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71 通常学級教員志望の方へ。自立活動って何?って言えない。【長編】

こんにちは。
眠り子です。

先日、4年間通った大学を卒業しました。
大学生活の中で、私は自分の学科用に開講されたものではない講義や演習も数多く履修していました。そうすると必然的に、自分の学科(通常学校の教員を養成する学科)の講義では扱わなかった内容に触れることになるのですが、そこには結構、いや教員になるならこれは知っておかないと駄目なんじゃない?というものが含まれていました。先日、自分が所属していた教育系サークルでそれらの内容をまとめて発表したのですが、折角なのでnoteにもしておこうと思った次第です。

もちろん、ここに書いてあること全てを把握していればそれで十分というわけではありません。また、教員にならない方であっても、知っておいて損はないことも多く含まれていると思います。
制度や法律の話が出てくるところは、長い文章をただコピペしたものをつらつらと貼るのではなく、見やすくした形で載せるようにし、直後に要約すると何を言っているのかも合わせて書くようにしました。また専門用語もできるだけ使わず、表現も平易なものを使うように心がけました。是非、教員を目指している方も、そうでない方も、読んでみてもらえればと思います。


1/10.共生社会の形成に向けて

突然ですが、共生社会という言葉をご存知でしょうか。
文部科学省から「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」という資料が出ているのですが(下線が引いてあるところは、クリックしていただくと、その資料等が掲載されているウェブサイトに飛べる仕組みになっています。以下同様)、この報告で示されている言葉を借りると共生社会とは、

・これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会

・誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会

であり、「このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である」としています。また、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があるとしています。

さて、インクルーシブ教育システムという言葉が出てきました。これは何なのでしょうか。同報告によると、インクルーシブ教育システムとは、障がいのある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、以下の3点を目的とします。

人間の多様性の尊重等の強化
障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な限り発達させること
自由な社会に効果的に参加することを可能とすること

また、そのうえで、

障害のある者が教育制度一般から排除されないこと
自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること
個人に必要な「合理的配慮」が提供される等

が必要であるとしています。

難しく感じられた場合には、とりあえず、「インクルーシブ教育システムとは、障がいのある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みのことなんだなぁ」くらいの認識でも大丈夫です。合理的配慮という言葉については、次章で説明します。

2/10.合理的配慮と基礎的環境整備

先ほど、インクルーシブ教育システムについて詳しく見た際、合理的配慮という言葉が出てきました。これは一体何なのでしょう。再び、同報告を見ると、

・障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うこと

・障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるものであり、学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの

とされています。
すごくざっくり言ってしまうと、「障がいのある子どもであっても、他の子どもと同じように「教育を受ける権利」を行使できるように、学校側は上手いこと環境を整えてあげてね。あ、でも、物凄く負担がかかるようなものは難しいと思うから、出来る範囲で、最大限行うようにしてね」といったものです。
車椅子の子どもが学校に入学してくるからといって、いきなり学校の至る所にエレベーターを設置するのは、基本的に難しいでしょう。そうではなく、あくまで現実的な範囲で、子どもや保護者の要望を叶えられるように、上手く折衷案を見つけて配慮をしてね、ということです。
この合理的配慮の提供は、公立学校では義務、私立学校でも努力義務とされています(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律 第七条、第八条)。

合理的配慮を語る上で忘れてはいけないものに、基礎的環境整備というものがあります。同報告によれば、これは、

・障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、教育環境の整備をそれぞれ行う。

・これらは「合理的配慮」の基礎となる環境整備であり、「基礎的環境整備」と呼ぶこととする。

・これらの環境整備は、その整備の状況により異なるところではあるが、これらを基に、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供する。

要するに、合理的配慮の提供を求められたときに、できるだけ相手の望んでいるもの(あるいはそれに近いもの)を提供することができるように、普段から環境整備を少しずつ行ってね、というものです。この基礎的環境整備によって整えられた環境を基に、学校側と子ども・保護者側との間で上手く折衷案を見つけ、合理的配慮を提供します。

3/10.障がいって何?

さて、今まで障がいのある子どもに対してのあれそれの話をしてきましたが、そもそも「障がい」とは何なのでしょうか?
例として、ある肢体不自由の方について考えてみます。

車椅子 階段

こちらの画像はいらすとやさんからお借りしました。
さて、ここで3つほど、皆さんに考えていただきたいことがあります。

Q1.この人にはどんな障害があるだろうか?
Q2.どんな環境整備がなされていれば、それはなくなるだろうか?
Q3.この人は障がい者だろうか?

