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「しんじゃうおへや」を巡ってーその① 地元のはなし


私は先日「しんじゃうおへや」という劇に出会った。厳密にはYouTubeに大学の演劇研究会が投稿したものを観た。
元を辿れば、北海道 札幌を拠点として活動する「yhs」の作品である。その初演は2009年。その後は再演され続けた作品である。舞台は拘置所。登場人物たちの様々な感情がうごめく物語。
せっかくnoteを初めたので、分けながら書いてみる。

その① 地元のはなし

「しんじゃうおへや」の舞台は拘置所だ。

私の地元には拘置所がある。

電車に乗れば毎日車窓に見えるし、花火大会に行けば必ず通る場所だった。
拘置所の周りには官舎があって、やたら距離をとったところに塀があり、平然と佇んでいる印象だ。友達の家に行くのに遠回りせざるを得なかったことを思い出す。
なんなら年に1度、「矯正展」というイベントをやっていて、地元の有名なお祭りをやる所、なんて思っていた。
私の小学〜中学の記憶には、常に拘置所が身近にあった。
この建物の中で何が行われているのかは、私はうかがい知ることがなかったのだ。知らなくて当然だった。

その中で行われているのは、「死刑」である。
「しんじゃうおへや」の初演は2009年。その前の年の2008年、死刑者数がここ十何年の中で最多である15名であったことを知る。リアルタイムに観ていた人は、きっと違う映り方がしていたのだろうなと思った。
刑の方法は絞首刑。このような具体的な方法は1873年(明治3年)に決まってからというもの、現在に至るまで方法に変更はないとされている。
死刑囚への事前の予告は一切なく、当日知らされる。
遺書を書いたりするなどの時間は設けられるにしろ、死の瞬間は突然訪れる。
その死刑囚の命の手網は、1人が担うものではなく複数人で行うことになる。死刑執行に携わる刑務官には手当として3000〜5000円が与えられたという。
命の手網を掴む者に与えられるのが、その程度の額なのか。というのが個人的な印象であった。
知れば知るほど、私は近くにある建物に恐れを抱かずにはいられない。

平然と佇む建物の中のリアル。最も天国にも地獄にも近い場所だと私は思った。

次では劇の本編の話をしようと思う。

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