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堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
260.サパ

はじめての方はコチラ→ ◆あらすじ◆目次◆

「よし! じゃあトシ子、これを飲んでごらん! 見た目だけじゃなくて体調も若い頃に戻るからね! 只少しなまりの毒性でおかしくなるけど、聖女ってそもそも可笑しい感じだから問題無いだろう、んじゃどうぞ、コチラ側へようこそ!」

「うん、アタイ飲むよ、あんがとね」 ゴクゴクゴク

 ん、んん? なんか不穏な言葉が聞こえた気がしたが…… 良いのか?
 そんな私の心配を嘲笑うあざわらうかの様に、トシ子婆ちゃんは一切躊躇うためらう事無く差し出された液体を飲み干してしまったのである。

「ぷはあぁ~」

 次の瞬間、トシ子婆ちゃんを赤黒いオーラがもやのように覆い、その姿を包み込んでしまうのであった。
 コユキが慌ててアスタを問い質す。

「ちょっとアスタなに飲ませたのよ! 大丈夫なんでしょうね!」

「何って極々普通のワインだぞ、サパを入れてあるから甘くて美味いぞ」

 コユキはホッとした顔に戻り、重ねて聞くのであった。

「なんだ、ワインか、んでそのサパって言うのは? シロップかなんかなの?」

「そうだな、人間風に言うと『鉛糖えんとう』いわゆる酢酸鉛さくさんなまりってやつだな、昔から権力者が好んで常飲していた物だ」

「へー、高級品なんだぁ、良かった! 安心したわ」

 スプラタ・マンユの中で最も人間に詳しいモラクスが、険しい表情を浮かべながらコユキに告げた。

「コユキ様、あの…… 一応お伝えして置きますが、酢酸鉛、サパですが…… 古代ローマの皇帝達が好んで飲んだ物である事は間違いでは有りません。 その後の権力者たちも同様です。 そして、彼らは年を取るごとに奇行が目立つようになり、残虐性や猜疑心さいぎしんが天井知らずに高まっていってしまいました。 御存知でしょう? カエサルとかネロとか…… この国であればノブナガですとか…… 近い時代ではベートーヴェン、彼の聴覚を奪ったのもサパだと言われています。 彼がナポレオンの皇帝即位でエロイカの元題『ボナパルト』を破り捨てたのも、特段共和制に拘りこだわりがあった訳じゃなく、大分、やられちゃってたからなのです…… つまり、お婆様、トシ子殿にも影響があると思われますが……」

「えっ! そんなのやばいじゃないのっ! アスタ! アンタ何飲ませてくれてんのよぉぅ!」

アスタロトは涼しい顔で答える。

「ん? 大丈夫だと思うぞ、まあ見ているが良い」

 そう言って彼が見つめる先には、赤黒いもやが消え去った中心から、トシ子が姿を現したのだが、すっかり若返っていたのである。
 具体的には全体に真っ白だった頭髪は、ごま塩頭位に戻っていて、皺も半分ほどに減ったであろうか? 大体六十代中盤に見えた。

 しかし、不思議な事にコユキや善悪が見覚えていたり、写真やビデオに残されたトシ子の当時の顔付きとは、今のそれは何か変わった様な、大きな違和感を感じさせるのであった。
 何というか、顔付きがはっきりしている感じで、イラクやクェート辺りの人達みたいな彫りの深い印象を受けるのだ。

 とは言え、トシ子自身の体調はすこぶる良いらしく、皺が減って張りを取り戻した自分の両手を嬉しそうに見つめていたのであった。
 横に並んで座っていたアスタロトが優しく声を掛ける。

「大丈夫か? 念の為、一週間ほど時間を空けてもう二度飲めば、大体二十歳前後に戻れるだろう」

「うん、大丈夫どころか体調良くなったよ、うん、腰も痛くないし、ありがとねダーリン? ん? あれれ? な、なんか……」

 言葉の途中で不思議な顔を浮かべたトシ子は、アスタロトの顔を覗きこんでいる。
 数秒後、なにやら驚いた顔をしながら声に出すのであった。

「ま、まさか、こ、国王陛下? サウル様! ああ、お分かりになりますか? アタシの事!」

「おお、やはりトシ子はリヅパであったか! 我の予想は大当たりだった様だな!」

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拙作をお読みいただきありがとうございました!

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