目の前に階段がありますが、車椅子の方はそれをのぼってこの先に進むことができません。しかし、エレベーターやスロープがあれば、この人にとってこの先に進むことに関しての障害はなくなるでしょう。さて、この人は障がい者なのでしょうか・・・?

******

障害は「もっているもの」ではなく、その人と周りとの間に「あるもの」です。

例えば・・・
・眼鏡がなければ、視覚に障害があるとされる人は沢山いるでしょう。
・聴覚に障害があっても、補聴器や人工内耳といった道具をつかうことで、その人と周りとの間にある障害を減らすことができる(ここで減らすを太字にしたのは、補聴器や人工内耳といった道具を使っても、健聴者と同じように聞こえるようになるわけではないからです。誤解されがちな部分なので強調しておきました)。
・ASD(自閉症スペクトラム)と診断されるような人は、人とのコミュニケーションが苦手と言われることがありますが、コミュニケーションは自分と相手とで行われるものなのに、一方だけに責任があるなんてことがあるでしょうか?
・SLD(限局性学習障害)の人は、そうでない人と何が違うのでしょうか。学習障害とされる人は、子どもの多くが学校に通えない国でも障がい者となるのでしょうか? 等々・・・

その人が、障害をもっているのではないのです。
その人と、周りとの間に、障害があるのです。

これは、障害というものを考えるうえで、大切にしておきたい視点だと思っています。

(興味がある方はこちらもどうぞ:ICFの特徴をICIDHと比較しながら考えてみよう!

4/10.通常学級も無関係じゃない

ここまで読んで、「でもこれは障がいのある子どもがいる学校や学級の話で合って、定型発達の子どもたちが在籍している通常学級の教員になるなら関係ない話でしょ?」と思われた方がいるかもしれません。しかし、そうは言っていられないのです。文部科学省が平成24年に実施した調査では、「発達障害のある子どもをはじめとした、特別な教育的支援を必要とする子どもは、通常学級にもおよそ6.5%程度いる可能性がある」といったことが示されています。また、ここでは詳しくは触れませんが、発達障害以外の障害のある児童生徒が通常学級に在籍する可能性も十分あります。
(参考:障害のある児童生徒の就学先決定について(手続の流れ)

そのため、通常学級の教員になる予定の方でも、正しい障害理解が必要となります。ここでまた1つ、皆さんに考えていただきたいことがあります。

Q4.AD/HD(注意欠如多動症)の子どもってどんなイメージ?

5/10.正しい障害理解

さて、AD/HDの子どもってどんなイメージがあるでしょうか?
落ち着きがない、忘れ物が多い、他の子にすぐ手を出す・・・あたりでしょうか。では、何がどうなって、そのような特徴が現れているのかは、ご存知でしょうか。折角なので、AD/HDの診断基準から見ていきましょう。

診断基準は、真面目に書くと長いので、非常にざっくりとした形で書くと、「不注意」と「多動性、衝動性」が、12歳以前から複数の場において一定以上認められ、また、その状態が6ヶ月以上認められるもの、とされています。

また、AD/HDの主たる障害は、行動抑制の弱さにあるとされています。そのため、注意散漫や多動は二次的なものとする考えもあります。
したがって、AD/HDは行動を抑制したうえで物事を進める力の障害であり、知能の障害ではありません。そしてこれはつまり、「知らないからできない」ではなく、「知っていてもできない」ことが基本的な特徴であることを示しています。

また、AD/HDは、不注意優勢型多動性-衝動性優勢型混合型のいずれかに分類されます。不注意優勢型だと、おっとりした優しい子ぼーっとしていることの多い子少しうっかりやさんだけれど普通の子などの評価を受けることがあり、一見話もきちんと聞いているように見えるため、見逃されやすいです。
多動傾向が目立つ子に注意が向きがちですが、注意欠如多動症の名からも分かるように、多動よりも注意散漫が強く出るタイプの方もいます。何でもかんでも「あの子はAD/HD?」などと疑う必要はありませんが、気付きにくいところに支援や配慮が必要な子どもがいることも意識しておきたいものです。

6/10.支援の視点の例

では、そうした子どもにどう支援を行えばよいのでしょう。
AD/HDの子どもを例にとると、例えば以下のような例が挙げられます。

1つは、特別支援教育コーディネーター、医療機関(必要に応じて)などとの連携。AD/HDには、有効とされている薬がいくつかあり、必要に応じて中枢刺激薬や抗精神薬の利用などが考えられます。
しかし、もちろん薬を使わずに済むに越したことはないため、合理的配慮の提供を含め、まずは特別支援教育コーディネーター等との連携を行っていく必要があるでしょう。

(参考:特別支援教育コーディネーターとは?

