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「しんじゃうおへや」を巡ってー③ここはどこだ


場面は変わり、教誨師と三塚が現れる。
三塚が抱いてきた孤独が明るみに出るのがこのシーンの印象的な部分である。
「三塚さん、あなたの話を聞かせてください」
最初、私は「教会士…?」と思ったが、調べていくと「教誨師」という存在がいることを知った。
教誨師は、死刑囚と対話することにより、教誨(教え諭す)などを施す存在だ。
そして唯一、死刑囚と面接ができる民間人だという。
すると、この場面で三塚が過去を語り、一変して「お前が知りたいのはどんな風に人を殺したかじゃないのか!」と憤慨する一連の流れに納得がいった。

「人権がない」「害虫だ」と散々言われたにも関わらず、一方では優しく歩み寄る者もいれば、深い慈悲を与えようとする者もいる。
「許される/赦される」と「許されない/赦されない」の狭間で三塚は激しく揺さぶられる
彼はそれに耐えることが出来なくなっていく。
「いつ…俺は執行されるんだ?来週か?来月か?」「分からない」
本の続きを待ち望んでいた彼は、「死」を待ち望むようになってしまった。
ここで立ち戻ると、本を続き待っている時の会話には三塚自身が「生きたい」という感情があったのだろう、と考えずにはいられない。生から死へ。
その対比が、課長との会話を通して三塚の内心の変化を表していた。

「お前には人間らしく死んで欲しい」
この言葉は、課長の三塚への想いからきたものであろう。
しかし、三塚は再び「自分に人権はない」という意識や、先程吐かれた「お前は害虫だ」という言葉を思い出す。ここまでの語りで2人の関係性がわかる故に、この認識のすれ違いは心が痛くなる。
「お前が人殺しなら俺も人殺しだ」
課長は静かに自らの苦悩を零していく。
死刑前日、第1幕冒頭(一個前の記事)を思い出す。
課長は何故、回路を切っていなかったのか。死ぬかもしれない中で自らの首に縄をかけたのか。私はここでその答え合わせができた。彼も、あわよくば、死んでしまいたかったのかもしれない。
気丈に振舞ってきた課長。彼が隠してきた辛さが、最も色濃く出たシーンであったように思う。

「出るんだ」

この一言の後に、また女性が現れる。
事件の当日であろう場面が展開され、三塚が何を犯したのか、全てが明らかになる。
女性を襲いながら金品を強奪して罪を犯した。
その時の気分は?と問われると「よくわからない」と吐き出す。モヤモヤの正体を知りたい、そして繰り返される罪。それでもなおその正体は分からなかったと。罪を犯したことによって「人と人ならざるもの」の間を彷徨う罪人・三塚の姿を見た。
思い出すのは再び第1幕の冒頭の予行練習。
死刑囚役は金がなかった、という旨の話をする。テキトーな作り話は、この場面の伏線であった。
「お願い。許して。」
散々この劇中に繰り返された言葉を、最後は三塚自身が唱えながら照明が落ちていく。
終わりか〜。と思っていたら。
バタバタと訪れる電気工事士たち。
2幕の様子が再び蘇る。
えっ。また出てくるの?
そんな疑問と、2幕で感じ続けていた違和感が一瞬で飛んでいった。
第2幕は死刑執行翌日。
落ちたボタン。
「ここはどこですか?」と問う三塚。
女性は上を指を指す。
三塚は最後に全てを悟る。
「そうか」

幕が降りる。



全体的に重い内容ではあるが、考える暇を与えず終わってしまったので、見た後にいろいろ考えたくなる作品だった。登場人物たちが感情豊かだからこそ、自分の中にある様々な感情を思い出させた。

第2幕では電気工事士たちの死刑などへの「無責任さ」が際立つ。
これは、拘置所の周りを平然と過ごしていた私自身の立場だ。私だって「奇妙」だと思ったし、あそこで人が死ぬなんてことを考えれば、気持ち悪いと思ってしまった。

今まで第1幕第2幕…という表現をしてきたが、実際の時間軸と場面は、目まぐるしく変わり、終盤には一気に物語の焦点が定まっていく。登場人物たちの抱えるさまざまな感情が,
激しく展開される。

最期の三塚の零した「そうか」の言葉を、私も彼をなぞるように呟きそうになった。

「価値のある人間」と「価値のない人間」の線引きはどこにあるのだろうか。
三塚はどちらだったのか。さらには、自分は?と考えさせられる。
この作品は大きな問いを観客に投げかけた。

参考
全国教誨師連盟について http://www.jbf.ne.jp/event/prison_chaplain.html

https://honz.jp/articles/-/40148
https://times.abema.tv/posts/2660403

最新の死刑統計(2019) :AMNESTY https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/statistics.html

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