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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二部 四章 メダカの王様
744.サステナビリティ

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 ナッキがご機嫌に笑うのも無理は無い。
 この二十日の間に池のおもむきは一変していたのだ。

 水位が下がった上の池には、水底みなそこ一面に美しい水草が植え付けられ、水の流れにソヨソヨと揺らめいている。
 子供達の卵も同様に揺らめきながら、豊富な酸素量によってスクスクと育っているようだ。

 暖かな水温は植物性プランクトンの繁殖にも最適だった様で、二つの池には食べ切れないほどの餌が溢れ返っている。
 工事の半ば過ぎ位からは、植物性プランクトンを目当てにした動物性プランクトンも数を増やして行き、彼らを捕食しようと、線虫やボウフラたちの姿をも増やし続けて行ったのである。

 池の食糧事情は一気に解決、と言うよりも過度な飽食へと突入していた。
 メダカもモロコもカエルたちも、既に微生物に対しては興味を失ってしまっていた。
 味、ボリュームともに、より一層の満足感を感じられる、水生生物へと食指を動かしていたのである。

 只一人、下の池の仕上げに夢中になっていたナッキだけは、丁度そこら、近場に居る餌を適当に食べていた為に、偏食を避ける事が出来ていた様である。
 
 一体何がナッキを空前のグルメブームに乗り遅れさせたのか。
 それは、新生築地、今や、下の池全域にまで広げられた幾重にも重なり合った、水中要塞『メダカ城(改)』の魔改造が楽しくなってしまった事が原因だったのだ。

 最初からあった築地は更に強固で巨大な物に作り変えられ、途中からは白っぽい石だけを使用した事で白亜の要塞と化していた。
 ここは、ナッキとメダカのみならずモロコやカエルの全てを収容しても尚、半分以上の身を潜める場所が残るほどの大きさであった。

 その横にはモロコの希望を入れて新たに作られた築地、こちらは黒い石で統一して池のそこかしこに点在させ都合七箇所、それぞれの築地の間は連絡通路で結ばれていた。
 モロコ達は満足気な表情を浮かべ、勝手に『黒のごう』だとか『ブラックケイブ』等と呼んで嬉しそうにしていた。

 カエル達が本拠にした浮き草繁茂場所の水中にも、ナッキは彼ら専用の築地を建築したが、その姿はちょっと見ただけで気づく事は難しかった。
 建造に用いられた石は、全て水中苔に覆われた、緑や茶色、褐色の物ばかりであったからである。

 浮き草と言う遮蔽物しゃへいぶつだけでなく、彩り豊かな苔付きの石は水中と言う事も相まって非常に見つけ難い。
 更に言えば、カエル達の多彩な肌色ともどこか似通っており、丁度良いカムフラージュ効果も発揮していたのである。

 この築地は完成後、カエル達が器用な両手を使って作った、地下通路によって『メダカ城(改)』と『ブラックケイブ』と繋げられたのだ。
 カエル達はこのカラフルな築地を、『苔岩基地モスロックバスチャン』と名づけたようである。

 ナッキは巨大な築地、いやむしろ長城を見渡して満足そうな声を漏らした。

「よし、これで食べ物に次いで住む所の目処めども立ったぞ、うふふ、さてと、次は何をやろうかなぁ? うーん…… それか一度皆の所、ヒットやオーリのいる銀鮒の川を探してみたりしようかなぁ?」

「王様、少しよろしいでしょうか?」

 首を捻って考えているナッキに声を掛けたのはモロコのカーサであった。
 少し後ろには、サムと議長、カエルの殿様と側近たち、それにメダカの長老たちも揃っている。


拙作をお読み頂きまして誠にありがとうございました。


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