2つ目は、AD/HD児の行動の背景まで含めて、子どもを理解すること。AD/HDの子どもは、「知っていてもできない」という特性から、「わがままな子」「反抗的な子」「怠けている子」「乱暴な子」などの誤解が生まれやすいです。知っていてもできない・・・これは辛いです。やってはいけないと分かっているのにやってしまう、やらなければいけないと分かっているのに出来ない。障害を受容することと許容することは別のことなので、何でもかんでも「あの子はAD/HDだから仕方ないよね」とすべきではありませんが、子どもに対して不当な叱責を行わないようにすることは重要です。もし自分に「知っていてもできない」という特徴があったら、そしてそれにより日常的に叱責をされていたら・・・、そう考えていただくのも良いと思います。

画像2

画像は、公益社団法人日本精神神経学会からお借りしました。
このように、表面的な問題行動を止める対応に終止すると、結果として悪循環を繰り返してしまうことになりかねないため、背景にある問題行動の意味に目を向けるが重要となります。具体的な問題行動の意味や教育手立て、問題行動対応における全般的配慮や実際の事例などは、以下の書籍などをあたっていただくのが良いと思います。

・小池敏英・北島善夫,『知的障害の心理学 発達支援からの理解』,2008
・橋本創一ら編,『障害児者の理解と教育・支援』,2015

また、保護者に対しても家庭での接し方などについて誤った指導を行ったりする可能性があり、子どもに対する配慮だけでなく、保護者との関係づくりにも配慮を要します。

もちろん、同じAD/HDと診断を受けている子どもであっても、人によって配慮事項も支援の方法も変わってくるでしょう。ここで挙げたのはあくまで一例であり、画一的な対処ではなく、その子に応じた配慮・支援が必要です。

7/10.障害の診断はされていないけれど・・・

これは、ある通常学校での出来事です(多少脚色してあります)。
Q5.について、皆さんならどのようなことを考えるでしょうか。

Q5.この子の頭の中では何が行われていたのだと思いますか?
(1)数学の授業で以下のような順でノートを取っていた子ども
問い.xの値を求めよ。 x-5=3
ノート
①x-5=3(ノートに問題を写した)
②x-5-5=3-5(両辺に-5を書いた)
③(首をかしげる)
④x-5+5=3+5(両辺の-に縦線を一本ずつ書き足して+にした)
⑤x=8  (④の下にこう書いた)

(2)三角比の問題を以下のように解いていた子ども

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(1)では、答えはあっていますが、その答えを導き出すまでの間に色々あったようです。(2)では左の直角三角形から、sinθの値は4/5が正解ですが、縦長の三角形を横に倒して、3/5としてしまったようです。

このとき、この子たちの頭の中では、何が行われていたのでしょうか。
サークルで以前発表した際には、参加してくれていた学生から意見を募ったのですが、大変様々な意見が出て、とても面白かったです。一つの物事に対して、こうじゃないか、こうじゃないかって色々と考えられるというのも教育者には大切なスキルの一つだと思っています。
皆さんは、どうお考えになったのか、それは大変気になるのですが(よかったらコメント欄に書いてください笑)、ここでは実際にこの子たちに「どんなことを考えてこうやって解いてくれたの?」と訊いた時の回答についてお話します。

