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光の粒は君のこと【短編】       空の粒を集めて君へ〜番外編〜

 あっつい・・・。
頼んでもいないセミの大合唱と湿気を含んだ風に揉まれて、
望んでもいない夏を感じる。
ここ潮谷町では夏になると子供の笑い声と大人の笑い声が入り乱れている。
要するにうるさい。

海もすぐ側にあるから夏は遠くから海水浴にくる人もいる。
それなら水着のお姉さんが見れるじゃんってか?
お生憎様。ここにわざわざ来るとしたら家族連ればかり。
綺麗なお姉さんが見たけりゃ岩垣にでもいく事だな。
ベテランの海女さんたちがピチピチの水着で泳いでるぜ?笑
じゃあお前は何してるのかって?
俺は見ての通り。実家の手伝いだよ。
親孝行な俺をみんな見習って欲しいもんだよ。

 タイチの実家は町の居酒屋。
夜になると町中の大人たちが集まりだして毎日宴会騒ぎ。
てんてこ舞いになりながら両親が切り盛りしているけど、
途中から一緒になって酒盛り始めて毎晩ゆでダコ状態。
先に言うとさして大きな店では無い。
入り切らない客たちが勝手に外にテーブルと椅子を持ってくるから、
結果的に大宴会になるってだけ。
みんなで呑んでしまうもんだから店の売り上げはいつも度返し。
タイチの父さん曰く、
「みんな笑って生きれることが一番!」
…だそうだ。
ドンと構えて乗せる船がまさかのボロ船だとは客はつゆ知らず。
ある時流石に両親が売り上げを確認していて
「このままでは沈む」とSOSを発信したらしく、
地元にいる大工の計らいで砂浜に小屋を建ててもらった。
そう、海の家を経営しだしたのだ。
新しく新調した船は戦艦か、それとも泥舟か。

 「現在35度の猛暑を記録している潮谷町付近ですがーー。」

ラジオから流れてくる天気予報にため息で答えるタイチは、
自称:戦艦である海の家にいた。

 途切れ途切れくるお客に注文の品を売りながらふと思う。
「俺の中学最後の夏休み。これだけで終わるのか?」
遊び盛りで年頃のタイチには堪え難い苦行なのは誰もが理解出来るだろう。

 「・・・やってられっかー!!!!」

何かが爆発したかのように匙を投げた。
途端に携帯を汗ばんだポケットから取り出し、おもむろに打ち込む。

ーープルルルル。ーーープルルルル。
ーープルルッ。

「…もしもし?」
「ハルトー、助けてくれ〜!」


親友のハルト。いつも何かあればこいつにSOSを送る。
電話越しでもダルそうな感じが伝わってきたけど、
そんなことは今は知ったことじゃない。
親友の俺が助けを求めて電話してるんだから。

「なに、どうしたの?」
「聞いてくれよ〜。俺の夏休みが親の手伝いで終わっちまうよ〜!」
「あぁ〜、海の家ね。大変だなお前も。」
「お前も?どう言うことだ?」
「言ってなかったっけ?ウチも夏のアトリエ教室してて観光客相手に忙しくしてるんだよ。」
「へ、へぇ〜!やるなぁハルト。さすが我が親友。」

予想外だった。
そう言われてみればそんなこと言ってたような。
暑さでショートしそうな頭を働かせて、記憶を辿っていたが
そんな記憶は見当たらなかった。

「まぁそう言うことで、忙しいからまた後で掛け直すよ。」
「おぉ、またな!」

…さてどうしたものか。
親友の助けなしにこの窮地、どう乗り越える。
また暑さで茹で上がりそうな脳みそを働かせる。

「あれ?タイチじゃん。こんなとこで何してんの?」

聞き覚えのある声、ふわっとしたこの声は…。

「なーにバカみたいな顔してんのよ!暑さでおかしくなっちゃった?」
「ミオリ!?おまっ、何してんだよ!」

同じく幼馴染のミオリ。
こいつは昔から俺のことを小馬鹿にしてくるから苦手だ。
でも町の中では一応可愛い子という肩書きを持っている。
まぁ、確かに見た目は悪くない。
でもあくまで人は外見より中身だ!
断固反対!外見重視主義!
…なんてことを思っていたらミオリがまた話しかけてきた。

