詩 中庭で(2011年)

中庭で
空に向かって
おびただしい両手を拡げている
深いエメラルド色をしているケヤキの梢に
海の底のように青い水晶でできた鳥のように
だれかの憧れが眠っている
ずっと暮らした二階の窓の手すりに左手をかけて
こどもの頃のきみは視ていた
悲しそうな兄さんの声
亡霊みたいに
女の人の名を呼んでいた
全身麻酔を打たれて
冷たくなったままで夢の奥底に隠れている
忘れかけていたよるべのなさを
揺さぶり起こしにやってくる
そしたら両腕が石のように固くなる
切り出された石膏の表面に
緋色のインクで数字を打たれた
骰子が振られて
出た目に沿って
クリーム色に輝いている
鉛でできた英雄の人形が
欲望のアリバイを作りに出かける
神様の作ったボードゲームの上で

(2011年)

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