小説 プラル(2007年)

 わたしは自分が「プラル」だった頃のことを思い出している。体育の時間に「ヘレヘレ」を習った、きちんとできるまでに何年もかかった頃のことを。エメラルドの鉄棒に向かって、助走をつけて思い切りよく6本の後足を蹴って、勢い良く前足を巻き付かせる。その勢いでくるくると回転し、何回も廻った遠心力で、硬い甲羅で覆われている背中を反らして、向こうに向かってジャンプする。その時思い切り「べぎゃー!」と一声叫ばなければならない。その時のゼロコンマ秒の間で、如何に美しいフォームをつくって、飛ぶことができるかが問題になる。強い放物線を描いてジャンプした彼の身体は、あらかじめ用意された白い石膏質の壁にぶつかってぺしゃっと爽やかな音を立てる。すると肉体は青々と変形して、壁にべっとりとした跡をつけて消滅する。というか、まるでロールシャッハテストに使われるインクの染みのような形に変化する。その際この反応はほぼ完全な液状化をともなう。紫色をしている冬の寒さに、わたしの身体は汗腺から温度調節のための体液を多量に分泌する。そのせいでわたしの周りには生臭い匂いがたちこめる。

 儀式場の上空では、鳥達がきらきらと歌い、色鮮やかな全身を見せつけながら、いきなり水晶の粒の集合体に変身してひとりでに消滅していく。曇り空のせいで、ガス状の太陽がさんさんと照っている。式場の外では、赤土色をしている滝が流れている。その滝が赤土色をしているのは、赤土色をした人々の肉体が逆さまになって尽きることなく降り注いでくるからだ。ソルト人の集落が近くにあり、二千年前にさらってきたまま保存した、地球人の赤子を生きたまま調理して、生贄に捧げる。ところで、今やすっかりひらべったくなり、びしょびしょになってしまったわたしの体は、美的な審査を受けた後、6フレル時間すると、だしぬけに、もとの姿を取り留め始めて、3ピリン後には、審査員たちからピュレピュレを受け取る。わたしはヘクト星に住んでいたころ、この技を習得した。きちんと出来るまでに何年もの時間を必要とした。

(2007年ごろ書き始めて2012年頃完成)

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