この子たちは、音声情報の処理が苦手な子どものようでした。
人間には、視覚情報の処理が得意なタイプ(視覚優位)の人、音声情報の処理が得意なタイプ(聴覚優位)の人、その他の五感による情報の処理が得意なタイプ(体感覚優位)の人がいるそうです。
どの情報もそこそこ処理できて、その中でも特に○○からの情報処理が得意、ならばよいのですが、人によっては、特定の五感から得られる情報の処理が苦手な方もいます。この子たちは、耳は聞こえていますが、音声情報の処理が苦手なようでした。つまり、音としては入ってきても、それを意味のある情報として処理することに困難を抱えている状態です。またきっと、視覚優位のタイプでもあったのでしょう。(1)の子は、先生が一つ前の問題で両辺から同じ数字を引いていた板書を覚えていたようで、とりあえず同じように引いてみたそうです。(2)の子は、普段横長の直角三角形の方が目にする頻度が高く見慣れているため、まずはその形に直したとのことでした。

このことから分かるように、聴覚障害がない=音声情報を適切に処理できている、という図式は必ずしも成り立たないのです。しかし、この子たちは、耳は健聴者と変わらず聞こえているため、今の定義に照らせば聴覚障害があるとは言えません。そのため、見落とされやすく、配慮がなされにくいという特徴があります。本人が自覚していないパターンや、自覚していてもそれを言い出せなかったり、教員側が気付くことが出来なかったりするパターンもあるでしょう。
国語や英語は、問題文の中に答えが書いてあるような問題が多いです。また、板書を見返せば、授業内容が振り返れることも多いでしょう。
しかし、数学や理科は、問題用紙には答えのヒントとなることは書いていない場合も多く、また、実感として、式変形などの操作を行う理由や問題の考え方などは音声情報のみでなされることが多いような気がします。板書だけ見ても授業についていくのは難しい場面も多いでしょう(YouTubeなどに上がっている数学の授業動画を音なしで見ると結構分からなかったりします)。

画像4

これは、ある数学の授業動画を見て、板書通りに取ったノートです(多少脚色してあります)。数学が得意ならば大丈夫かもしれませんが、数学が苦手で音声情報の処理も得意でなく先生が喋っていることの理解が十分でない子どもが、後でこのノートを見て理解できるでしょうか・・・?

8/10.自立活動って何?って言えない

子どもとの関わりについての話をしていましたが、ここから少し毛色が変わります。タイトル回収ですね。自立活動の話をする前に、前提条件について確認しておきます。

通常の学級にも、障害のある生徒のみならず、教育上特別の支援を必要とする生徒が在籍している可能性があることを前提に、全ての教職員が特別支援教育の目的や意義について十分に理解することが不可欠である。

・障害のある生徒などには、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、言語障害、情緒障害、自閉症、LD、ADHDなどのほか、学習面又は行動面において困難のある生徒で発達障害の可能性のある者も含まれている。
【総則編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説より

まあ、要するに、「通常学級には、定型発達の子どもはもちろん、障がいのある子どもや、障がいの診断は受けていないけれど教育上支援が必要な子どもがいる可能性があるよ。だから、全教職員が特別支援教育について十分な理解をしてね」ということです。そして、2つ目では、ここでいう「障がいのある生徒」とはどういうものなのかを説明しています。

(参考:特別支援教育とは?

これを踏まえたうえで、次の3つの教室について見ていきます。

特別支援学級
障害のある児童生徒に対し、一人ひとりにきめ細かな教育を行うために、小・中学校の中に特別に設置された少人数の学級で、自立活動による指導などを行う。
通級による指導(対象児童生徒が在籍しているのは通常の学級
通級指導教室
障害の程度が軽い児童生徒が、殆どの授業を通常の学級で受けながら、通級指導の時間のみ通級指導教室に通い、自立活動による指導などを受ける。指導の対象となる障害は、言語障害、難聴、弱視、肢体不自由、病弱・身体虚弱、ASD、LD、AD/HD、情緒障害である。

特別支援教室(東京都)
対象となる児童生徒は、発達障害または情緒障害のある児童生徒。通級指導教室による指導では、対象児童生徒の多くが、他校に設置された通級指導教室に通っていたが、特別支援教室は、教員が学校を巡回することで在籍校で指導を受けることができる。

