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【日吉屋 西堀 耕太郎社長インタビュー】和傘をイノベーションした現代的な照明器具が誕生

インターネットで和傘を販売することで売り上げを急拡大させた西堀さん。

しかし、急増した売り上げはすぐに横ばいとなり、和傘とは別に「日吉屋の新たな定番となる商品の開発の必要性」を感じていた。


そんななか誕生したのが、照明器具の「古都里-KOTORI-」だった。


伝統工芸を革新し、新たな価値を生み出す

番傘の作業工程で、傘に張り付けた和紙に植物性油を塗布する「油引き」という作業がある。

油を引いた後は、天日にて干し、硬化させるわけだが、その際に和傘を太陽の光に透かしてみると、とても美しいことに気づいた。


―それを見て、照明に応用できるのではないかと。

西堀社長(以下、西堀):そうです。試行錯誤するなかで照明デザイナーの方とコラボレーションして、商品としてリリースできるようになりました。作り方や材料は、竹と和紙なんで和傘とほぼ同じなんですよ。

最初に誕生したのが、ペンダントライトの「古都里-KOTORI-」です。その後ホテルなどの施設に納める特注照明などバリエーションも増え、今では全体の売り上げの6割くらいを占めるようになりました。

▲伝統美を活かしたシンプルで新しい照明「古都里-KOTORI-」
▲ザ・リッツ・カールトン京都の大型照明「バタフライ」。ドイツ人プロダクトデザイナー、Jorg Gessner氏が デザインを手がける


西堀:
この照明のシリーズは2006年からスタートし、15年以上続いているわけですが、これが50年、100年と続いていって、また次の伝統になっていったらうれしいですね。

今の和傘って江戸時代の中期ぐらいに確立した作り方なんですけど、当時の人は伝統工芸品と思って傘づくりをしたり、それを差していたわけではありません。つまり、「伝統」と言ってもその時々の時代のニーズにあわせて変化してきたもので、そうじゃないものは自然と淘汰されていきます。

その視点に立ったとき、「伝統は革新の連続である」ということをテーマに据えるようなりました。例えば、機能面だけを見ると和傘は洋傘に勝てませんが、全部悪いのかというとそういうわけではありません。和紙や骨組みの綺麗さなど、見るべきところがあり、それを違う商品に転用することを考えた結果、開閉のできる和傘の素材・手法で作成する照明器具を考案したわけです。

機能性だけでは測れないプラスαの付加価値をつける

▲建築家の矢嶋一裕氏とコラボした、和傘でつくった茶室「傘庵」

「グローバル・ニッチ」をめざし、2008年からは海外にも進出。

  • ニューヨーク

  • パリ

  • ミラノ

  • フランクフルト

  • 上海

などの海外展示会に出展をし、世界各国のさまざまなバイヤーから注目を集める。


―さまざまな分野のデザイナーさんとのコラボレーションされていますが、それも展示会などがきっかけで広がっていったのですか?

西堀:そうですね。例えば、上でご紹介したドイツ人のプロダクトデザイナーは展示会で興味をもっていただいて、後日「別のアイデアがある」とご連絡をいただきました。

またニューヨークの展示会で「古都里-KOTORI-」を見たアメリカのバイヤーからは、「すばらしいけど日本の民芸色が強すぎるので、素材を変えてもっとモダンなものにできないか」と相談を受け、そこから着想を得て作ったのが「MOTO」というシリーズです。

▲イタリア語で「動」を意味する「MOTO」。モダンなデザインが特徴


―海外に出ることで、新しい商品のアイデアが得られたわけですね。

西堀:ネクストマーケットインというマーケティング手法なんですけど、簡単に言うと、自分たちのもっている技術などのよさを活かしつつ、現地のニーズに合ったものを作るっていうことです。

Next market-in(ネクストマーケットイン)とは

海外のバイヤーやデザイナーの視点を入れ、伝統の技は活かしつつも、海外のライフスタイルにも馴染むようなものを作ること


―外の視点を取り入れることで、どんどん広がっていきそうですね。

西堀:それが別に照明じゃなくても、建築の分野でもよければ、傘の茶室でもいいし。ドレスでもいいしっていう。最近ではホテルなどの建築空間で、照明だけではなく織物や欄間、木工、漆など、トータルにプロデュースさせていただく仕事も増えてきました。

下の写真は、ブライダルファッションデザイナー・桂由美さんとコラボしたもので、パリコレのときのものです。

▲ファッションデザイナー桂由美氏デザインによる傘のドレスとベール

西堀:桂先生にデザインいただき、傘のドレスと傘のベールを作りました。単に和傘を製作するだけではなく、自社のブランディングとして「クリエイティブな新しいことにトライできる工房」であることを打ち出した結果、ファッションデザイナーや建築家の方などとお仕事をさせていただく機会も増えました。

もちろん、商売なので売れるものを作る必要があるんですけど、同時に「いいものであること」を伝える必要もあります。そういう目に見えない価値というか、機能性だけではない付加価値が、伝統工芸に求められているように思います。


―確かに、機能性だけだと現代の製品に勝てません。

西堀:おっしゃる通りです。物語性なんですね、結局ね。美しいとか、綺麗とか、商品がいいっていうのは当たり前で、プラスαのユニークネスとか、独自性とか、物語が必要だっていうことを実感しています。

近年はここにSNSも入ってくるわけですが、いいものを作るのは大前提として、そうした物語を国内、そして世界に向かって発信していくことが本当に大切です。

日本の伝統工芸の世界進出を支援する「TCI研究所」を設立

日本の伝統工芸品を海外に向かって発信する。実践を通じて、自分なりに学んだその経験を「他の伝統工芸の支援に活かせないか」と考え、2012年に西堀さんが立ち上げたのがTCI研究所だ。
(TCI=Tradition is Continuing Innovation)

2021年より日吉屋クラフトラボに改名し、現地ニーズにマッチした「新商品企画・開発」、「バイヤー向け展示商談会」の開催や世界的な「見本市出展」、その「アフターフォロー」に至るまでの一貫したサポートをきめ細かに行っている。


―自社だけではなく、自分たちが培ったノウハウを共有し、サポートしていく取り組みですね。

西堀:そうですね、いわゆるコンサルティング的な業務になるわけですが、各事業のニーズに合った商品開発のサポートを行い、国内外のバイヤーやデザイナーの紹介も含めて、「商品を世界に届ける」お手伝いができればと考えています。

(第三話につづく)


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