建築の街・コロンバスを見にいく (その②)
この記事は、アメリカ・インディアナ州にある小さな街・コロンバスに建築を見に行った見学記の続きです。
Cleo Rogers Memorial Library
ファースト・クリスチャン・チャーチの向かいには、図書館が建っている。これを設計したのは I.M. ペイ氏。彼が提案したと言われる前面広場には、ヘンリー・ムーアの彫刻作品が配置されている。このコーディネーションに見覚えが・・・と思ったら、9月に見に行ったワシントンD.C.のナショナル・ミュージアム東館と一緒だ。
程よいスケールとレンガの外装が街に馴染むこの建築を特徴付けているのが天井のデザイン。いわゆるワッフルスラブというやつだ。名前の通りワッフルのような見た目で床板の剛性を高め、梁が不要になる構法なわけだけど、空間のモジュールとして強烈に作用してくるのがとりわけ興味深い。なにせ途中で切ることができないから仕上面はワッフルの単位に合わせないとならないし、壁の位置もグリッドに乗せないと収まりが悪くなってしまう。どちらかというと設計の後半戦で決められる天井の割付が、この構法を選んだ途端に空間の秩序として卓越し、設計プロセスの逆転現象が起きている訳である。
結果としてできる建築は当然ながらものすごく「割り切れた」感じに見える。整数の足し算でカチッと建築を構成したようなイメージ。ある意味デザインの恣意を肯定し、絶妙なズレに満ちた向かいの教会(ファースト・クリスチャン・チャーチ)とは対照的である。それでも、退屈だったり大味に見えないのは、全体からディテールまで首尾一貫した、丁寧な設計がされているからだろう。
手すりや階段はもちろん、照明器具や消火器置き場まで、設計していると「ちょっと気になるかも」という部分には、すべからく気配りがなされている。なんだか見学に来たケンチク関係者の心を見透かされているんじゃないか、と思う程だった。
Irwin Union Bank + Addition / Cummins Office / Post Office
街の中心部へさらに足を進めると、すごい「並び」に出くわす。まず出会うのがエーロ・サーリネンのアーウィン・ユニオン・バンク。現在はカミンズ社の施設として使われている。
竣工は1954年。当時ガラス張りの銀行はさぞ真新しかったに違いない。外から見えるドームは、間接照明を照らし上げるためのもの。器具自体も3本のワイヤーだけで支持する仕組みになっていて、独特の浮遊感が演出されている。
こちらのサッシはノース・クリスチャン・チャーチと異なりスチール製。フラットバーとL字アングルを巧みに組み合わせて構成されている。こうして見ると、やっぱりスチールサッシは最近主流のアルミ製に比べてシャープ。バックマリオンもないのでファサードは随分クリアだ。ちなみに、ガラスはさりげなく複層になっていたので、丁寧に改修がなされた模様。
驚きだったのがカーテン。テキスタイルではなく、日本のすだれそのものだった。サーリネンが日本建築を参照したという言説は聞いたことがないから、偶然の一致だろうか。
この建物の後ろには、サーリネン事務所の番頭を務め、エーロの死後遺されたプロジェクト実現の立役者であるケヴィン・ローチ氏による増築棟がある。1970年代の建築とはにわかに信じられない綺麗なカーテンウォールの建物だ。グリーンのガラスにはストライプのプリントが施され、日射負荷の軽減に貢献しているらしい。サッシュの形状も角に面取りがしてあったりして、平滑に見せる工夫が伺える。
道を挟むと、さらにあと2つのケヴィン・ローチ建築がそびえている。ひとつはカミンズ社のオフィス。1ブロック丸ごとが建物で恐ろしくデカく、とても全景を写真に収められない。蔦で覆われたファサードから覗くプレキャストコンクリートの、大理石と見紛うような白さが美しい。もうひとつは郵便局。こちらは変わったプロポーションのレンガ?でできた外装が重厚な雰囲気を醸し出している。
(つづく)