どれも障がいのある児童生徒のための教室ですが、それぞれ少しずつ違う点があります。
まず、特別支援学級では、子どもたちの籍は通常学級ではなく、特別支援学級になり、多くの時間をこの特別支援学級で過ごします。
一方、通級による指導(通級指導教室や特別支援教室での指導)を利用する子どもたちの籍は通常学級にあり、普段は通常学級で過ごすのですが、ある特定の時間にのみ通級指導教室あるいは特別支援教室と呼ばれる場所で指導を受けます。
次にこの、通級指導教室と特別支援教室の違いですが、通級指導教室による指導を受ける場合、それを利用する児童生徒の多くは、他校に設置された通級指導教室に通わなくてはなりませんでした。子どもや保護者が学校を移動するパターンですね。一方、特別支援教室(現在は東京都にしかありません)は、教員の側が学校を巡回することで、子どもは在籍校から離れることなく指導を受けることができます

そしてこれら3つの学級では、自立活動による指導などを行います。それでは結局、この自立活動とは何なのでしょうか。

******

自立活動って何?
・各教科等において育まれる資質・能力は、それぞれの体系に応じた思考力、判断力、表現力等の育成や学びに向かう力、人間性等の涵養について、バランスよく育成することを目指している。

・しかし、障害のある幼児児童生徒は、その障害によって、各教科等において育まれる資質・能力の育成につまずきなどが生じやすい。

・自立活動は、個々の実態把握によって導かれる「人間としての基本的な行動を遂行するために必要な要素」 及び「障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するために必要な要素」、いわゆる心身の調和的な発達の基盤に着目して指導するもの。
特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編 平成30年3月

ざっくり言うと、学校教育で行われている各教科等では、様々な能力等をバランスよく育成することを目指しているけれども、障がいのある子どもは、その障害によって、その育成につまずきが生じやすく、それを適宜補うものが自立活動、というわけです。自立活動には、6つの区分と27項目が設定されており、その中から、児童生徒の実態に応じて、必要なものを選んで指導を行います
自立活動の6つの区分と27項目
①健康の保持(5項目)
②心理的な安定(3項目)
③人間関係の形成(4項目)
④環境の把握(5項目)
⑤身体の動き(5項目)
⑥コミュニケーション(5項目)

通常学級の教員を希望していても、特別支援学級に配属されることになったり、自分のクラスに通級指導教室や特別支援教室に定期的に通う子どもがいたりする可能性は十分にあります。そのとき、「自立活動って何?」とは、言っていられないのです。
自立活動の更なる詳細については、『特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編 平成30年3月』や、自立活動について扱った書籍等のうち、自分が読みやすいものを当たられるのが良いと思います。

(参考:文部科学省 はじめて通級による指導を担当する教師のためのガイド

9/10.個別の教育支援計画と個別の指導計画

自立活動による指導を行ったり、障がいがあったり、特別な支援が必要な児童生徒と関わる際に避けては通れないものに、個別の教育支援計画と個別の指導計画と呼ばれるものがあります。

個別の教育支援計画(東京都では「学校生活支援シート」と呼ばれる)
他機関との連携を図るための長期的な視点に立った計画一人一人の障害のある子どもについて、乳幼児期から学校卒業後までの一貫した長期的な計画を学校が中心となって作成。作成に当たっては関係機関との連携が必要で、保護者の参画や意見等を聴くことなどが求められる。また、定期的に関係機関と連携したうえでの見直しを行い、修正を加えていく。(PDCAサイクル)
個別の指導計画(東京都では「個別指導計画」と呼ばれる)
指導を行うためのきめ細かい計画。幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法を盛り込んだ指導計画。例えば、単元や学期、学年等ごとに作成され、それに基づいた指導が行われる。

様式は各自治体によって異なりますが、様式例は以下を参考にしてください。
(参考:個別の教育支援計画を作成するために 徳島県立総合教育センター
(参考:文部科学省 個別の指導計画様式例

また、平成28年度、29年度に学習指導要領が改訂されたのに伴い、これらの計画の作成と活用についても変更が行われました。

今回の改定による変更点
特別支援学級に在籍する生徒通級による指導を受ける生徒に対しては、全員に対して、個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成と活用を行う。(義務

通級による指導を受けていない障害のある生徒などの指導に当たっては、個別の教育支援計画と個別の指導計画を作成し、活用に努める。(努力義務

・障害のある生徒などには、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、言語障害、情緒障害、自閉症、LD、ADHDなどのほか、学習面又は行動面において困難のある生徒で発達障害の可能性のある者も含まれている。

特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編 平成30年3月』には、自立活動の個別の指導計画については、各障害種ごとに指導計画例が載っています。