「焼きそばとコーラ2つずつください!」
「は?なんでお前なんかに!」
「えぇ〜!ここの店員さんでしょ?お客にそんな口聞いていいのかなー?」
「なっ、…わかったよ。2つずつだな?」
「うん、よろしく〜!私たち席に座ってるから持ってきてね〜!」
「はいよ。」


相変わらず明るいやつだ。
ミオリは昔からそうだった。
あいつの家は町で有名な神社で、
夏祭りになると巫女の格好して毎年手伝っていた。
ある時、男達にその格好をバカにされた事があった。
年頃の男はみんな構って欲しさに気になる子には意地悪するのが常套句だろ?そんな感じ。あいつは年がら年中モテている。
その時、あいつは酷くイジられていたにも関わらず、
次の日の学校ではケロッとしていた。
本当に何もなかったかのようにするもんだから、
いじっていた男たちは逆に圧倒され、終いにはあいつの周りの女子に散々言われる始末。
いつでもあいつの周りには何かしらの取り巻きがいて、
なんとなく話しかけにくい感じ。

 そんなことを思いながら、焼きそばとコーラを準備していると
ふと気になってしまった。
2人分?誰ときてるんだ?
まさか彼氏とか?それだったら気まずいなぁ。
なんて事を考えながらテーブルに運ぶ。
そして俺の不安は視界に映るものを見て消え去った。
「あれ?もう一人は?」

「ん?一人だよ?ほら座った座った!」

状況を理解できないまま目の前に座らされる。



「2人分だろ?もう一人はどうしたんだよ。」
「だーかーらー。一人だって!もう1つはあんたの分!」

・・・はい?意味がわからない。
いや、わかるはずもない。俺にはこいつが何考えているか
本当にさっぱりわからない。

「タイチのお母さんがね、一人でここやってて寂しくしてるだろうから行ってやってくれないか?って。
で、折角だし一緒に焼きそばでも食べてやろうかなと思ったわけよ!」

「なんだよそれ、頼まれてなら断ればいいだろ。」

「何よー。折角きてやったんだから感謝しなさいよ!」

正直ちょっと嬉しかったのは、
取り巻き達を呼ばず一人でわざわざきてくれた事。
・・・ぜってー直接は言わねぇけど。

「それにしても、暇なら誰か呼べばいいでしょー。
 なんで誰も呼ばないのよ。」

「うるせぇーなー。ハルトに連絡はしたけど、あいつん家も今忙しいんだとよ。」

「あぁ、アトリエ教室ねー。毎年いっぱい来るみたいだから、忙しいだろうねー。」

そう言いながらミオリは海辺に目をやった。
何故かその時のミオリの横顔は、少し遠くを見ているように見えた。

「ねぇ、ここ何時に閉めるの?」
「え?17時だけど・・・。なんで?」
「ハルト誘ってみんなで花火しよ!ここに花火持って19時から!」

また突然何を言うかと思えば。
こいつは本当になんでも明るくしてしまえそうなくらい
キラキラした目で話す。
一瞬たじろぐ俺を追い込むように迫力を増すミオリの目に俺は押し負けた。

「・・・わかったわかった、ハルトにも連絡してみるから。
 だから頼むからそんな目で見てくんじゃねーよ。」

「やった、約束ね!花火は私が持っていくから!」

寄り切り一杯。完封負け。
・・・暇つぶしにはいいか。

「はいよ、じゃとりあえずもうちょっと仕事するわ。」
「うん、頑張れ若者よ」
「うるせ、同い年だろ。」
「へへへ〜。じゃあまた夜ね!」

そう行って砂浜を走っていくあいつの背中からは
ワクワクが溢れて弾けてキラキラしていた。

夜は花火か。
・・・よし、とりあえず親友に連絡してやろう。


また3人での思い出が増えていく。
水面に太陽が反射してキラキラしている。
光の粒が飛び散っているこの場所が、俺たちの町。

気がつくと、蝉の声はか細くなり、風に冷たさを感じる。
あぁ、待ち遠しいこの気持ちはこの先もずっと心の中だけのものだろう。

それでもいい。
「みんなが笑ってさえいられればそれが一番」


光の粒は君のこと【短編】 空の粒を集めて君へ〜番外編〜

<おわり>



「空の粒を集めて君へ」毎週月曜日 更新予定
「漫ろ人生」毎週火曜日 更新予定
「誰の為の。」毎週水曜日 更新予定
「ADHD〜勇気を持つことの意味〜」毎週木曜日 更新予定
「あしたのわたしは」毎週金曜日 更新予定

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