。
それを見ている自分の頭と顔がぼーっと熱くなっているのがわかった。
そろそろ母も立ち上がって周りと同じようにするんだろう。
その時、「ふー」と「んー」が混ざったような息がわたしの鼻から出ていった。
それは実行せよというサインのようだった。
前の席でそわそわと準備する母の肩に手をかけた。
「急がなくて大丈夫だよ。」
本当は言い終わらないうちに、
ちょっと大袈裟だったかなという気持ちになって胸の中心がさわさわしていた。
だけど、すぐに母の肩がすっと下がったのがわかってほっとした。
後ろを振り向いた母がうんと頷いた。
するとなんだか空気がふわっと軽くなったようで、胸のさわさわが消えて安心した。
自分の列の順番になってから、やっと母は立ち上がった。
幸運なことに、私の隣の席の男性が
上の荷物入れの荷物をすっかり全部降ろしてくれた。
一度だけ、でもしっかり「ありがとうございます」と言った私を恐縮させるくらい
母はその男性に何度もお礼を言った。
いつもなら「急がなくて大丈夫だよ」なんて言わない。言えてない。
恥ずかしいとか
わざわざ言わなくてもいいんじゃないかという面倒くささとか
そんなようなことがばっと頭のなかに湧き上がって、
結局言わないという選択をしてしまう。
いつもじゃなくていい。
でもときどきはエイッと気合いを入れることが
わたしには必要な時がある。
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