図1

10/10.他にはこんな子どもも

これまで、障がいがあったり、特別な教育的配慮が必要な子どもについての話をしてきましたが、最後に、こんな事実も知っておいていただけたらと思い、この章を書きました。

学齢期の小児慢性特定疾患(悪性新生物(がん)、慢性腎炎、ぜんそく、慢性心疾患、膠原病、内分泌疾患、糖尿病、先天性代謝異常、血友病等血液疾患、神経・筋疾患等)の子どもの多くは、特別支援学校ではなく、通常の小中学校等へ通っています。また、学校生活の中でも、定期的に服薬が必要だったり、授業を抜け出してトイレに行き、自分で注射を打ったり、チョコレートなどを食べて糖分を補わなければならなかったりする子どももいます。さらに、慢性疾患の子どもの中には、一見しただけでは病気と分かりにくいケースがあり、周囲の児童生徒から様々な偏見やいじめを受けることがあります

そのため、子どもの病気について正しい理解をもって欲しいと思います。
同じ病気であっても、症状や治療の仕方などは一人ひとり違うため、病名を知っているだけでは残念ながら不十分です。気を付けなければならない症状、体調が悪い時の対処の仕方、服薬や処置の仕方、運動や食事の制限などを知っておかなければなりません。そのうえで、他職種とも連携を取りながら、一日の生活のどのような場面で、どのような支援や配慮が必要かを検討する必要があります。

また、配慮が必要な事柄について、他の子どもや先生方にちゃんと説明できるでしょうか?「○○ちゃんはどうして~しないの?」「○○ちゃんはどうして~してるの?」「病気だから仕方ないよ」の一言だけでは、周りの理解を得ることはできないかもしれません。そのため、子どもの発達段階に応じて、分かりやすい言葉で具体的に伝えることが必要となります。また、病気の子どもについてではなく、LGBTQと呼ばれている方々についてはどうでしょうか

ただし、大事なことですが、誰に、どこまで、どのように伝えるかは、必ず、保護者や本人の意向を確かめなければなりません。取り扱うのは個人情報ですし、みんなにはどこまで伝えたいのか、何は知って欲しくないのか、どういう風に伝えて欲しいのか、誰が伝えるのか、誰に伝えるのかなどといったことは、必ず、保護者や本人と相談のうえで、決める必要があります。逆の立場だったら、自分のことを、知ってほしくないことまで担任がべらべら喋ってしまったら・・・嫌ですよね。

おわりに。

ここまでお読みいただいて、本当にありがとうございました。
今回は、主に特別支援に関する事柄を多く取り上げました。これらは、私がこれまでの4年間通常学級の教員を養成する学科で講義を受けていても扱われることのなかった内容です(今は1年生の講義で扱っているそうです)。しかし、大学で扱われないけれども知っておかなければならないこと、持っておきたい視点はまだまだたくさんあります。是非、様々な視点で、様々な分野に触れて、視野を広げていっていただけたらと思いますし、自分もこれからもどんどん視野を広げていきたいと思っています。最後におすすめの本やリンクを紹介します。興味のある分野からでも、是非目を通して頂けたらと思います。

ここまで、お読みいただき、本当にありがとうございました。
素敵な一日になりますように。

おすすめ本
・副島賢和,『あかはなそえじ先生のひとりじゃないよ ぼくが院内学級の教師として学んだこと』
・山口祐二,『チャイルドラインで学んだ 子どもの気持ちを聴くスキル』
・平野朝久,『はじめに子どもありき[教育実践の基本]』
・大村はま,『教えるということ』
・大塚玲,『インクルーシブ教育時代の教員をめざすための特別支援教育入門』
・加瀬進・高橋智,『特別支援教育総論』
・小池敏英・北島善夫,『知的障害の心理学 発達支援からの理解』
・橋本創一ら編,『障害児者の理解と教育・支援』

おすすめリンク先

病弱教育支援冊子や、病気の子どもの理解のために〈パンフレット〉学校の先生方へなどには是非目を通してもらいたいです。


参考文献

・小池敏英・北島善夫,知的障害の心理学 発達支援からの理解,2008

【総則編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説

・大塚玲,インクルーシブ教育時代の教員をめざすための特別支援教育入門

特別支援学校教育要領・学習指導要領解説 自立活動編 平成30年3月

病気の児童生徒への特別支援教育 病気の子どもの理解のために


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