見出し画像

読まずにはいられない〜「Dear Mom, Fuck You 無法の世界」に寄せて。

実は小説を読むことがめっきり減ってしまった。

そもそもボクは「脾臓」を食べたいとも思わないし、
「大人になれなかった」とグズグズ日々悔やんでばかりもいられない。圧倒的に人生はリアルだし、それなりに重い。やるならやらねばとプレッシャーもあるしそれゆえに響くんですよ。SNSでほんとにどうでもいいことを炎上目当てで薄っぺらい知識ではをたらたら書くヒマあったらオレはネトフリ観るしアマプラで大映ドラマ「スクールウォーズ」見るほうが有益だしさ。何度見ても泣ける中毒性、ありゃなんなんだろ。

そう思いながら今日もうんざりするため息をつきながらサブスクを開く。「奇跡ナメんじゃないよォ!仲間がいるよ!」とか「未来を変える権利は皆平等にある」なんて
イズムは残念ながらボクのココロには1回も刺さったことないしな。きっとこれからもそうだしそれでいいそれがいいんだ。響かないものは仕方ない。スルーでOKだよ。

昔、ちょうど80年代の終わり頃から90年代にかけてだろうか。少年サンデーで「おれのまんが道」という
連載があった。いわゆるマンガ家に対してのインタビュー記事で、サンデー出身のみならずライバル雑誌の
マガジンの看板作家だった楠みちはるのインタビューが掲載されてたりして面白かったんだが、
その中で石ノ森章太郎先生の回が今でも印象深い。
「オレはネ、今でも寝る前に本を2〜3冊、映画を1〜2本見ないと寝れないんだヨネ」
(こんな感じのことを言ってた)
ああーっと当時何者でもないボンクラなオレは思った。
とりあえず映画見なきゃということでレンタルビデオ屋で借りたタイトルは「アタック・オブ・キラートマト」。B級ならぬZ級のどうにもならないコメディ映画。
もちろんなんの参考にもならなかった。でも小林信彦をちゃんと読むようになったのはちょうどこの時期にあたるんだな。ちなみにボクは石ノ森作品、いわゆる東映特撮全盛期世代につきサンデーで連載していた「仮面ライダーBLACK」とか「HOTEL」にようやく間に合う程度の世代。あ、「番長惑星」は愛読してたな。パラレルワールドをめぐるむちゃくちゃな話だったけど。何がいいたいかってわかりやすさとか明朗快活さばかり重要視されてんじゃないのってこと。

「なんだかよくわかんないけどよかった」
「も一回、最初から。たぶんそれで腑に落ちる」
荒唐無稽って暴力にひたすら打ちのめされる。
ボクはそんな娯楽の形があってイイと思うのだ。

樋口毅宏氏の新作「Dear Mom, Fuck You 無法の世界」はボクにとって定期的に読みたい作家の待ちに待った新作小説で発売予告から1年の時を経てようやく発売されたのでやっとだよォォォォである。
初っ端からの飛ばしっぷりは全盛期永井豪の「バイオレンスジャック」を連想させるし、なんとなく読んでて「凄ノ王」に出てくるいかついガールズたちのエロスを思い出したりして。おそらく今本屋で読むことができる小説の中ではいちばん凄惨だし、行き過ぎた描写に顔をしかめるひともいるかもしらん。だけどね、読んじゃうんだな。ボクにとって小説ってそういうもんなんです。高校生の頃、村上春樹「羊をめぐる冒険」や村上龍の「コインロッカーベイビーズ」愛読しまくってたけど、暴力性は置いといてフィクションにどっぷり浸かるって点で言えば同じ目線の小説じゃないですか。

おそらく「小説」に求められてるもの自体昔とだいぶ違ってきてるのかなァと思ってる。じっくり物語に没頭ってことよりも「共感性」重視な気もするし。そもそもボクが手にとることが少なくなったのも「読みたい」物語がないから。地味にスゴいOLの話とかなあ、わざわざ文字で読みたくないんだよ。職業モノがやたら多いのはコミックエッセイと理由は同じなんでしょうよ。読み手の「共感」ポイントをできるだけ増やしたいってのはわかる、わかるんだけどさ、どうせならボクはバカバカしくても荒唐無稽なエンタテインメントを読みたいよ。文字だけで諸々を想像させ、読み手をとにかくぶん回す小説。よくわかんない清廉潔白さとかわざわざいらないよね。なんで2000円近く払ってそんなもん押しつけらんなきゃいけないのか。そんな金をもし正しき男子高校生ならば菊地姫奈の写真集買うんじゃないかな。買わねえか、いまの高校生は。「サマータイムレンダ」の1巻にドキドキしちゃう程度なんだろうしな。いや、ジャンプはイイのよ。実際いまのジャンプ、特にジャンプ+ものは小説にそのままスライドしたほうがイイぐらいマンガって枠組みにとらわれてない作品揃えてきてるもんな。

樋口毅宏の小説はどの作品も、今以上に読み継がれていくべきレヴェルのものばかりだ。今回の作品だって物語の中にさらりと忍ばせてる毒親、ジェンダー問題など作者なりの現代社会へのスタンスやさまざまなポップ・カルチャーへのオマージュなど「文字」で体感すべきエンタメとして成立してるのは読めばわかるさ、なんですよ。そしてそんな物語をばっちり表現してる江口寿史のイラスト。表1のキャラ、見れば見るほどその眼の深い哀しみに惹かれてしまうし表4のなんとも言えぬ表情はどうだ、、、あんまり書くとネタバレしかねないのでこの辺にしとくけど、いま書店で並んでる膨大な量の本の中で手にとる必然性は確実にあると思うよ。

だいたい書評なんてもんは「読め!」以上、ってことじゃないすか。音楽も映画も同じなんですけどね。器用に要約され、つるりと肌触りよさげなプレスリリースをもとに作成されたチョーチンめいたエロスもタナトスも皆無な文章を書くのはほんと苦手なんです。いま書店の大半を占める自己啓発本を読むのと同じぐらい苦手、ていうか時々あの手の読者層を全員殴り倒したくなるんだよなァ。柳沢きみお全盛期の名作「青き炎」の主人公みたいに。人間の欲望すべて大肯定、エロと金欲、出世欲の交差点的ストーリーだけど、「30分でわかる営業ノウハウ」「社内プレゼンが成功する秘訣」とかに1000円払うなら樋口毅宏の小説買ったほうがいいし、きっと明日は晴れやかに出社できると思うよ。とにかく手に取って読むこと。話はそれからだよ。

さて、次に樋口さんと会うときはちば拓「キックオフ」に潜む狂気とか、「リングにかけろ」のブーメランテリオスの謎とか、話したい件はバーゲンセール並にあるんだが、とりあえず最後に言いたいのは来年もさ来年も最低1冊新作読ませろコノヤローです。頼むわ(涙)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?